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第五十話「最後の遊び」


 風圧だけが、セレナとデヘンの身体を押しつけた。


 気づけばエテ・パウパは、いつの間にか二人の背後へ立っていた。


「――っ!?」


「遅い」


 二本の棍棒が振り下ろされる。

 セレナはしっぽで受け流し、デヘンは球体に戻って衝撃を吸収するが、それでも二人は建物へ弾き飛ばされた。


「ぐっ……! 腕がないはずなのに、なんで……!」


「ぐおおぉ……! これは……まずいでござる……!」


「やっと面白くなってきたな。さあ、もっとだ」


 パウパの“腕”は装着されていないのに、本来の位置に浮かんでいた。


「あやつも条件磁石仕様でござる!」


「コールのトランクと同じ原理なのっ!?」


 エテ・パウパが再び姿を消す。

 見えない斬撃のような風切り音が四方から迫り、二人は必死に回避した。


 その速度は、これまでの機械とは桁違いのものだった。


「速すぎて見えないわ!」


「建物の壁を背にして進路を一つ潰すでござるっ」


「退路もひとつ消えるがな?」


「!?」


 いつの間にか真横に現れたパウパの蹴りが、デヘンを瓦礫の山へ埋めた。


「デヘンっ!!」


「ロングシュート」


「舐めてんじゃないわよ!」


 セレナのナイフが迫るが、パウパは容易く避ける。

 その顎へハンドガンを押し当てて発砲するも、これも軽く躱された。


「どんな反射してんのよっ!」


 棍棒の反撃でセレナが倒れ込んだ――ように見えて、しっぽで迎撃。

 先端から伸びたブレードがパウパの手首を狙う。


 だがパウパは武器を捨て、空いた手でしっぽの中程を掴み、そのまま投げ飛ばした。


「嘘でしょ!?」


「本当だが?」


 追撃の蹴りがセレナの腹を捉え、壁にめり込ませる。


「ぐがぁ……!」


「ふむ、やはり真剣に遊ぶとついて来れないか」


◆◆◆


「ガルルルルッ――グワァ!!」


 アンバーは翼をはためかせ、飛び込んでくる猿を前足で迎撃する。

 だが猿は直前で軌道を変え背後をとる。

 ホバーのオート射撃が咄嗟にカバーし、猿を撃ち抜くが致命傷にはならず、数を減らせずにいた。


「!?」


 上と横ばかりに警戒していたアンバーは、下からの奇襲への反応が遅れた。

 ホバーの射線の死角から迫る敵――だがその手は、なにかに弾かれた。


「やっぱカバーに来て正解だったな。アンバー、無事か!」


「ワン!」


「さっさと片付けるか……って、なんだあの動き!?」


「ワゥ……」


 コールも動きを追いきれず、接近を許してしまう。


「おりゃ!」


 ククリを投げるが、猿はキャッチせず避けてアクロバットを続ける。


「くそっ、こっちの手がバレてやがる!」


「アンバーお待たせ……って、コールも! 向こうは片付いたの?」


「ワンワン!」


「おう、あとはトドメだけだからこっちに加勢しに来た。それよりそいつは……?」


「これを使って猿の機械を倒すんだ!」


 ショウの手には、セレナの“元しっぽ”が抱えられていた。


◆◆◆


 ガラガラガラ――ッ!


 建物に埋まっていたコメットとドランクが瓦礫を粉砕して姿を現す。


「セレナが必死に戦っているのが聞こえるわ……早く助けたいけど、一本でも槍が欲しい……!」


「あの建物の壁に刺さってんの槍だろ? 取りに行こうぜぇ」


「まあっ! 最速で行くわよっ!」


「へいへい」


 二人は窓から跳び出し、槍の突き刺さった壁へ最速で向かう。

 だが猿が進路を塞ぎ、ドロップキックで叩き落としてくる。


「ぐっ!」


「このやろぉ!」


 あと一歩のところで邪魔が入り、結局ショウたちの元へ合流する。


「二人とも大丈夫ですか!」


「俺は大丈夫だ」


「セレナが危ないのよっ! 私のことなんてどうでもいいのよ!!」


「落ち着いてください。ぼくがこいつらを仕留めます。そしたらすぐにセレナのところへ!!」


「ロンがあいつらを仕留める!?」


「……ロンって誰だ……?」


「その説明は長くなるから後でで……!」


「とにかく皆は陽動をお願い! アンバー、行くよっ!」


「アオーン!」


「よくわかんねぇが任せろっ!」


 コール、コメット、ドランクが猿機を引きつける。

 トリッキーな軌道に翻弄されつつも、攻撃の手は緩めない。


「こっちだお猿さん!!」


 ショウの声が響き、アンバーと共に赤い槍の近くへ浮上していた。

 それを見た猿機たちは“侵入者”を逃すまいと一斉に接近――


『伸びろっ!!』


「!!?」


 ショウが抱える“しっぽ”が伸び、猿機四体を絡め取った。

 もがく暇もなく地面へ叩きつけられる。


「アンバー!!!」


「ガウッ!」


 滑空してきたアンバーが鉄爪に全体重を乗せ、絡まった猿をまとめて踏み潰した。


「よしっ! やったねアンバー!!」


「ワオーン!」


「セレナ、今行くわっ!」


 邪魔が消え、コメットは槍を一本引き抜くと、そのまま壁を足場に跳び、セレナの元へ向かった。


「ショウ! こっちも終わったよ!!」


「シン、無事トドメを刺せたみてぇだな? あとはパウパだけだぞ!」


「僕たちも行こう!」


◆◆◆


「ほら、どうした? まだできるだろう??」


「くっ、このぉ……!」


 セレナは片手で首を掴まれていた。


「何もないなら、このまま首をへし折るとしよ――」


「お嬢を離すでござる!!」


 青い機体に換装したデヘンが横から突撃するが、パウパはセレナを盾に使って受け止める。


「卑怯な……! これじゃまともに戦えないでござる……!」


 街中は狭く、デヘンの最高速も出せない。完全に手詰まり。


「おうおうおう……随分とうちの娘で遊んでくれたみてぇじゃねぇか。……死ぬ覚悟できてんだろうな?」


 紅い槍を肩に担ぎ、鬼のような女――コメットがただ一点を射抜く。


「次の遊び相手はお前か……」


「最後の遊び相手だ。覚悟しな」


「お嬢の母上殿ぉぉおお!!」


「おいトロイの、セレナを連れて離れろ」


「は、はいでござるっ!」


「ま……ママ……」


 セレナの安全を確認した瞬間――鬼が消えた。


 ギィィィイイイン!!!


 槍と二本の棍棒が、目にも留まらぬ速さで交差する。

 互角――完全なる死闘だった。


「いっ、いけるでござるよぉ!!」


「そいつはどうかな?」


「ドランク殿!?」

いつの間にか全員がデヘンとセレナのもとに集まっていた。


「どういうことです?」


「エテ・パウパは間違いなく強敵だ。いくらコメットが強いとはいえ、一人では勝てない……」


「……じゃあどうすれば」


「俺に考えがある。コメットは合わせられるだろうからいいとして……お前たちに作戦を説明する」


◆◆◆


「この速さについて来れるようだな。では、もう少し早くするとしよう」


「!?」


 槍を薙ぎ、その隙に同時に棍棒が二本振り下ろされる。

 明らかにパウパの“手数”が増えていた。


「まだ早くなるというの!?」


「驚くのは早い。お前が合わせられるというのなら――これの五倍の速さでも戦いたいものだがな?」


「何なのよ、アンタ!!」


「私はエテ・パウパ。それ以上でもそれ以下でもない」


「黙りなさいっ!」


 槍がパリィされ、コメットの胴がガラ空きになる。


「ゲームオーバーだな?」


 ズダァン!


 ライフル弾が割り込み、パウパが距離を取る。

 その背後へ、デヘンの体当たりが炸裂した。


「一対多か……悪くないな」


「おらぁ!」


「はああ!!」


 コールのスティレットを軽く弾き、シンのブレードを身体を反らせて躱す。

 アンバーの突進は跳躍で回避し、セレナの狙撃も身体を捻って避けた。


 だが――次までは避けられなかった。


「おぅらぁぁああ!!」


 ドランクのタックルがパウパの胸を砕き、壁へ叩きつける。


「今だっ! コメットォォオオ!!!」


「オラァァァァァ!!」


一槍いっそう緋閃一擲ひせんいってき


 紅く輝く槍がパウパへ一直線に突き刺さり、貫通して壁にめり込んだ。

 その身体を完全に固定する。


「残念だが、外れだな。コアからは数センチ離れているぞ?」


「そんなっ……!」


「動きが止まってりゃそれでいい」


 ドランクがタックル姿勢のままパウパの両肩を掴み、足を絡めてガッチリとホールドする。


「楽しい祭りの最後にゃ、どでかい花火がつきもんだからなぁ……」


「っ!! 貴様、まさかっ!!」


「行くぜっ――とくと見やがれ、酒場長の大往生!!」


『シャンパン・バースト』


 ドランクの腹部を中心に爆発が起こり、パウパの上半身が吹き飛んだ。


 残ったパウパの下半身からは、シャンパンが溢れ出るように火花が永遠に散り続けていた。

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