第二十四話「新たな仲間」
コメット「最古参の貴方たちの名前は"サイコス"1週間くらいでこのメッセージは消えるから、私と貴方たち以外は知らないわぁ〜」
ショウたちは何日か滞在し、復興の手伝いをしながら次の目的地――聖街を目指す旅の準備を進めていた。
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「これでよしっ。軽い修復をしただけなので拒否反応は出ないと思いますが、今日の作業は止めて、無理に動かないようにしてくださいね」
ショウはリペアツールで赤薔薇やフェムニカの人機たちの修理を行っていた。
「あ、あのっ!ありがとう……あっ、握手してもらってもいいかしら?」
「構いませんよ?」
「キャー!ありがとう!!もうこの手、一生洗わないわ!!」
修復を受けた人機が全速力で去っていった。
「いや、人機は洗う必要……そもそも洗えないんじゃ……?」
「……それだけ修復してもらえるのが嬉しいってことだよ」
「エリナさん……」
エリナが水の入ったコップを差し出した。
「お疲れ様。少し休憩したら?」
「はい、ありがとうございます。もう少しだけ診たら休憩しますね」
「……ショウは頑張りすぎる。私たちはどうとでもなるけど、あなたは生身の人間。そうはいかない」
「あはは、そうなんですけど、放っておけなくて」
「……ショウがそこまで言うなら、止めない」
「ありがとうございます」
エリナは腰に手を当てて宣言した。
「……なら、私も手伝ってあげる」
「それは助かります!では次の人を呼びますね?」
次に入ってきたのは、テケテケと動くセレナだった。
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「ロンっ、次はアダジを診でヂョーダイ!
(ロンっ、次はアタシを診てチョーダイ!)」
「セレナ!?コメットさんは?ダメだよ、一人で来ちゃ!!」
「イイのよママなんで!ぞれよりばやぐ直じでぢょうだい!!ガラダが戻れば、ママに背負われずにもっどロンどいっじょにいられるわ!!」
「セレナ〜どこに行ったのぉ〜出てきなさ〜い」
「ム!?もうママがぎだ!がぐれなぎゃ!!」
カサカサとセレナが移動すると、診察室にコメットが入ってきた。
「あらあら、こんな所にいたのセレナ? ダメよぉ?も〜離さないからねぇ〜」
壁に掛けられていたハンガーの上からヒョイっと持ち上げられ、セレナはコメットの背中に収まった。
「お邪魔しましたぁ〜」
「じごぐみみ(地獄耳)」
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「……行っちゃったね」 「……そうですね」
「…ふしぎ、コンバートしたはずなのに元の機体にも意識があるなんて……」
「マーシャさんの話を聞く限り、本当のセレナちゃんは十年前に居なくなっちゃってるはず……」
「…じゃあ、あの子は一体……?」
「これは僕の仮定なんですけど――あれは、コメットさんだと思います…」
「!? …でもコメットは紅修羅に意識が移ったはず。実際、記憶も前みたいにセレナを名乗らなくなっ……あっ!」
「そう。今、元の人機に入っているのは、コメットさんが“記憶の中で創り出したセレナ”なんだと思います」
「……そんなこと、ありえるの?」
「分からない。でも暴れる様子もないし、いいかなって思うんです」
「…確かに。むしろセレナがいなくなれば、コメットさんが暴れそうだし……」
「幸せな現状を、わざわざまた絶望に落とす必要もない。勝手にどこか行かれても心配だから上半身までの修復と、あと声を重点的に直してあげましょう」
「……それがいい」
「よし、思わず休憩もできたし、診察再開っ!」
「……んっ、わかった」
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その頃、シンとコールは訓練場にいた。
「今日はよく来てくれた。これより私が直々にお前たちの戦闘訓練を行う!」
「こちらこそ、お時間を作っていただきありがとうございます!」
「俺たちも常に進化しなくちゃならねぇ。腕を上げる絶好の機会だぜぇ」
「フッ!全力で来い。手加減はしてやる!」
「言ってくれるじゃねぇか、後悔すんなよ?」
「負けませんっ!!」
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居住区の通路。背中に背負われながら、セレナがコメットに声をかけていた。
「ねぇ…ママ……」
「ん〜?どうしたの、セレナ?直してもらってよかったわねぇ」
「ロンたちはもうすぐ旅に出るそうよ……」
「……あらぁ〜、そうなのねぇ〜」
「アタシたちはこれからもずっとここに居るの?」
「……う〜ん、そうねぇ?」
「…………」
「……セレナはどうしたいの?」
「……アタシは、ロンたちと一緒に行きたい。アタシを助けて、守ってくれた、ロンの力になりたいの…………ダメ?」
「なぁに言ってるのぉ? 娘のワガママくらい聞けないなんて、ママ失格よぉ。セレナがそうしたいなら、ママも一緒に行くだけよ♡」
セレナの顔がぱあっと明るくなった。
「ママっ!ありがとうっ、ダイスキよ!!」
「うふふっ、知ってるぅ〜」
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数日後。いよいよ旅立ちの日が来た。
拠点の滑走路には、たくさんの人機が見送りに来ていた。
『ショウく~ん!ありがと〜!!』
修復した人機たちがキャーキャー言いながら手を振っている。
「君たちには本当に世話になったな。いつかこの恩は返さなくては」
マーシャが握手をしながら言った。
「いえいえ、こちらこそ本当にお世話になりました!また機会があればお邪魔させてください」
「その時は歓迎しよう!……ほら司令官、しっかり挨拶して下さい」
「ぶぇぇぇえええ、ジョウぎゅ〜んっ!!」
人間だったら水溜まりができそうなほど、バレッタは涙声で叫んでいた。
「まだぎでね?ぜっだいまだぎでねぇぇぇえええ〜!!」
「はい!絶対また逢いに来ますね!」
「ぎゅぎゅぎゅぎゅ〜んっ!!!」
「ショウ!メルダのこともありがとねっ!きっとショウに見つけられて喜んでるよ!!」
「……困った事があったらいつでも呼んで。どこでも駆けつける」
「はいっ!おふたりもお元気で!!」
「ショウ!いつでも行けるよっ!!」
「そういやぁ、紅修羅見てねぇな……」
「ほんとだ。セレナも見送りに来ないなんてどうしたんだろう……」
「ちょっと待ちなさいよっ!!」
拠点の入口から、大きな声が飛んできた。
「セレナっ!」
二本の深紅の槍と四本の短い紅い棒を背に、セレナを背負ったコメットが立っていた。
「遅れちゃったわ〜」
「ありがとうセレナっ!コメットさん!!見送りに来てくれないかと心配してました」
「ごめんなさいねぇ〜、準備に手間取っちゃってぇ〜」
「え?準備??見送りに???」
「何言ってんのよロン!一緒について行く準備に決まってんでしょ?」
「え?」
『えぇえええ!?』
全員が驚愕の声を上げた。
「いや、付いてくるって……ええ!?」
「なに?文句あるの??」
「ワダヂもづいでいぐぅ〜〜!!」
「ダメですよ、司令官」
「あらあら、ごめんなさいねぇ〜。この子、“自分がロンを助けるんだぁ”って言い出して聞かなくってぇ〜」
「ちょっとママ!?それは言わない約束でしょ!」
「セレナ……」
「なっ、なによ!笑いたければ笑えばいいじゃないっ!!」
涙を拭いながらショウが言った。
「……笑わないよ。友達が助けてくれるんだもん」
「ロン……ふ、ふんっ!優しいアタシに感謝しなさいよねっ!」
セレナは腕を組みながら照れた。
「青春ねぇ〜」
「……うん、ありがとう、セレナ」
「それと……ショウ、だったわよね?なんで名前を変えたか知らないけど、これからは頑張ってそっちの名前でも呼べるようにするわ!」
「そろそろ行くぜぇ」
「よし、セレナ、行こうっ!」
「ええ!何処までもついて行くわっ、ショウ!!」
そして、僕たちは聖街に向けて走り出した。
「ワダヂもぉ〜、ワダヂも連れでッで〜〜!!」
『ダメです、司令官』
全員に止められた。
セレナ、レストア!可愛いお顔とお声に戻りました、安心。




