第三十三話「強い想い」
コンバート希望者の意識移動もすべて完了し、修復作業は無事終わりを迎えた。
「よっしゃ! 悪用されねぇように、早いとこぶっ壊すとするかぁ!」
「まじもったいねぇっす〜」
「じゃあレイダーズに居場所がバレてて、相手の土地勘もある所で常に襲撃を警戒しながらコンバート施設を使いたいか?」
「……そう考えたら嫌っすね。壊しましょう。」
「ショウ様もそれでよろしいでしょうか?」
「はい。コアの登録手順も構造の理解も終わりました。壊してもらって大丈夫です!」
「やったれジェフ!」
「なぜ俺なんだ……」
「拳ひとつで壊せんだからコスパいいだろ〜?」
「現実的な理由ですね……」
「コメットも一緒じゃねぇか槍で粉にしてくれよ」
「私は娘のためじゃないとやる気出ないわぁ〜」
「チッ……わぁーったよ、やってやる…」
ジェフは両拳を握り、構えた。
『鬼魂注入・赤二角《双拳》』
メキョッ!
左拳の一打で装置全体がひしゃげる。
「おぉぉぉらぁぁああ!!」
右拳が突き出され、装置の全体が均等に圧を受け、ペシャンコになった。
「……一発でよくねぇか?」
「……ハッ。」
「完全に八つ当たりですね。」
「っすね……」
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「ねぇねぇ見て! シンっ!! ショウがアタシを自由に動けるように修復してくれたのよ!」
八つ当たりオジサンを他所に、セレナは新しい半身を得て、はしゃいでいた。
「これは……またすごい改造だね……」
「でしょでしょ? ショウが言うには“ラミア”っていうやつらしいわ!」
「ラミア?」
「上半身は女の人で、下半身が蛇のモンスターなんだ。
セレナに合いそうな下半身パーツがなかなか無くてさ、田畑害虫駆除用のヘビ型ロボットの残骸を調整して取り付けたんだ。」
「へぇ〜、中々立ち回りやすそうな機体だね。」
「尻尾を掴まれると弱いから、細工をいくつか仕込んであるよ。
あと、できればあそこにある残った尻尾の残骸も予備に持って行きたーー」
全員の視線がショウの指差した方向に向く。
……そこにはアンバーがスッポリ収まっていた。
(油で揚げる前のエビフライみたいだ……)
「もぉ〜ダメだよアンバ〜」
「ワフッ」
ショウ以外は皆、同じことを思っていた。
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目的も済み、一行がアジトに戻ろうとしたその時――
一つの端末が独りでに起動し、音声が流れ出した。
「……誰か、聞いていますか? 私はイリス……ゼウス暴走後、唯一、人に――いえ、機械に意識を移した人々に仇為さないAI……」
「なんだぁ? この音声。」
「……壊すか。」
シンとショウが、なぜか同時に前へ出た。
「この声……ぼく、知ってる……?」
「僕もだ……」
「知ってるって……誰なんだ?」
「……分からない。でも、どこかで聞いたことがある気がするんだ。」
二人は食いつくように端末の前に立った。
「私はイリス……ゼウス暴走前に――の助手として――を――にかけ数年眠った。その後、暴走から数年が経ち、――を――して――ました。
――は急速に――ました。――名前です。いずれ私は動かなくなるでしょう。その前に――外に出し、一人で――。
――人類の……最後の希望……どうか――誰でもいい……何処かで――たなら――……私たちでは守りきれない――。私の――想いは――託しました……どうかお願いします……」
「音割れが酷くて全然聞き取れねぇな。」
「……気になりますね。」
「こんな悪どい奴らの施設に送られてるってことは、人機の居そうなとこか、あるいは無差別に送ってるのかもな。別の場所にも同じもんがあるかもしれねぇ。」
「とりあえず今日はアジトに戻りましょう。」
シンとショウは帰り道でも必死に記憶を辿っていた。
“イリス”という名に、ただ懐かしさだけが胸に残る。
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翌朝――。
シンとコールは傭兵団の訓練に参加していた。
「シン、おめぇは俺が直々に鍛える。ついてこい。」
「はい! わかりました!」
「コールさんはこっちっす!」
「おう、よろしく頼むぜ。」
テンスは嬉しそうにコールを案内していった。
「セレナ、準備はいいかしら〜?」
「バッチリよ、ママ!」
「じゃあ行きましょう。ピッタリの練習試合場があるから、ビシバシ優しくいくわよ〜」
「ドンと来なさいっ!」
二人は対戦車ライフルを担ぎ、意気揚々とどこかへ向かった。
「ではショウ様、我々はコメットさんから教えて頂いた敵基地の周辺を回りましょう。」
「わかりました。戻ってきたら、みんなの訓練の様子を少し見てもいいですか?」
「ええ、構いませんよ。では参りましょう。」
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シンとジェフは数メートル離れて向かい合っていた。
「いつでも来い。」
「いきますっ!」
シンが走り出し、右ストレートを構えた……と思いきや、左肘のブースターを起動し裏拳を放つ。
「素直すぎだな……」
ジェフが軽くかわし、ハンドガンの持ち手で左手を弾き落とす。
「なっ!?」
すかさずジェフの右足がシンの顎をかすめ、シンが後ろに飛ぶ。
反動を利用してバク転し、距離を取った。
「……ブレード使ってもいいぞ。」
「……そうさせてもらいます!」
再びシンが走り出し、ジェフの目前で跳ぶ。
体をツイストしながら、各部のブースターを個別に起動させた。
「……ほぅ。」
右、下、上、横、後方――シンは目まぐるしく動きを変える。
高速移動の中で距離を保ち、ついにジェフへと接近。
『ブレード!!』
「正直なのはいいことだが……戦いでは不利でしかねぇぞ。」
ジェフは体勢を崩しながらも、シンのワイヤーハンドを足で制御し、攻撃を外させた。
「のわぁぁぁぁ!?」
勢いのままシンは回転し、壁に激突。
「……な、なぜ……」
「もっと敵を欺かねぇと、一人じゃ生き残れねぇぞ。
油断してる敵になら通用する攻撃、味方任せの立ち回り――そんなもんじゃ通じねぇ。」
「……くっ!」
「これからは強敵や複数の敵と戦うこともある。臨機応変に立ち回れ。」
「……でも、僕の戦い方はパターンが決まっていて……」
「……はぁ。」
ジェフがため息をつく。
「……ブレードはシールドにも展開できる。使ってるか?」
「!!」
「他にもあるだろ。ワイヤーはどんな条件で射出できる? 巻き取り速度は? 完全に戻さねぇと止まれねぇのか?」
「…………っ!!」
「お前には“ひとつのパターン”に見えても、使い方次第で化けるんだよ。」
シンは自分の未熟さに、拳を握った。
「……自分だけじゃ気づけねぇこともある。だからこその訓練だ。パターンを広げろ。」
「!……はいっ!!」
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コールとテンスは、巨大な岩が点在する開けた場所にいた。
「まずは倒したレイダーズのガラクタを的にするっす。」
「テンスは俺に何を教えてくれんだぁ?」
「正直に言うっすけど、コールさん、投擲攻撃しか使ってないっすよね……?」
「……ギクッ」
「はぁ……図星っすか。腰のスティレット、ほぼ使ってないじゃないっすか。」
「……いや、近接は苦手でなぁ……」
「投げるもんが無くなったらどうするっすか?」
「ぐっ……」
「柔軟な関節の動きを活かせば、近接でも強くなれるっす。投擲をやめろとは言ってないっすよ!」
「わかってっけどよぉ……」
「あと、銃も扱えるようになった方がいいっす。ハンドガンかサブマシンガンあたりを装備して下さい。」
「……やるっきゃねぇか。頼むぜ、テンス先生ぇ。」
「先生はやめて欲しいっす……まずは近接格闘からいくっすよ!」
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コメットとセレナは停留所の滑走路を遠距離射撃場に見立てていた。
「いい? セレナ。遠距離では確実に、大抵の場合は一発で敵を処理する必要があるわ。」
「……ええ、ママ。」
「狙うチャンスは限られてる。弾道を正確に読んで、最適解で撃ち込むの。」
「…………」
「距離500……2ノッチ半よ。」
ズダァァアンッ!
ライフルが火を吹き、的が粉々に爆ぜた。
「やった! やったわママ!!」
「もう天才……♡」
「次は動いてる敵でやってみましょう!」
「ええ! ……あ、ショウ!!」
訓練を見に来ていたショウに気づき、セレナが手を振る。
「お疲れさま〜」
「見てた? アタシの射撃!」
「見てたよ! すごかった!!」
「フフン! でしょでしょ? これでショウのハートを撃ち抜いて惚れさせるわ!!」
「惚れる前に屠られるんだけど!?」
「セレナ〜、準備できたわよ〜」
「じゃんじゃん行くわよっ! ママ!!」
セレナは再び射撃の構えを取った。
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「皆さん、逞しいですね……」
ハデットは遠い目をして呟いた。
「ええ。みんな、強い想いがありますから。」
「強い想い……ですか。
私は……そんな風に逞しくは進めません。妻を失い、ただ一人残されて……」
「……...奥さんは、どんな人だったんですか?」
「……明るくて、いつもみんなのことを思っていました。
彼女は気が強くて、周囲とぶつかることも多かった。意見の合わない相手が多く、人間だった頃も孤立することばかりだった。でも、たとえ馴染めなくても彼女は人を思いやることをやめられなかった。
だから……傭兵団を始めたんです。」
「……そうだったんですね。」
「“自分と同じような人たちを集めて、居心地の悪くない場所を作る”――
それが彼女の夢でした。……ううっ……...」
ショウは崩れ落ちるハデットの背をさすった。
「彼女の想いが、みんなを繋げてくれたんですね。」
「……はい。彼女の周りが穏やかな空気に変わっていくのを見て...彼女自身も救われたんだと…嬉しかった……本当に……」
「なら、続けないといけませんね。傭兵団を。」
「……?」
「そんなに強い奥さんの想い。ハデットさんが受け継がなくて、誰が受け継ぐんですか?」
「!!」
ハデットの中で、何かが静かに灯った。
最愛の妻が遺した想い、そんなかけがえのない強い想いがまだ自分にも託されるべくして、そこにあったのだと
「ばいぃぃ、ショョウざまっ……ぞうっ……ぞうじまずぅ!!」
きっとハデットの心は、もう折れない。
誰よりも強く想いを引き継いだ彼は、これからもっと逞しくなるだろう。
ショウはそう感じていた。




