第二十一話「緋槍のコメット」
「はっ!セレナっ!私のセレナは!?」
コンバートで意識を取り戻したのはコメット、彼女は酷く動揺していた。
自分の横に胸から上しかない人形の少女が横たわっているのを発見すると
「なーんだセレナ!ここに居たのね?よかった。」
彼女はボロボロの塊を抱きしめ安堵する。
しかし違和感を感じて塊を見つめ直すと、血相を変えて叫び出した。
「セレナ!?どうしたのこの身体!誰にやられたの!!」
「おい…コメット……」
「もしかして…この中にいる人……?」
カチンッ――正面の顔が回転し、憤怒の顔に切り替わった。
「わ、ワームにやられたんです!」
(グリンッ)顔があらぬ方向からショウを見る。
「あらロン、久しぶりね。ワーム?詳しい話を聞かせてくれるかしら?」
「コメット、この子はショウだ、ロンじゃない」
マーシャが訂正しようとする
「あらマーシャ、あなたも久しぶりね。奥にいるのはバレッタね、元気そうで安心したわ〜。でもごめんなさいね?今から復讐の時間だからっ!セレナ、私に掴まって、もう離さないから安心してね?あなたをこんな目に合わせたやつを早く消しに行かなくっちゃ!!」
六本のうち四本の腕を使ってコメットはセレナ(?)を背負う。
ふと横にあった長物を見て、彼女は言った。
「この物干し竿いいわね!ちょっと借りるわ〜」
それが紅修羅の武器――**「深紅のハルバード」**だと知らずに。
「アッハハハ〜、レッツギルティー!!」
「全く話を聞いてねぇな……」
その時、地下がズズンッと揺れた。
整備室のスピーカーが鳴り響く。
「司令官!モニターに反応多数!北西方向にワームの大群です!最後尾に一際大きな反応を確認。恐らく敵の総攻撃です!!」
「遂に来たわね。マーシャはあの人を追いかけて! シンとメルダは北を、他は西に回りなさい!!」
「了解!!」
「私は司令室に戻って全体指揮を執ります!」
それぞれの配置へ向かった。
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シン、メルダチーム
「ったく、何が楽しくてこんな地下まで攻めてくるんだろうねぇ」
「楽しさとか感じるんですかね?」
「何言ってんだい、感じるわけないだろう? ただのボヤきだよ」
ゴゴゴゴゴゴ――。
壁の奥から音が近づいてくる。
「ほら来たよ。こっちは北側全体で五十人いるが、相手がどんだけの数かわからない。自分の身は自分で守りな!」
「大丈夫! それくらいなら僕にもできそうだ!!」
トドーン!!
五百は居そうな大小様々なワームの群れが壁を突き破って現れた。
「やっぱ無理かもぉぉぉ!!!」
「一人十体倒しゃいいんだよ!」
「オオスギィィィッ!」
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コール、シェルン、エリナ、ショウチーム
「なんかフツーにショウくん付いてきてるけど大丈夫なの?」
「ショウはこう見えてつえーからなっ!あと、俺らが見えるとこにいた方が安心だろ?」
「それもそうか!おっけーい!!」
「…いざとなったらこのエリナが守る……!」
「あ!それ私が言いたかったヤツ!!エリナずる〜い〜」
「フッ、早い者勝ち」
「負けたぁ〜」
「何回でも言ゃいいだろ」
「チッチッチッ〜わかってないなぁ〜コールくんは、こういうのはタイミングが命なんですよ」
「……だからモテない」
「かんけーねぇだろ!」
「……怖〜い、ショウ助けて〜…」
「あ!それも言いたかったヤツ!また負けた〜」
「ブイ…」
「なんなんだコイツら…」
「あははは…」
微かな振動を感じてシェルンが構える。
「そろそろ来るよっ準備して!」
「ようやく特訓の成果が出せるな」
「…足引っ張らないでね……」
「いってろ」
「頑張りましょう」
壁から無数のワームがムリムリ出てくる。
「集合体恐怖症ーーー!!!」
「キモイキモイキモイキモイキモイキモイ」
「虫嫌いな奴多すぎだろ」
「いや、沢山いるのが嫌なんじゃない?」
「…早く消し炭にしよう」
「……それ名案」
二人の目が深く据わっていた。
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マーシャ、コメットチーム
マーシャとコメットは北と西のちょうど間に、二人だけで立っていた。
「あなたは着いてこなくてよかったのに、マーシャ〜」
「…貴方だけに背負わせない。昔みたいにね」
「なんのことかサッパリだけど邪魔だけはしないでね?」
わらわらと壁からワームが出てくる。
「あらあら、あれね?セレナを酷い目に合わせた輩は、二度と動かないようにキチンとお仕置しなくちゃ!」
「セレナを抱えてたら現役の時みたいに動けないんじゃないか?」
「何を言ってるの? コレでこそ本気が出せるのよ」
「緋槍のコメットのお手並み拝見だなっ」
「存分に魅せてあげるわっ!」
ふたりは交差して走り出した。
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「オラオラオラァ、コール様のお通りだぜぇ!」
トランクケースからピン爆弾を出してはワームの口に放り込み、またまた口に放り込みながら飛び掛かる無数の攻撃を人間ではできないような関節の曲がり方で綺麗に避けていくコール
「餌はまだまだある!焦んなよぉ、ハッハー!」
ドンッドンッドンッ、ドンッドンッドンッ
「あの回避、コールくんやるねぇ!」
迫り来る六口を適確に射抜いてコアを破壊し、まだ煙の上がるリボルバーの銃口でハットの位置を直しながらシェルンが呟く
ガガンッ、カショ、ガガンッ、カショ
「……私の方が凄い」
小型ワームの横っ腹を貫通してコアを粉砕したエリナが自信ありげに胸を張る
「エリナっ危ないよ!!」
エリナの背後に迫るワームをシェルンがすかさず高圧ロープで絞り切った
「……ありがと、油断した」
「うわあああ、誰か助けてぇ〜」
「え?ショウくん!?」 「どしたぁ?ショウ!」
誰よりも多くのワームを引き連れてショウはボードで逃げていた
「ぼ、ぼぼぼぼく、回避特化だからぁぁぁ、緊急戦闘用の爆弾もこんな大量には用意してなななななぁーー!!!」
「引き寄せてくれてっ!」
「…逆にっ!」
「好都合だぜ!!」
『マグナ・リボルブ』
『衝撃弾・テンショット』
『サーティー・トス・ボム』
左右側面、上から銃弾と爆弾が降り注ぎワームの口に収まって爆ぜる
前方にいたショウは風圧で前に飛ばされて行った
「えぇぇぇぇ!!!」
『解決!』三人は胸を張って言った
「いや!死にかけたんだけどっ!!」
「生きてんじゃねぇか、問題ねぇだろ?」
「ありますけど!」
「ショウは強いから配慮は要らないって〜」
「要りますけど!?」
「…ここは片付いたから、早く北に向かおう……」
「エリナさんは無視!?」
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ズドーンッ
「ヤバーイ!ヤバイヤバイヤバイヤバイヤッバーイ!!!」
バゴーンッ
「ありゃもう災害だね、お陰で小物は殆ど沈黙したみたいだけど…」
「いや、あれ一体だけで十分壊滅しますよっ!」
「うだうだ言ってないで、覚悟決めなっ!そのうちシェルンたちが増援に来るはずだよ」
「そうは言ったってあんなのどうやって足止めするんですかぁ〜!」
「聞き間違えねぇようにしっかり聞きな、あたいにひとつ考えがある」
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「ほぉら、ほぉら、悪い子はお口オープンですよぉ〜」
コメットが楽しそうにワームの口を四等分しながら蹴り飛ばしている
「あなた現役の時もそんな感じだったの?」
左右から迫る鉄ミミズをブレードで両断しながらマーシャは聞いた
「いいえ〜今日は最高にノってるからよ〜」
「やはり女性軍人で初めて二つ名を得たのは伊達じゃない……」
「あっはあは、あっはあは、あっはあはははぁ〜、こんなに楽しいのはガッツと前線で暴れ回った時以来よぉ〜」
ハルバードをブンブン回しながら四方から迫るワームを粉々に粉砕しコメットはウキウキしながら声を掛ける
「そろそろ此処も片付いてきたことだし、まだ賑やかな北へ向かおうかしら?」
「そうだな、私が先行しよう」
「心からのデストロ〜イ!」
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「いいかい?先ずはあんたの脚部に付いたホバーで敵に接近しあたいを側面まで連れていく、その後はあたいのガンハンマーをフルショット撃ち込んで動きを止める、トドメは頼んだよ?」
「わかった!」
「なら行くよっ!!」
規格外の大きさのワームが大暴れする中、シンは瓦礫と瓦礫の間を滑って徐々に接近していく、回って、くぐって、飛んで避ける、いつの間にか側面の間近まで到着、メルダが飛んで側面に立った 。
「あたいの全力を喰らいなっ!!」
『フルスロットル・ハンマー』
ドドンッと巨大ワームの横っ腹が爆ぜ、地下の壁にぶつかった
「どんなもんだい!」
「メルダパイセン凄い!尊敬だぁ〜」
「ボケっとしてないでトドメ刺しなぁ!」
反動で飛んでいったハンマーを尻目にメルダが叫ぶ
「りょうかーい!」
シンが追撃を仕掛けようとした時、先程の強烈な衝撃で壁にキスしたワームが極太のしっぽを振って天井にアタックした、ダメージを受けた天井の一部が降り注いで来る。
「うぉおおお、あたいに任せなぁああ!!」
迫り来る瓦礫を両手で支えて耐える
「メルダさん!?」
「今のうちに行きな!」
「でも!」
「最後にこのバンダナを託す!ガッツっていう厳ついおっさんにあったら渡してくれ!!」
「わかりました、でも一緒に支えて押し返しましょう!」
するとメルダの膝から爆薬の詰まってない小型グレポンが飛び出しシンにぶつかり吹っ飛んだ
「ショウには兄貴が必要だよ、あんたみたいなねぇ」
「メルダさん!!」シンが手を伸ばしながら飛んでいく
「気にすんじゃないよぉ!これがあたいの役目だったんだ」
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あたいは若い時、屑みたいな父親が嫌いで家を出て、旅に出た。持っていた金も底を尽き路頭に迷って途方に暮れた、そんな時に出会ったのがフェミリアの横、軍事基地で長官をしていたガッツ・ハワードだった。彼はあたいにたらふく飯を食わせた後「行く所がないなら軍に入れ」と言い、 本当に行く宛てが無かったあたいは、言われるまま軍に入った。
ガッツの指導は厳しいものだったが、本当の父よりも父だった 十年前の機械軍との戦争でも彼は威厳を保ち続け、開戦から程なくして彼は移動となり、五年前には最前線に立っていたと聞いている。移動してから一度も会っていないので現在の動向は分かっていない、ただ今あるのは彼の言葉のみ
「メルダ、これから世界は地獄と化すだろう。だがいつかきっと希望の光が見える日が来る、その光が消えぬよう守るのが我々の務めだ、このバンダナを渡す、お前は立派な兵士だ。頼んだぞ、私のたった一人の娘よ」
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「オヤジ、あたい役目を果たしたよ…」
「メルダさぁぁああん!!!!!」
ズズゥウウン
瓦礫が落ちてメルダの姿が見えなくなった
立て直したバカでかいのが迫る
「クソッ」
彼女の命を無駄にしないように、広場の方まで退る
シンが命からがらに広場に入ると他のメンバーは全員集合しているようだった
「よかった、シン!無事だったんだね!!」
「メルダは?メルダはどこ行ったの??」
「彼女は僕を庇って…」
「!?」
「今はそれどころじゃねぇ、全員で迎え撃つぞ!」
全員が構えを取ったその時だった
シュドーーン!
異様な形の機械が、真上からショウたちの後ろにある噴水を押し潰して着地した。
重々しい音が響き、全員の視線がその巨体に向く。
「な、なんだアレ……!?」
「……デカすぎる」
噴煙の中から、無数の目と触手がうねり、声が響く。
「――我が名はトーテム・ワーム。
大人しくすり潰れろ、ウィルスども。」




