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番外編「バレッタの推し活」


 柔らかい印象の薄ピンク色の薔薇柄の壁紙。

 薔薇の花の形をしたダブルベッドの上に、彼女はいた。


「スーハ―……スーハ―……しょ、ショウきゅんのお洋服の端切れ……スーハ―……スーハ―……」


 恍惚とした様子で、布切れを両手で包み込みながら深呼吸を繰り返す。

 その様子は、他人にはとても見せられないものだった。


「ふふ……今日もいい香り....匂い分かんないけどっっ……♡」


 満足げに呟いた彼女――バレッタは、ゆっくりと起き上がり、壁際の本棚に向かう。

 一冊の本を押すと、「カチッ」という音と共に棚が沈み込み、扉のように開いた。


「こ・れ・ぇ・く・しょ・ぉ・ん・るぅぅうむぅぅ♡」


 全身で空気を浴びながら、優雅(?)にヌルっと奥の部屋へ入り込む。


 その部屋には――

 ショウの写真が、壁一面にびっしりと貼られていた。


「ショウきゅぅぅううん!!! おーはよっ♡」


 お気に入りの写真を両手でなでなでしながら、朝の愛を全力で注ぐ。


「ショウきゅんは私といつでも一緒……どこでも一緒だからねぇ~♡」


 写真に頬をすりすりしながら語りかける姿は、すでに正気の境界線を超えていた。


「……でも、でもでもっ!! あの小娘が一緒にいるなんてっ!! 信じられないっ!!

 わたぢもいぎだがったのにぃぃ~~~!!!!」


 だぼだぼの左袖を右手で引っ張りながら、悔しさを全身で表現するバレッタ。

 まるで負け犬のようだった。


「もういいわっ!! 一緒に行けないなら……愛を飛ばし続けて届けてみせるんだからっ!!」


 勢いよく立ち上がると、クローゼットの方へズカズカと歩いていく。

 そして、手を広げて宣言した。


「きょ・お・わぁ~! ショウきゅんの抱き枕を作っちゃうんだからっ!!

 もうすぐ完成して、これからはず~っと一緒に眠れるね?♡」


 完成間近の枕を抱きしめ、頬を赤らめて悶える彼女。


「そ・れ・で~、二人の気持ちが高まった時には~?

 あ~んなことや……こ~んなことだってっ!! きゃぁぁああああ/////」


 ――コンコンッ!


「バレッタ司令官! 入りますよっ!!」


「ひゃっ!?」


 突然の来訪者に飛び跳ねるバレッタ。

 だが、慣れた手つきで一瞬にしてすべてを隠し、部屋を元通りに戻して椅子に腰かける。

 ただ一つ、ショウの服の端切れがコートのポケットからはみ出していることに――彼女は気づいていなかった。


「入りなさい」


「失礼します。副官マーシャ、ご報告に上がりまし――!? 」


「?? どうしたのかしら?」


「い、いえっ……なんでもありませんっ……!」


 マーシャは、コートのポケットから覗く見覚えのある布に目を奪われながら返答した。


「? おかしなマーシャさんねぇ? ……それで、報告というのは?」


「はっ、はい! 先ほど、傭兵団のハデット殿が拠点に訪ねてこられまして。

 ショウ君の使いで来たと――」


「!? ショウきゅんのお使いで!? なにっ!? ラブレター!? 私へのラブレターなの!?♡」


「い、いえ……そうではなく……。

 傭兵団は先日、ショウ君たちの協力で略奪者どもを壊滅し、名を変えて“ウィル・フライト”と名乗るようになったとのことです。

 今後はショウ君たちに全面協力するため、連携を深めておいてほしいとの伝言を……」


「私のショウきゅんが……略奪者を壊滅!? 

 きっと私のことを思っての行動だわ~~////」


「我々は傭兵団の方々と連携を進めますので、司令官も指揮をお願いいたします!」


「りょ~かい、りょうかい、りょうかいで~す♡」


「……では、私はこれで――」


 マーシャが退室しようとしたその瞬間。

 バレッタの声が、静かに響いた。


「……ねぇ、マーシャさん?」


「ひっ……!!」


「……まだ、私に言ってないこと……あるかしら?」


「そ、そんなものっ! ありませんっ!! ありませんよっ!?!?」


「……そう。ならいいのだけれど……?」


「は、はいっ!! 全くっ!! まったくありませんっ!!」


「ふふ……そう。なら他のお仕事もあるでしょう? 退室していいわぁ~」


「はっ! では失礼いたしますっ!」


 ぎこちない動きで、マーシャは部屋を後にした。


「……怪しいわね……」


 バレッタは再び、奥の部屋でゴソゴソと準備を始める。


---


――一方その頃。


「副官、何とか隠せましたか?」


「ああ、危ないところもあったが、何とか……」


「……司令官はショウに執着しすぎ。あれじゃ誰も幸せになれない……」


「とりあえずこの“ショウ君との連絡端末”は、バレッタ様には内緒だ! 何としてでも死守するぞっ!!」


「ははぁ~ん? 怪しいと思って探ってみれば……そういうことだったのねぇ??」


「!?」


「この声は……!!」


「……見つかった……」


 ウィーン――。

 扉が開き、バレッタがゆらりと現れる。


「あなたたちっ!! 司令官命令よっ!!

 その“ショウきゅんラブコール端末”を私に寄こしなさいっ!!」


「ダメです司令官!! これは緊急用の通信手段! 愛を囁くためには使わせられません!!」


「……これは受信用。ショウの方からしか送れない……」


「ショウきゅんがそんな一方的な構造にするはずないでしょ!? 早く寄こしなさいっ!!」


「くっ……なんて鋭い! こんなに早くバレるなんてっ!」


「副官が演技下手すぎるだけですってぇ!!」


「仕方ないだろう!? 演技なんてしたことないんだ!! 文句があるならお前がやればよかっただろうが!!」


「嫌ですよ! バレたら真っ先に攻撃されるじゃないですか!!」


「上司に汚れ仕事を押し付けるなぁっ!!」


「っ!! パワハラ! 完全にパワハラですよ副官んんん!!!!」


「この終末に適用されるハラスメントなどないわっ!!」


 シェルンとマーシャがデバイスを押し付け合いながらわちゃわちゃしていると――

 ゆらりと近づく影に気付いた。


「いいから、さっさと寄こせやゴラァァアア!!!!」


 三人が一斉にぶつかり合い、争いはさらに激化。


「……ふっ、醜いな……」


「なんだとコラァ!? おめぇも混ざれ!! スクラップにしてやる!!」


「……フッ、これが正妻の余裕……」


「ぬかしてんじゃねぇぞこのやろぉ!!」


 もみくちゃになりながら煽り続けるバレッタを、二人が必死に押さえつける。


「副官っ! もっとしっかり押さえてっ!!」


「上司に口答えするなっ!! お前だって抑えきれてないだろうがっ!!」


「グッ……グガッ……グガァァァアアア!!!!」


 二人を跳ね飛ばし、立ち上がるバレッタ。

 その衝撃で、マーシャの手にあった端末が宙を舞う――!


 全員の動きがスローモーションになる。

 着地点を読み、三人同時に飛びつくが――


 間に合わず。


 地面に落ちた端末の画面に、パキッとヒビが入る。


『あああああああ!!!!』


 バレッタがすかさず拾い上げ、操作しようとするが反応しない。


「貸してっ!!」


 エリナが放心状態のバレッタから端末を奪い取り、確認する。


「……ど、どうだ?」


「……使えそう??」


「……受信はできるけど、送信系統だけ壊れてる……」


 その一言に、バレッタは再び膝をつく。


「……しょ……しょんなぁぁぁああああ!!!!」


 その後、彼女はマーシャにこっぴどく叱られ、

 端末はマーシャの厳重管理下に置かれることとなる


 ――バレッタは、一切触ることを禁じられたのであった。

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