第三十二話「親子の絆」
「アタシを……完全に修復して欲しいの!!!」
「…………セレナ、自分が何を言っているのかわかっているの……?」
コメットは自分を落ち着かせるように、低い声で問い返した。
「わかってる……わかってるわよ。ママがアタシを失いたくない気持ちも、ずっと離れずに育てたい気持ちも……!」
「……だったら、どうして――」
「それとおんなじくらい、アタシもママを失うのが怖いのよ!!」
「……セレナ……」
「もっとアタシを認めてよ! もっとアタシを頼ってよ!
ママの隣で戦うくらい、別にいいじゃない!!」
「……でもね、セレナ。私は――」
セレナはコメットの言葉を最後まで聞かず、後ろにいたアンバーに飛び乗った。
「アンバー、行くわ!」
そして補給所を飛び出していった。
「ぼく、追いかけます!」
《フローティングボード 起動》
ショウがボードを展開し、光の軌跡を残してセレナの後を追った。
「……おい、いいのか……?」
「……わからない。少し考えたいの……一人にしてくれる?」
「わかった。」
コメットは小さくうなずき、トボトボと補給所の奥へと歩いて行った。
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「ワフワフッ!」
「ありがとね、アンバー……」
セレナは補給所から少し離れた岩陰でアンバーにもたれかかっていた。
「なんでママは、すぐに“いいよ”って言ってくれないんだろう……」
「ワンッ。」
「こんな難しい話、アンバーには分からないわよね……」
「ワウ……ワンワンッ!」
「……アタシだって、ママやみんなを守りたいだけなのに……」
「ここにいた……!」
ショウが声を上げて近づいてくる。
「ショウ……」
「突然飛び出していったから心配したよ。ほら、戻ろう?」
「……ママ、怒ってるわよね?」
「そんなことないよ。すごく考えてたみたいだったし、セレナの想いもちゃんと受け止めてくれると思うよ。」
「……そう、かしら……」
「きっとそうだよ。」
セレナは少し俯いたまま、ぽつりと話し始めた。
「アタシね、ロンが来る前からずっと、ママが一人で育ててくれて……
ケガした時も、病気の時も、怖い夢を見た時も、どんな時もアタシのことだけを見てくれてた。
そんなママが大好きだったの。」
「…...うん」
「でも、ママが敵にやられちゃった時、気づいたの。
ママを守ってくれる人は誰もいない。ママは強いけど、ずっと一人じゃ戦えない。
――ママを守れるのは、アタシしかいないんだって。」
「……そうだね。一番近くで見てきたからこそ、わかることがある。」
セレナは涙を拭って、まっすぐショウを見つめた。
「ショウ、お願い……! アタシを全修復して。
アタシはママを守りたい。そして、みんなの力になりたいの!!」
「ぼくは構わないよ。でもまずは、コメットさんを説得しよう。ぼくも手伝うよ。」
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その頃、コメットは補給所の滑走路に立ち、夕日に染まる空を見上げていた。
「コメット、大丈夫か?」
現れたのはジェフだった。
「……大丈夫じゃないわよ。
一度失いかけた娘が、また自分から死へ近づこうとしているのよ……
それを手を振って見送るなんて、親なら誰でも止めるわ……」
ジェフは少し間を置いて、静かに口を開いた。
「……俺ぁ息子がいたんだ。ジャックって名前でな。立派な漢だった。」
「あなた、既婚者だったのね? 意外だわ。」
「フッ。俺もあんたと同じで、息子を戦いに出さず、いつも後ろで守ってた。
戦い方なんて一つも教えずにな、“俺に何かあったら逃げろ”――それだけを教えてた。」
「…………」
「でもな、ある時機械軍の部隊に出くわしてよ。酷いもんだった。
俺と息子以外、全滅だ。あと一体ってところで弾が切れ、
気づいた時には、敵の刃が振り下ろされてた。
……けど、切られたのはジャックだった。」
「……っ!」
「息子は俺を守って、身代わりになったんだ。
必死に敵を倒して街に運んだが、小さな町にはコンバート設備なんてない。
どうしようもなくて、手持ちのパーツで修復したんだ。……そしたら直っちまった。」
「…………それって……」
「……そう。直ってなんかいなかった。
最初はよかったが、時間が経つにつれ、ジャックは我を失って暴れ出した。
町の人機が総出で抑えようとしたが、取り付けたパーツが暴走して攻撃してくる。
……少し経つと町は壊滅。地獄だった。」
「……じゃあ、どうやって止めたの……?」
「俺はただ……終わらせてやっただけだ。」
「……!」
「俺は……実の息子を……破壊したんだ。
拒絶反応で自我が消えたら、もう戻らねぇ。
だから……俺の手で終わらせた。」
ジェフは天を仰ぎ、声を押し殺した。
「……ごめんなさい、嫌なことを思い出させてしまって。」
「いいさ。未来の犠牲者を減らすためならな。」
「……私たちのこと、ね。」
「ああ。
コメット、心配なのは分かるが、一方的じゃ駄目だ。
“心では通じてる”なんて信じちゃいけねぇ。
言葉で繋いでおかないと、いつか切れちまう。
アイツの想いとお前の想い――ちゃんと繋げろ。
そうすりゃ、きっと一番いい道になる。」
「……二人の想いを、繋ぐ……」
コメットはジェフの方へ向き直り、力強く頷いた。
「ありがとう。あなたのおかげで前に進めそう。」
「そいつは良かった。」
「戻りましょう!」
「ああ。」
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やがて、セレナがショウとアンバーを連れて戻ってきた。
夕日の光が三人を包み、空気が少しだけ柔らかくなる。
「……ママ、あのね……?」
「…………セレナ。」
セレナはビクッと肩をすくめた。
「ママはね、この世で誰よりもあなたが心配なの。
あなたさえいれば、他には何もいらないくらい、大好きよ。」
「……うん、ママ。」
「今まで、私が守っていればそれでいいって思ってた。
私が全てを背負えば、あなたを幸せにできるって信じてた。」
「…………」
「でも違ったわ。
私があなたを好きなように、あなたも私を好きでいてくれる。
――好きな人がピンチなら、助けたいと思うのは当たり前よね。」
コメットは一瞬だけジェフの方を見て、またセレナを見つめた。
「……だから、これからはあなたも私を守って。
お互いに守り合って、お互いのために戦う。それが一番いいと思うの。」
「ママ!!」
二人は強く、強く抱きしめ合った。
再び結ばれた“親子の絆”を確かめ合うように――。
「セレナ、だーいすきっ!!」
「えへへっ、知ってるわ! ママ!!」
「あっ! でも近距離で戦うのはダメよ? 中距離……いえ、遠距離がいいわ! 使い方はちゃんと教えてあげるから!」
「も〜、ママぁ〜!!」
二人の笑い声が補給所に響く。
その場所には、誰もが懐かしさを覚えるような温かい空気が流れていた。




