第四十話「研究長サディス」
「……セレナッ!!」
ガラスが砕け、白い破片が散る。
コメットは咄嗟に少女のもとへ駆け寄った。
「セレナ! 大丈夫!? いま助け――はぁ? だれよ、あんたっ?」
作業台に横たわっているのはセレナに似た、上半身も下半身も蛇ではない普通の少女型人機だった
「これは拙者の愛しのレミリアでござるっ! 乱暴しないでほしいでござるよ?」
「別にそんなことしないわよっ。それより……セレナはどこなの? 教えなさい?」
「セレナ? そんな子は知らんでござるが、真のレミリアならそこにいるでござるよ?」
「レミリア、レミリアって……私はそんな子探してなっ……」
コメットが目を向けた先、セレナは尻尾で器用にボールを転がしていた。
「セレナっ!!」
「ママっ!」
二人は駆け寄り、互いに抱きしめ合う。
「もうっ、どれだけ心配したと思ってるの!?」
「ごめんなさい。でも、アタシは無事よ。今ね、デヘンが“もっと可愛くて強い”コンバート用の機体を組んでくれてるの!」
「……コンバート用の機体?」
振り返ると、実験台の上では、デヘンが鼻歌交じりに金属の少女型フレームを組み上げていた。
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ショウたちは、改造人機たちのあとを追って巨大な空間に辿り着いた。
そこでは白衣を纏った人機が背を向け、周囲を先程の人機たちが囲んでいる。
「オマエのセイでッ!!」
「ほガの仲間を解放ジロォォ!!」
「コロスコロスコロスゥゥゥ!!」
「オヒョヒョヒョッ……失敗作が吠えとるわい」
白衣の男がくぐもった声で笑う。
「お前たち?仲間なら全員ここにおるではないか?」
「……?」
白衣人機の口角が吊り上がる。
「狼に三人、鳥に二人、ゴリラに五人。寂しくないように、ちゃあんとくっつけてやったわい!」
「ナニっ……!?」
「俺に、三にン……?」
「僕に、フタり……?」
実験体たちの身体が硬直する。
「お前がサディスだな……!」
「クソみてぇな実験しやがって!!」
白衣の人機はゆっくりと振り返った。スポットライトが落ち、異様な笑みを浮かべた顔が照らされる。
「そうっ。わしがこのユートピア――ゲルマニカ研究所の研究長、サディス・ケミカルじゃよ」
「自分が何をしているのか分かってるのか!?」
「分かっとるとも。未来のために素材を磨いておるだけじゃ。……オヒョッ――なんじゃ!! そいつは生身の人間か? これは世紀の大発見じゃあ!」
「話にならねぇな。倒すぞ!」
「了解っ!」
「オヒョヒョッ! 新しい材料は活きがいいのぉ。いい刺激になるわい!」
「全員、囲めっ!!」
「ワンッ!」
「戦いやすいように明るくしてやろう」
サディスが指を鳴らすと、部屋の照明が一斉に点いた。
瞬間、全員が凍りつく。
壁一面に飾られた剥製。
その中に――翼をもつ大きな狼の姿があった。
「ガルルルルルルルルッ!!!」
アンバーが牙を剥く。
「アンバー……あれ、まさか……君の……?」
「ワンワンッ!!」
「オヒョヒョヒョッ! コラプトから貰ったんじゃ。実験材料としてはゴミじゃが、剥製作りが思ったより楽しくてのぉ、お陰で獣を狩りまくったわい。剥製最高♡」
その言葉で、アンバーの怒りが爆発した。
「グガァァァアアア!!!」
「行くぞ、みんな!!」
鋼と鋼がぶつかる音が、研究所を震わせた。
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「一度説明してもらおうかしら、セレナ?」
「だから言ってるでしょ? コイツがアタシを“もっと可愛くて強く”してくれるって」
「そっ、そうでござるっ!」
「あらあら! うちの娘がもっと可愛くなるなら大歓迎よ! トロそうな坊や? ドンドンやっちゃいなさぁいっ!」
「母上のご公認!? ならば全力でござるっ!」
デヘンのツールが閃き、火花が散る。
数分後、改造は完了し、無事コンバートが終わった。
その姿は、元々の少女型の人機に戻った――と思いきや蛇の尾が着いていた。
新しいセレナが目を開く。
その動きは滑らかで、まるで生身のようだった。
「ありがとね? 前より動きやすいわ」
「セレナ可愛いわぁぁぁ!」
「前のラミア感は残しつつ、幼女っぽさをあげたでござるっ!!レミリアは蛇の尻尾も似合うでござるなぁ〜」
「だからアタシはレミリアじゃないったら!セレナよっ、いい加減覚えてよねっ!ーー…まあでも……お礼は言っとくわ......ありがとね…」
「拙者、人生最大の歓喜でござるぅ!」
「……じゃ、アタシ行くわ」
「どこへ?」
「決まってるでしょ――サディスのところよ」
デヘンが目を見開く。
「……サディスに?」
「ええ。あの男を倒しに来たの」
「!? なら拙者も行くでござるっ! あいつから守れなかった命の弔いをせねばっ!」
「いいわ、案内しなさい!」
「合点っ! セレナお嬢!!」
その瞬間、天井が揺れ、何かが落ちてきた。
「っ!? なに――」
「ぐへぇっ!」
粉まみれで落下してきたのは、カトレアだった。
「やっと見つけました……! セレナさん、一体どこに……」
「ふふ、ちょうどいいところに来たわね。今から“サディス”をぶっ潰しに行くの!」
「っ!? 」
「お祭りねぇ〜!」
「お嬢に助太刀致すでござる!!」
三人の影が、冷たい照明の中で長く伸びる。
「なぜ、デヘンが裏切りを…?まあいい、これは好都合だわっ!!」
金属の床を叩く蛇尾の音が、戦場への序曲のように響いた。
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「オラァァァッ!!」
「うぉぉぉ!!」
「ガァァアッ!!」
三方向からの同時攻撃。だが、サディスは微動だにしない。
「手足が足りんのぉ」
蜘蛛のように八本に分かれた脚が、攻撃を仕掛ける三人の腕や前足を掴む。
その先端には人間の手が生え、ぬめるように絡みついてきた。
「うげぇっ、キモすぎっ!」
「これが便利なんじゃぞぉ?」
サディスが背中から丸鋸を振り下ろす
「知るかぁっ!!」
コールが反転し、蹴りで丸鋸を弾いた。
サディスの丸鋸が自らの脚を切断し、体勢を崩した。
「いまだっ!アンバー!!」
「ワンワンッ」
アンバーの突進が炸裂し、サディスの体を吹き飛ばす。
爆発。
停電。
『メイン動力停止、非常動力に切り替えます』
薄暗い灯がともる。
「サディスが……いない?」
「ヴゥゥゥゥッ!! ワウッ!!」
「上だ!!」
天井に張りつく影。
「いやぁ、久々にいい刺激をもろうたわい……少し本気を出すかのぅ」
降り注ぐ光の中、カマキリのような鋭利な姿――サディスが再び姿を現した。
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爆音が遠くから響く。
「戦いが始まったようね」
「早く行くでござるっ!」
だが通路の照明が落ち、闇に包まれる。
「停電っ!?」
「ライト点けます!」
カトレアが肩のランプを点灯した。
「扉が開かんでござるっ!!」
「どきなさい」
『一槍・鬼々剛突!!』
鋼鉄の扉を貫こうとした槍が弾かれる。
「……ビクともしないっ!」
「別ルートを探すでござる!!」
三人は闇の中、散開して走り出した。




