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第四十三話「愛の為の精巧さ」


「お教えいたそう……拙者が何故、精巧なアンドロイドを作ったのかを――」


静かな部屋にデヘンの声が落ちる。

彼はゆっくりと語り出した。


「拙者は十代の頃、酷いいじめに遭っていたでござる。

 心が壊れ、学校に行けなくなり……不登校になったでござるよ。

 元々機械いじりが好きだった拙者は、家に籠り、ロボットを作っては販売しておった。

 そうして、ある日――」


「――両親が再婚して、レミリアがやってきたのね?」

デヘンが小さく頷く。


「そうでござる。まだ言っていなかったのですが、レミリアは生まれつき身体が弱く、

 学校にも満足に行けなかった。

 だから拙者は、ほとんど付きっきりで彼女の面倒を見ていたでござる。

 それでも世話の合間に機械いじりは続けておった。

 ――そうして過ごすうち、拙者たちの間には“愛”が芽生えたのでござる。」


「うーん……でも、十八歳と七歳で結婚って、かなり無理があるんじゃない?」

「そんなに離れてるのっ!?」

「……離れてる以前に、法律的に……」


「そうでござる……。拙者たちには数多の壁があった。

 世間の目、親の目、そしてレミリアの身体の弱さ。

 どうすれば誰にも邪魔されず、愛し合えるのか――考え続けた。

 そして気づいたのでござる、“ゼウスの恩恵”に。」


「ぜっ、ゼウスの!?」


デヘンは深く頷く。


「今でこそゼウスは全ての元凶でござるが、当時はまさに新時代の象徴だった。

 人の意識を仮想世界に送り、現実へ戻ることもできる……。

 理想の技術と思えたでござる。

 ――ならば、仮想世界でなら誰にも咎められず、愛を確かめ合えるのではないか?

 だが、間違いなく規制がかかるでござる。

 ゆえに拙者は考えた。『ゼウスを応用し、独自に作った機械にレミリアの意識を入れれば、現実で愛し合えるのでは?』と。」


「それなら身体の弱いレミリアちゃんも自由に動けるわね」

「……暴走前に、人機が誕生していたかもしれない……ってことか……」

「目的は純愛でも、傍から見ればヤバい奴、だよね……?」

「……人として色々捨ててる気がするわ……」


「拙者がどう思われようと構わぬでござる。

 ただ二人だけの為に“愛を感じ合える機能”を備えた、精巧な少女型の機械を作ったのでござる。」


「……でも結婚は別じゃない?」

「成人してからでしょ?」

「そこに関しては問題ないでござる。拙者たちは血の繋がりがなかったゆえ、法律上は結婚できた。

 だが、それは成人してからの話……。

 それまで“愛を確かめ合うこと”を我慢できるでござるか? いや、できぬ! お嬢もそうでござろう??」


「っ!? そ、そんなの……っ////」

セレナは真っ赤になり、俯いた。


「ゆえに拙者は“成人前から愛を確かめ合うため”に、一体の精巧な少女機械を作ったのです。」


「……でも、私がセレナにプレゼントした時、その人形は大量生産されてたわよ?」

全員が「?」を浮かべ、デヘンを見つめる。


「……そうなのでござる。

 本来は拙者とレミリアのために作ったものだったが、父上に見つかってしまった。

 そして、“心を閉ざした人々を癒すロボット”として販売させてほしいと懇願されたでござる。

 拙者は本当の意図を言い出せず……父上の涙を前に、頷くしかなかった。」


「意図が……曲がって伝わったのね」

「それで量産された、というわけか」


「そういうことでござる……」


「……身体の弱い妹のためにロボットを作った、って話なら感動的だったのにね……」


静寂の中で、デヘンはふと顔を上げた。


「……拙者もひとつ聞いていいでござるか?」


「え? はい、どうぞ?」


「ゼウス暴走時、“未成年の意識は消滅した”。

 それが一般的な認識でござるが、今拙者の目の前にいるショウ殿は紛れもなく生身の少年でござる。

 ……説明をお願いできぬでござるか?」


ショウが静かに口を開いた。

「……実は、ぼく自身もなぜこうして生身のままなのか、わからないんです。

 三年前、ある村の真ん中で目を覚まして……記憶もなかった。

 シンと出会ってゼウスの話を聞いた時、すごくショックでした。

 でも、他にもぼくのような人がいるかもしれない……そう思って中央都市を目指しているんです!」


「……そうでござったか。して、次はどこへ向かわれる?」


「“人間の少女が巫女として保護されている”という噂のある、聖街セクリプレスへ。」


「!? ……人間の少女……? ……まさかっ! レミリアでござるか!?」


「それは、まだ分かりません……。でも、会ってみたいんです。」


デヘンはショウに縋りつくように言った。

「どうか……どうか拙者もお供させてはいただけぬかっ!」


「もちろんです! こちらこそお願いします!」


「……!! 本当でござるかっ!? ありがたき幸せ!」

「よろしくお願いしますね、デヘンさん!」

「新メンバー加入ねっ!」

「よろしくな!」

「セレナに従者……素晴らしいわぁ~」


和やかな空気が流れる。


「そういえばこの人形の見た目って――」

「本当はレミリアにしたかったでござるが、さすがに両親にバレるでご――」


笑い声が弾む中、少し離れた場所でシンがショウに囁いた。

「……優しいね、ショウは。」

「え? そうかな?」

「でも君はこの世界の希望……いや、なんでもない」

「…………?」

シンは何かを言いかけてやめた。


***


「よしっ! 準備完了だな!」

一行は滝の表側へと出て、旅の支度を整えていた。


「……カトレアさん、本当にここでお別れして大丈夫なんですか?」

「……ええ。私はもう少しここに残って、姉さんの弔いをします……」

「……そうですか」

「気をしっかり持てよ」


カトレアは小さく頷くと、ふらりとした足取りで研究所の中へ消えていった。


***


(――私は中学三年の頃、両親を交通事故で亡くした。

 姉のマルカは高校三年生だった。

 姉さんは生活費を稼ぐために

 新聞配達に飲食店のバイト、夜は内職……。

 常に妹の私を想って生きてくれた。

 誰よりも強く、優しかった姉さん。

 そんな姉を、私は心から尊敬していた……)


悲しい記憶が蘇る。

カトレアは研究所の制御室にたどり着き、机を叩いた。


「……こんな不条理、許せないっ!」

怒りの中で、右手がゆっくりとドクロ印のボタンに伸びる。


「自爆シーケンス起動。爆破まで十五分――」


アナウンスが鳴り響いたその瞬間、誰かが彼女の手を掴んだ。

ショウたちだった。


「あなたたちっ! なぜ!?」

「こっちのセリフですよ、早く脱出を!」

「私はいいの! 姉さんのいない世界になんて……!」

「じゃあ、お姉さんはどうなるんですかっ!」

「……っ!」

「あなたを守って、あなたに“生きてほしい”と願った――あなたのお姉さんはっ!」


ショウの言葉に、カトレアの胸が震えた。


「…姉さんは……私に…生きていて……ほしい……?」


「爆破まで残り五分!」


シンがカトレアの肩を支え、全員で出口へ走る。

外へ飛び出した直後、背後で巨大な爆発が起こった。


「……危なかったな」

「みんな無事みたい」

「……ごめんなさい。私のせいで……」

「いいんですよ。生きてここにいるんですから」


カトレアの中で、姉の言葉が蘇る。

――『カトレアが元気に生きていてくれれば、それでいいわ』


「……姉さん。私、決めました――必ず仇を取ります……!」


「いいんじゃねぇか」

「覚悟があるようね」


カトレアは力強く頷いた。


「……この森を抜けて荒野に出れば、“ウィル・フライト”という傭兵団があります。

 そこのハデットという人機に事情を話せば、きっと力を貸してくれますよ。」

「今、地図を書いてやる」

「ありがとうございます」

「こちらで情報を掴んだら、すぐ通信を入れますね」


カトレアは地図を握りしめ、走り出した。

その背に、確かな意志の光が宿っていた。




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