第四十二話「お別れ」
「な、なんだ!?」
「待たせたで候う……真打ち、見参でござる!」
押し潰されながらも誇らしげに腕組みするデヘン。その姿にコールが思わず叫んだ。
「なんだコイツー!!」
「あ、セレナ! 無事だったんだね!」
「ショウっ、あんたも無事でよかったわ!」
「……あれがショウ殿か。セレナお嬢のお友達でござるな?」
「そうよ! 大親友なんだからっ!」
「ならばご挨拶せねば!」
「……セレナ、その機体……それに、その人は?」
「こいつはデヘン! アタシを前よりもっと可愛くて強い機体にコンバートしてくれたの!」
「!? あなた、敵じゃないんですか?」
「とんでもござらん! 拙者はセレナお嬢を守る騎士にござる!」
「……それなら、いいですけど…本当に…?」
「おいっ、それよりあの化けモンをどうにかすっぞ!」
「あ、あれは……?」
「サディスが呼び寄せた機体だよ。やつは“レミリア”と呼んでいた……」
「!? あれが……デヘンの妹のレミリアなのっ!?」
その名を聞いた瞬間、蛾の少女がデヘンに視線を向け、口を開く。
「デ……ヘン……お……兄……さま……?」
「っ!! レミリア!? レミリアでござるか!!?」
「お兄……さま……」
「そうでござる! 兄のデヘンでござるよ!」
「お兄……さま、お兄、さま、オニイサマオニイサマオニイサマァァァアアアア!!」
突如、少女が狂気に染まり飛びかかってくる。
「レミリアっ! 正気に戻るでござる!!」
「アァッ、アァァァァアアアアア!!!」
羽音と共に蛾の少女が暴れ回り、床に幾つもの穴が空いていく。
「ッッ!! こうなれば仕方ないでござる!」
『チャージ&スタンバイ』
アナウンスが響く。
『了解、チャージ&スタンバイ』
『クイック! ムーブオン!』
鉄の塊がどこからともなく飛来し、デヘンの周囲で爆ぜる。
その破片が集まり、彼を包み込み、一瞬で丸い球体へと変形した。
「行くでござるっ!!」
球体が弾丸のように転がり、蛾の少女へ突撃。
激突と同時に側面から銃器が展開し、空中の敵へと弾丸を放つ。
しかし蛾はひらひらと避け、銃撃は虚しく空を切った。
「なんなんでござるかあの機体はっ!?」
「オヒョヒョヒョッ! それはデヘン、お主の記憶からコピーしたレミリアじゃよぉ?
十分働いた礼に、ここで妹に壊してもらうが良いぞっ!」
天井のスピーカーからサディスの笑い声が響く。
「サディス!! 私の姉をっ、マルカをどうしたのっ!!」
「お主はカトレアか!? 逃げ出したと思えば、また戻ってきおってぇ〜。
わしがどれだけ姉妹実験を楽しみにしておったと思うとるんじゃっ!」
「私が質問しているのっ! 姉さんをどうしたのよ!」
「そんなもん、お主が居なくなった時点で不要じゃ。スクラップになっておるわい!
ほな、さらばじゃぁ〜!」
「クソッ、逃げやがった!」
「ーー姉さんが……破壊された……?」
カトレアは膝から崩れ落ちる。
「サディスを追いかけなきゃ!!」
「追いたいけど……あの蛾が邪魔だ!」
「まずはあの羽を何とかしないと...」
アンバーが吠え、ブースターで突進する。
しかし蛾の羽裏からロケット弾が発射され、直撃。
「キャインッ!」
「アンバーっ!!」
落下するアンバーをコメットが空中で受け止めたが、その隙を突かれ、二人は糸で拘束される。
「くっ……動けない……!」
まともに動けるのはセレナとデヘンだけになった。
「どうか正気に戻るでござるっ!」
呼びかけても蛾の動きは止まらない。
彼女の瞳は、もはや理性を失っていた。
そして、蛾がセレナへ突進する。
「来なさいっ!」
「お嬢に手を出すなっ!!」
『チャージ完了』
「来たでござるっ!」
『ムーブオン・ブルーソニック!』
青いパーツが飛来し、デヘンと再合体。
その姿は鋭い戦闘機のように変形し、青く輝く翼が広がる。
音速の一撃が蛾の少女の進路を断ち切り、蛾の左腕が弾けた。
「たとえ妹でも、お嬢には指一本触れさせないでござる!」
「……かっけぇぇぇええ!!」
コールが思わず叫ぶ。
蛾の少女は一歩退き、警戒の色を見せた。
「ねぇ、デヘン……」
「な、なんでござるか、お嬢?」
「あなた、偽物とはいえ……妹を壊すのは辛いでしょう?」
「……そうでござるな……」
「なら、アタシの言う通りにして。アタシが、けじめをつけてあげる」
「……わかったでござる!」
二人は短く作戦を立て、散開する。
セレナは床に伏せ、対戦車ライフルのスコープを覗いた。
デヘンはレミリアの攻撃を躱し続ける。
「ほらっ、こっちでござるよ!」
何度も避け、退路を塞ぐように糸が張られたその瞬間——
「つっ、捕まるぅ! ……なーんちゃって、でござる!」
デヘンが合体を解除。青いパーツだけが糸に絡まり、デヘン本体は脱出。
「喰らうでござるっ!!」
腹部の砲門が開き、一発。
砲弾はレミリアの腰にぶつかり、彼女を糸の中央へと叩きつけた。
「……レミリア、もうお別れでござる。幸せにできなくて……すまない……!」
「後は任せなさい」
セレナの指がトリガーを引く。
ドォオン
銃声とともに、レミリアのコアが砕け散った。
蛾の少女は糸の中で静かに力を失い、動かなくなった。
「レミリア……!」
デヘンは駆け寄り、糸を断ち切ると彼女を抱き上げる
その身体は、もう動力を持たなかった。
「……ママっ、アンバーっ! 今助けるわ!」
セレナが糸を切り、仲間たちを解放する。
「ワンッ!」
「助かったわ、セレナ……射撃、見事だったわね」
「当然でしょっ!」
ショウとシンがコールを支えながら合流する。
「みんな無事でよかった。……あの人は、残念だったけど」
静まり返る中、デヘンの肩が震えていた。
「……彼らも、弔ってあげないとね」
あたりには、戦いの跡と赤黒い液体が広がっていた。
「拙者にも……弔いをさせてほしいでござる」
レミリアを抱えたデヘンに、カトレアが駆け寄る。
「デヘン! マルカは!? 姉さんはどこなのっ?」
「……知っているでござるよ。案内いたそう……こちらでござる」
「……僕たちは彼らのお墓を作ろうか……」
やがて、シンたちは墓標を立てた。
その傍らに、カトレアが鉄の塊を抱えて戻ってくる。
後ろを歩くデヘンの表情は、静かに沈んでいた。
「この方も弔ってほしいでござる……」
「……これは……?」
「……マルカ姉さんよ……」
「!? サディスの野郎、本当に……!」
「……あいつは絶対に嘘はつかないわ。…………あの時姉さんは……私だけを逃がしてくれた。
私が無理にでも連れ出していれば……!」
カトレアの拳が床を叩き、すすり泣きが響く。
静寂の中、誰も言葉を挟めなかった。
やがて、デヘンは涙を拭う仕草をしながら顔を上げた。
「……それにしても、皆強かったでござるな」
「おめぇもな。あの合体、マジでビビったぜ」
「どうやったんですか!? すごいです!」
「人機に服を着せるようなものにござるよ。構造的には簡単でござる」
「なるほど! なら拒否反応も出ずにカスタマイズできますね!」
「男に褒められても嬉しくないでござる!」
ふっと笑いが戻る。
だが、ショウの一言が空気を変えた。
「それと……さっきセレナが言っていた“少女の機体”を作ったのって……あなたですか?」
「拙者でござるが?」
「! じゃあ、十年前に——人と見間違えるほどの少女型ロボットを作ったっていう、あの……」
「いかにも。拙者の手腕によるものにござる!」
「……私がセレナにプレゼントした、あの……」
「デヘンが……セナを作った……の?」
――静寂。
デヘンは瞳を伏せて呟く。
「お教え致そう、拙者が何故、精巧なアンドロイドを作ったのかを……」
その瞳の奥には、思い出を懐かしむような遠くを見つめるデヘン自身が立っていた。




