第十七話「リペア」
三人は早速、整備室へと足を運んでいた。
高天井の広い空間には、大小さまざまなパーツや工具が整然と並び、奥では赤いパーツが整備台の上で光を放っている。
「ここが整備室。さっき居住区に戻った三人のための場所だ」
マーシャが説明する。
「棚にある彼女たちの装備以外は、好きに使ってくれていい」
「武器がいっぱいあるなぁ!」
「元々が軍事施設だからな。大抵の装備は揃っている。横の通路をまっすぐ行くと訓練場もあるぞ」
「よっしゃショウ! 今回は何をするんだ!!」
「えっと、今回は――コールの武器を新調して、シンの新しい改造、あと僕のツール作り!」
「うひょー! 新武器! 待ってたぜぇー! 要望も言っていいのか!?」
「もちろんだよ!」
「まずは材料探しだね」
「コールはどんな武器がいいとか要望あるの?」
「俺は曲芸師だからな! 色んな仕掛けがあると最高だぜ!」
「仕掛けかぁ……じゃあ、道具を即収納・展開できるように、背中の下半分あたりにバックを付けよう!」
「それだと拒否反応が出るんじゃねぇか?」
「大丈夫! 条件磁石を使えばパーツ追加じゃなくて“アクセサリー”として装備できるから!」
「なるほど……その発想はなかった」
「他のパーツも交換せず、元々の機体の特性を活かして関節の自由度を上げようと思う」
「そいつはありがてぇ! もっと自由に動けりゃ幅が広がるぜ!」
「ふむ……だがその分、脆さが目立つ。直撃を避け、流す技術を極めるといい」
「前の戦いの破損も直しちゃうね。ここに寝てもらえる?」
「おう! 頼むぜショウ!!」
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「ほぅ、見事なリペアだな」
綺麗になったコールの機体を見ながら、マーシャが感嘆の息を漏らす。
「背中にはトランクケース型のバック、中にはボウリングピンボム、チャクラム、ククリナイフ。腰にはスティレット。
さらにベルトナックルのボタンを押すと、ナックルの一部が十手に変形する仕掛けだよ」
「カッケェー! ショウ! ありがとよっ!」
コールは人間の可動域をはるかに超えた謎のヨガポーズで感謝を伝えた。
「ちょっくら訓練場でとっくんしてくるぜぇー!!」
「よし、問題なさそうだね。次はシンの改造!」
「頼むね、ショウ」
「シンは戦いに慣れてないから、より機動力特化にした方がいいと思うんだ。ミニブースターを各所に取り付けて、変幻機動を作って……あとは武器をどうするか、なんだよなぁ〜」
「ちょっと待て。流石にそこまで大掛かりなのは……拒否反応が耐えられないだろう?」
二人は顔を見合わせてハッとする。
「ああ〜! そうですよね、忘れてました」
「ハッハッハッ! 面白い冗談だ!!」
「いえいえ、シンは拒否反応が出ない機体なんですよ」
「……え?」
今度はマーシャがポカンとした顔をした。
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「ふぅ〜、できた! 具合はどう?」
「めちゃくちゃいいよ、ショウ」
「小型のブースターを各所に設置。変幻機動対応。それと左手にフックショットを内蔵しておいたよ。移動手段にも、敵への急接近にも使える!」
「こんなことがあるなんてな……」
「自分でもよく分からないんです。戦闘部隊のダン隊長にも原因は分からないようでした」
「不死身のダンでも分からないとなると、相当だな」
「不死身のダン?」
「知らないのか? ゼウスシステム暴走後、最後まで殿を務めて生還した人機――“不死身のダン”だ」
「そんな異名が……」
「すっごく強かったもんね、ダン隊長」
「そんなことより、あなたも訓練場で機体を慣らしておいた方がいい。ここは私が着いておく」
「ほんとですか!? ありがとうございます! じゃあちょっと行ってくるよ、ショウぅぅぅあああ!!」
シンは躓いた拍子に横の通路をすごい挙動で転がっていった。
「……頑張ってね」
「変態機動……」
「さてっ、今度は僕のツールだ!」
ショウはリュックから携帯食料を取り出しながら気合を入れ直す。
「思うのだが、君は戦わなくてもいいのでは?」
「そんなことありません。自分の身は自分で守れないと、いざという時に困ります!」
食料を一口かじる。
「それに……一方的に助けられるだけなんて、もう嫌なんです」
「…………そうか。なら、もう何も言うまい」
「はい! では――リュック下部に軽量素材で拡張、転倒予測で自動追尾・展開する《エアバックボックス》、さらに《フローティングボード》を追加して移動と回避手段を追加。このボードにおまけも付けて……っと。
それと肩掛け部分を改造してリペアツールを一本設置。残りはリュック内部に収納――完成!」
「これは……」
「ショウ特製バックパック!!」
「ショーウ! 特訓終わったぜえー!!」
「お、終わったよぉ〜」
「聞いてくれよ! シンの奴が面白くてさぁ〜――」
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完成された装備群を見ながら、マーシャは静かに考えていた。
(人類最後の人間が、こんな才能の持ち主だとは……この少年は、何としても守らなくては)
賑やかな談笑が続く。
「――いやそれはコールがっ!」
「すまないが、私は司令室に戻る。君たちは居住区で休んでくれ」
「はい、ありがとうございました」
マーシャが去っていく。
「じゃあ、俺たちも片付けてから行くかぁ」
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時刻は夕方。
「お〜い、こっちこっちー!」
「ここがあたいたちの部屋だよ!」
「……ショウはここ」
部屋の中央に、ふかふかのベッドが一つ。
(な、何故真ん中……?)
「……これならいつでも守れる」
「そうかなぁ〜」
「……シェルンは分かってない」
「ガーン!!」
「アホ晒してないで、ショウを風呂に入れるよ」
「ふろ?」
「最高なところさぁ〜」
「ぐふふふふ」
「……ぬぬぬぬぬ〜」
「な、なんか怖いっ!!」
「はふぅ〜」
ショウは湯上がりでポカポカに温まっていた。
「お風呂、最高……」
「だろぉ? あたいが人間だった頃、何より好きだったねぇ」
「……私も好き……」
「そうだ! 今日は早めに休んじゃおう! 明日もあるしね!」
「……明日?」
「ショウくん、もう忘れたの? 案内だよっ! フェムニカの!!」
レッドローズの居住区には各部屋ごとにお風呂が付いています。大抵の人機は水に入れませんが、雰囲気というか趣というか、近くにガラス張りのお風呂があるだけで人の心を忘れないのかもしれません。
お湯もちゃんと出ます。
ちなみにショウはガラスの隙間から伸ばした清潔なモップで洗車のように洗われました。




