第四十九話「猿機 エテ・パウパ」
「ほら、どうした? ギガ・ワームを倒した者が、この程度とはな」
「チッ!」
二本の棍棒を自在に操るエテ・パウパが、素手のコメットを翻弄する。
コメットは六本の腕で受け流しながら懸命に隙を探るが、武器のない近接戦では圧倒的に分が悪い。
ズォォオオッ!
背後から接近したドランクが鉄爪を振り下ろす。
死角からの完全奇襲――だったはずが
「見えているぞ」
裏拳の軌道で棍棒が回り込み、ドランクの脇腹へ直撃。
巨体が壁まで吹き飛んだ。
「まだまだぁッ!」
「……しつこいな」
「動物園に帰りなさい!」
コメットとドランクは交互に攻撃を仕掛けるが、エテ・パウパは最小限の動きでそのすべてをいなし、逆に間合いの主導権を握っていく。
「なんなのよアイツ……! 他の猿よりずっと速いし、軌道が意味不明! これじゃママやドランクに当たっちゃう!」
セレナが援護しようとするが撃ち込む隙が見当たらない
「連携がなっていないようだな」
エテ・パウパは嘲るように笑った。
◆◆◆
コールは投擲を封じられ、スティレットと十手での接近戦を強いられていた。
「クソ、近接は問題ないが……数が多すぎる!」
一体に集中すれば、背後や側面から別の猿が襲ってくる。
「なんか良い手はねぇのか!」
「よいしょぉお!!」
「!?」
シンがブースターで跳び回り、猿たちの奇妙なアクロバットを真似し始める……が、真似しすぎて猿と同じ動きになってしまっていた。
「なんか猿もう1匹増えてねぇか!?」
◆◆◆
「後ろでござる! アンバー殿、回避を!!」
「ワンッ」
アンバーは身軽に跳び、デヘンは球体で体当たりして猿を吹き飛ばす。
「くッ……やはりお嬢を助太刀せねば!」
いても立ってもいられず、デヘンはセレナの方へ駆け出す。
「アンバー殿、ここは任せたでござる! 拙者は行く!!」
「ワン!」
「お嬢! すぐ向かうでござるよぉぉぉ!!」
デヘンが離れた直後、ショウとアンバーの前に六匹の猿が並ぶ。
その手には一本ずつ、赤い槍が握られていた。
「グルルル……!」
「……アンバー? どうしたの?」
アンバーは毛を逆立て、皮を被った猿機たちを睨みつけていた。
「殺された森の使者のために……怒ってるんだね」
「ヴァウッ!」
「よし、ぼくたちも戦おう、アンバー!」
「ワンワンッ!!」
◆◆◆
「ぐぁ、ぐがぁ……!」
「くっ! ああっ!!」
棍棒があらゆる角度から襲いかかり、ドランクとコメットは翻弄される。
そして――
「まだまだ行くぞ?」
一際大きなスイングが二人をまとめて打ち据え、建物の窓を割って室内へ吹き飛ばした。
「セカンドヒットくらいか」
ズダァーン!
セレナのライフル弾がパウパの頭部めがけて撃ち込まれる――が、空を切る。
「なぁ!? 完全に当てたと思ったのに!!」
「読みやすい弾道だな」
首を直角に曲げたパウパが、何事もなかったように答える。
「だったら!」
セレナはライフルを投げ捨て、ナイフを抜いた。
「接近戦とは思い切ったな」
「油断してると後悔するわよ?」
「ふむ、後悔か。味わったことはないな」
「はっ……行くわよ!!」
ナイフが横一閃に唸り、パウパが最小限の動きで避ける。
棍棒が返しの一撃を放つが、セレナも身を反らせバク転で回避――しっぽで棍棒を弾いた。
死角から迫るもう一本がセレナを捉えかけた、その瞬間。
パウパの巨体が吹き飛んだ。
「お嬢っ! 助太刀でござる!!」
デヘンの球体側面から展開されたマシンガンが、瓦礫の山へさらに追撃を浴びせる。
「デヘン、ショウはどうしたの!?」
「ショウ殿は決して弱くないでござる。アンバー殿もおりますれば問題ない。それよりコイツでござるよ!」
「分かったわ。デヘン、作戦がある。心して聞きなさい?」
「合点承知!!」
◆◆◆
「とめとめとめ止めてぇぇ〜!!」
シンは猿と同じリズムで跳ね続けていた。
その横で――
「あれ? なんでコールも同じ動きを?」
「お前の案を参考にしたんだよ」
コールも猿の動きを真似てバウンドしていたーー
がその手には投擲武器が握られている
「チャクラム投げるの!? さっきみたいにキャッチされちゃうよ!」
「同じ鉄は踏まねぇよ……そらっ!」
投げられたチャクラムを掴んだ猿が、なぜかコールへ吸い寄せられるように引っ張られ――
懐へ入ったところでククリが突き刺さった。
「条件磁石ってのは、こういう使い方もできるんだよ。テンスの助言だがな」
「す、すごい……けど別に同じ動きする必要無くない…?」
「おめぇのせいで猿の動きが読みにくいんだよ」
「それはごめん……」
「シン。真似るのは悪くねぇが、最後の一手は自分で決めろよ?」
「最後は……自分で…?」
◆◆◆
「警戒して!アンバー」
「ワウッ」
猿機たちがこちらに襲いかかるかと思いきや――
両側の建物に槍を突き刺し、それを足場に空中アクロバットを開始した。
「な、なんだ!?」
ショウとアンバーが動きを追っていると、いつの間にか二匹が左右から接近していた。
「いつのまに!?」
アンバーが翼を広げ飛んで回避。直後、猿同士が激突する。
「そうか……! 途中で二匹が抜けて襲ってきたんだ!」
仕掛けがバレても猿機たちは気にせず再び槍へ戻る――かと思うと、今度は上下から二匹が迫る。
「下は任せたよ、アンバー!」
「ワン!」
下から来た猿をアンバーが叩き落す。
同時に上から降ってきた猿へ、ショウが手元に展開したバックパックコンソールでEnterキーを押した。
ドンッ。
横合いから飛来した砲撃で飛びかかる猿の機械が上半身と下半身に分断される。
建物の影から煙を上げる砲塔をこちらに向け一台のホバー戦車がどっしりと構えていた。
「よっしゃ! やっぱりホバーは最高だね!」
「ワォーン!」
「アンバーこのまま一気に行くよ……って、数が減ったからやりやすくなると思ったのに……余計複雑な動きしてるよ!?」
「ワゥゥ……」
六本の槍にぶら下がる猿機が縦横にシャッフルされ、目にも止まらぬ速さで二匹ずつ接近してくる。
「ホバーのオート射撃じゃ避けられちゃうし、追い払うだけ……こんなのどうすれば………
あ!そうだ!! アンバー!」
「ワン!」
「ぼくをホバーまで連れて行って! それから少しだけ時間を稼いで欲しいんだ!」
「ワンワン!!」
アンバーがショウを抱えてホバー戦車まで飛ぶ。
ショウを降ろすと、
「時間稼ぎは少しでいいから、無理しないでね! すぐ戻る!」
「アオーン!」
アンバーは再び敵へ向かって飛び立った。
◆◆◆
「真似して……最後は自分で……よしっ!」
三匹の猿を前に、シンは同じ動きで合わせながら思考をまとめていく。
「おいシン! あとは任せる! 俺はアンバーに加勢するぞ!!」
「わかった! 任せて!!」
「いいか、自分の“得意”を活かせよ!」
「ありがとう!」
コールを見送り、シンは三匹へ意識を集中させる。
「……タイミングを合わせればいける。もう動きは読めた!」
猿たちのアクロバットに合わせ、自分のリズムで跳ぶ。
そして三匹が一点に重なる瞬間――
「ブースター全開! ブレード!!」
右手に展開した一本の刃で突っ込む。
猿たちは難なく避ける――が、
「想定内だよ、変形!」
『華突・咲斬過』
一本だったブレードが五つに分かれ、弧を描くように避けた猿たちをまとめて切り裂いた。
「手の内は……ここぞという時まで見せない。僕もジェフさんからの受け売りだけどね」
◆◆◆
「――で、こういう作戦でいくわよ!」
「いやこれ、拙者めちゃめちゃ危ない役では!?」
「戦ってる時点で全員危険よ! 文句言わない!」
「は、はぁ……」
瓦礫の山からパウパが土埃を払って姿を現す。
「まだ何か見せてくれるのか?」
「き、来たでござる……!」
「デヘン、合図したらやりなさい。アタシが完璧に合わせてあげる」
「こうなったら……覚悟を決めるでござる! お嬢のために!!」
セレナは瓦礫を台にライフルを構え、デヘンは球体で加速。
パウパへ一直線に突っ込む。
「真正面からとはな。容易く打ち砕こう」
「撃ち砕かれるのはアンタの方よ。存分に味わいなさい」
「ほう……それは楽しみだ」
エテ・パウパが棍棒を引き絞り、迫る球体へタイミングを合わせる。
その動きには、余裕すらも見える。
――だが。
「今よ! デヘン!!」
「お任せあれでござるぅぅぅ!!」
球体が間合い直前で爆ぜた。
「……?」
棍棒は虚空を斬り、デヘンの姿が消える。
「ここっ!!」
セレナのライフルが火を噴いた。
狙ったのはデヘンの砕けた装甲片。
弾丸は装甲から装甲へ跳弾し、速度を増してパウパの左頭部を撃ち抜いた。
「……ッ!」
頭部が弾け飛び、パウパの体勢が大きく傾く。
「アンタこそ、どこ見てんのよ! やりなさいデヘン!!」
「受けてみよ! 拙者の一撃!!」
いつの間にか球体に戻ったデヘンが空中からパウパへ落ちる。
その左右から丸ノコの刃が回転し――両肩へ叩きつけられた。
ギュィィィイイイッ!!
パウパの両腕が肩から落ちる。
デヘンの体当たりと共にそのまま巨体が背中から倒れ、地面がひび割れた。
「王手でござるぅぅぅ!!」
「やるじゃない、デヘン!」
「お嬢の為なら当然でござるっ!」
デヘンがセレナの横に着地し、胸を張る。
しかし――
砂煙の奥から、笑い声。
「……ふむ。なるほど。連携の質がようやく上がってきたな」
ゆらり、と影が立ち上がる。
左頭部は抉れ、片目は明滅し、両腕もない。
それでもエテ・パウパは、
笑っていた。
「いいぞ。遊びはここからだ」
次の瞬間――
音が、消えた。




