第五十三話「水竜」
朝。
差し込む陽光のまぶしさと、頬に触れる“スベスベした何か”で、ショウはゆっくりと目を覚ました。
「……ん? なんだ、これ……」
まぶたを開いた瞬間――
「うわぁぁぁあああ!!?」
ショウは悲鳴とともにテントから転げ出た。
彼の頭上にいたのは、首の長いトカゲのような顔、泳ぐために進化したようなヒレ状の四肢。
その妙に澄んだ瞳が、きょとんとショウを見下ろしている。
「うわっ!? なんだこいつ!! 全然気づかなかった!?」
「敵か!? 倒せばいいのか!!?」
「ワンワン!」
「う〜ん、糸で縛られてるから状況がよく分からないわっ」
「セレナの安眠を邪魔するなんて……いい度胸じゃない? 死になさい??」
「いや、これっぽっちも寝てないわよ」
コメットが槍を抜こうとしたそのとき――
「待つでござるぅ〜!! それは水竜でござる!! 貴重生物でござるよ!!」
「「水竜!?」」
「水竜って……あの…?」
「……とりあえず食べれそうね?」
「ママ、ダメよ?」
「セレナが言うなら、やめとくわぁ」
「……あ、危なかったでござる……」
デヘンが切れてもいない息を整えて合流し、胸を撫で下ろす。
「……あの、水竜って?」
「水竜は昔は未確認生物とされていたでござる。だが二十年ほど前、ついにその存在が確実に記録されたのでござるよ」
「……危なくないのかしら?」
「発見当時は湖畔で現地の子どもたちと遊んでいたと記録があるでござる。基本的に人懐っこい生き物でござるな」
「むしろ……こいつ、懐っこすぎねぇか?」
「キューン」
水竜は甘えるようにショウの頭へ顎をのせた。
「あははっ……くすぐったいって!」
「おお、さすがショウ! もう懐かれたのか!」
そのとき、アンバーがトコトコと歩み寄り、ショウと水竜の間にすっと身体を入れた。
「ワンッ!」
「なんだなんだ? アンバーはショウが取られると思ってるのか?」
「ワウワウ」
アンバーの圧に、水竜は“あ、そういうわけじゃないよ”と言わんばかりに一歩下がって小さくお辞儀する。
「どうやら争う気はねぇみたいだぜ?」
アンバーは水竜を見据えて岩場へと進み、じっと向かい合う。
一分もしないうちに二匹は得心したように鳴き交わし、アンバーは空へ飛び、水竜は沼へ飛び込み、追いかけっこを始めた。
「仲良くなったみてぇだな」
「アンバーの新しい友達だね!」
「………友だち…」
ショウの表情が曇ったのに気づいたのか、水竜は遊ぶのをやめ、ショウのもとへ戻ってくる。
「……どうしたの?」
「キューン!」
「わっ!」
水竜はショウの服の襟をくわえ、ひょいと背中へ乗せた。
「ショウも友達だって言ってるみたいだな」
「キューン!」
「っ……ありがとう……!」
「キューン! キューン!」
水竜は嬉しそうにショウを乗せて沼をスイスイ泳ぎ回る。
「これだよ!!」
突然シンが叫んだ。
「うおっ、どうしたシン?」
「この水竜にホバーを引いてもらえば、運搬できるかもしれない!」
「それは名案ね!」
「楽チンだわ〜」
「でしょでしょ! デヘンはどう思っ……あれ?」
「う〜む……」
デヘンは腕を組んで地面に座り込んでいた。
「何をうなってんだ?」
「それが……おかしいのでござるよ」
「おかしい?」
「水竜は澄んだ湖にしか住まないはずでござる。少し濁っているだけでも去っていくのに……こんな泥沼に居続けるなど、異常でござる」
「そういえば私も聞いたことがあるわ〜……たしか…清らかな水を好む竜、ってね」
遊んでいたショウたちが戻り、シンは水竜に聞いてみることにした。
「あの……なんでこんなドロドロした沼に? 本当は綺麗な湖がいいんじゃないの?」
「キューン? キュンキュン!」
水竜はそわそわしながら首を上下させたりぐるぐる回ったりした。
「……全然分かんない……」
水竜はガーンッとショックを受け、しおしおと首を垂れて地面に顎を置いた。
そこへアンバーが歩み寄り、目を合わせて一声吠える。
「ワン」
アンバーはしばらく水竜を見つめ、それからショウへ顔を向けた。
「どうしたの……アンバー?」
ショウをじっと見つめる。その瞳に込められた意図は――
「……もしかして……アンバーと同じで……お父さんもお母さんもいないってこと?」
「.......ワンッ」
「少し間がある......じゃあ生きてるけど、ここにはいないって……こと?」
「キュン……」
「ワンワン」
「……そういうことみたいだね」
「子どもの水竜が一体だけ……親殿はあまり良い状態じゃなさそうでござる」
「すぐ探して助けよう!」
「それは無理だ」
「なんで!?」
「ここは沼地だ。底なし、毒生物、何が出るか分からねぇ。対策なしに歩くのはバカのやることだ」
「そんな! じゃあ助けられないの!?」
「コール……言い方……」
「はぁ……違ぇよ。俺は“対策なしは危険”って言ったんだ」
「! ってことは!」
「ああ。対策してすぐ出発するぞ」
◆
そのころ、沼地の奥――
洞窟と呼ぶには浅く、だが広い空間の中に、巨大な水竜が首を丸めて休んでいた。
入口には格子がはめられ、閉じ込められている。
そこへ三体の機械が姿を現す。
「ハァ……コイツ、ドウスル?」
「メンドクサイナ」
「……コロスノハ?」
「ナシ」
「ハコブニシテモ テイコウスルカラナ」
「ナンド ドウホウガ コワサレタカ……」
「ヒガイ ト リエキ ガ ワリニアワナク ナッテキタゾ」
「ツギダメナラ……ホンブニ レンラクシテ ショブン キョカ モラウカ」
「ソレガイイ」
「ツギノ オウエンハ イツクルンダ?」
「アシタノ ヨルダ」
「ハァ……ウンザリスルナ……」
三体はそろって、重い溜息をついた。




