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第十六話「赤薔薇」


 フェンスに囲まれた滑走路の端。三階建ての廃墟の前――

 その脇に、少し窪んだ場所があった。そこには、そこには、動かなくなったように見える古びた大型エレベーターがあった。

 マーシャの指示でホバーごと中に入ると、重い金属音とともに床が沈み込み、静かに地中へと降下していった。


(ガコン、ガコン……)

 振動が収まるたびに、薄暗かったエレベーターの照明が、次第に鉄の灰から夕陽のような暖色へと変わっていく。

 やがて、目の前の扉が左右に開いた瞬間――そこにはまるで、地上とは隔絶されたもう一つの世界が

 広がっていた。


 ――地下拠点《赤薔薇レッドローズ》。


 整然とした広い通路には、磨き上げられた黒鉄の床が続き、天井には薔薇の花弁を模した照明が淡く赤い光を落としている。

 壁面には古い軍の標章とともに、繊細な彫刻が施されており、戦闘拠点でありながらもどこか優雅な雰囲気を漂わせていた。


「ようこそ、赤薔薇の拠点へ。」

 マーシャが振り返り、軽く敬礼する。


 通路を進むと、左右に作業区画や整備ドックが並ぶ。

 そこでは女性型の人機たちが手際よく武装の点検や補修を行っていた。

 赤を基調とした機体が多く、どの人機も外装のどこかに薔薇の意匠を刻んでいる。


「ここが私たち《クリムゾン・ウィドウ》の母艦のようなものだ。」

 マーシャが説明を続けた。

「上層が格納庫兼整備区、中層が居住区、最下層が司令区。

 ……戦闘用の拠点ではあるが、今はフェムニカ全域の防衛も兼ねている。」


 説明を受けながら、一行は突き当たりにあるガラス張りのエレベーターへと乗り込む。


「すごい……」

 息を呑むほどの光景だった。

「人機の拠点って、もっと無機質なものだと思ってた……」

 遠くでは薔薇の花びらを模した小型ドローンが静かに飛び交い、時折誰かの肩に降り立って通信を取る    

 姿も見えた。


「ふふ、大抵はそう見えるかもしれないけどね」

 メルダが笑う。

「ここは“女性型人機”ばかりの部隊だ。どうせ戦うなら、美しく強く、ってわけさ。」


「……それが赤薔薇レッドローズの信条……」

 エリナが静かに言葉を継ぐ。

 マーシャが頷き、エレベーターのロックを解除した。



---


(プシュウゥ……)

 扉の奥は最深部の司令区――大きなドーム状のホールだった。

 中央には円卓型のホログラム制御盤があり、周囲には無数の立体モニターが浮かんでいる。

 それぞれの画面にはフェムニカの地形図、周辺ドローン映像、そして未確認信号の赤い点が点滅していた。


「……これがフェムニカ全域の監視システムだ。

 ここから上層の廃墟区画、そしてフェムニカの地下街まで、すべての動きを把握している。」


 ショウが円卓の前に立つと、立体映像の都市が動き、光の粒が散りばめられたように輝いた。


「すごい……まるで街が生きてるみたい」

 ショウの言葉に誰もが一瞬だけ、静かになった。


 やがて奥の扉が自動で開く。

 中から現れたのは、コートのような装甲を纏った人機――

 頭部には薔薇の茎を模した冠が光り、まるで騎士王のような――

 ……威厳は、まったくなかった。」


「マーシャさ〜ん、報告〜」

 その声は、ナヨナヨとした、頼りないものだった。


「はっ、バレッタ司令官。フェムニカ周辺にて機械軍戦闘体を排除。任務遂行中に助力いただいたこちらの二名および――生身の人間を保護いたしました。」


 マーシャの報告に、薔薇の騎士?はゆっくりと視線をショウへ向ける。


「生身の……人間?」

 その声には、かすかな驚きと信じがたい響きが混じっていた。


 ショウは一歩前に出て、ぎこちなく頭を下げる。

「は、はじめまして……ショウっていいます。」


 司令官は短く沈黙し、そして――なぜか拍手した。


「――ようこそ赤薔薇レッドローズへ〜!ここは、かつて“愛都”と呼ばれた地の最後の砦〜!」

(間)

「今では哀しみの都で“哀都”だけどね……」

 シェルンがボソッと呟く。

 司令官は何も言わず、コクンコクンと大袈裟に五回ほど頷いた。


「私の名前は〜バレッタ・マクロン!あなたたちの話を聞かせて欲しいんだけど〜」

「僕が説明します、実は――」


「へぇ〜、そぅだったんだ〜それは大変だったね〜。一先ずは居住区の空いている部屋で休んで〜」

「ありがとうございます。」

「すみません、もしよかったら先に整備室を使わせてもらえませんか?」


 一斉に彼女たちがショウを見る。

「ん〜?どういうこと〜?」

 バレッタが口調はそのままに、少しだけ冷たい声を出した。


「こいつは機械の整備ができるんだ、すげぇんだぜ?」


「ほんとう?マーシャさ〜ん」

「はっ。我々も彼らが作った乗り物でこの拠点に戻りました。見た目は……ガラクタでしたが、構造は見慣れないものでした。恐らく自作で間違いないかと。」


「副官、ガラクタはさすがに……」

「ひどい。」

「副官って、たまに刃が鋭すぎるよねぇ。」

「……そ、そうだな。ガラクタは言い過ぎた。」

「大丈夫です。ほんとに、ガラクタの寄せ集めなんで。」


「君みたいな子供が作ったなんて〜信じられない話だけど〜、マーシャさん達が嘘を言ってるようにも思えないしな〜」


「であれば、私が一緒について確認しましょう。また報告にあがります!」

「それならおっけ〜。」


「それと、もうひとつ報告がありまして。」

「な~に〜?」

「ワームの活動が活発化しています。今日もいつもより手を焼きました。」


「そっか〜、そろそろ本気で新しい対策を立てないとねぇ〜。ちょっと考えてみるよぉ〜。」


「司令官、あたい達は一度居住区に戻るよ。」

「じゃあね、ショウくん!」

「……またね。」

「いってらっしゃ〜い。」


 マーシャがふと振り返り、提案する。

「そういえばお前達の部屋、ちょうど空いてたな。」

「そうですけど、何か?」

「なら、彼らはそこで休んでもらおう。」


「!!?」

 なぜか司令官が後ろで一番驚いていた。

「いいんですか!?」

「しっかり護衛するように。あと、いろいろ案内も頼むぞ。」


 司令官が両手をわきわきさせながらアワアワしている。

「了解しました! ショウくん、また後でねー!」


 司令官は残念そうにうなだれた。

「では私達も先ほどの上層に戻ろう。」



---


 ――居住区の廊下。

 三人は賑やかに談笑しながら歩いていた。


「いやー、ショウくん可愛かったねぇー。」

「守ってあげたく……なる。」

「私たちが結婚してたら、今頃あれくらいの子がいたのかな?」

「……遅咲きスピード婚。」

「育つ前に消滅だよ。」

「はっ!そうだった……」

「まず貰い手がないだろう。」

「メルダには言われたくないんですけど〜!」

「あ?なんだい? あたしとやろうってことかい。」

「……そこ不毛な争いをしない……部屋片付けるよ。」



---


 司令室――


 そこには先ほどからずっとコンソールの前でうなだれ、固まっている司令官の姿があった。

 かと思えば、突然強烈に悶え出す。


「ウギャー!ショウきゅん、きゃわわきゃわわわわ〜!!

 はぁはぁ……ハハハハ〜!!」


(――司令官の推し、爆誕である。)



---


 暗闇の中、モニターに映し出されているのは、一人の少年の顔だった。


「……まさか、お前が失敗するとはな。ベレムナイト。」


 静まり返った司令室に、低く冷たい声が落ちる。

 闇に沈むその機体の姿は見えない。


 ベレムナイトは一言も発せず、片膝をついて頭を垂れた。


「……まあいい。報告では、ウィルス体が“生命体”を庇ったとあるな。」

「はい。」


「であれば今回見つかった新たな拠点、あるいは赤きウィルスたちの拠点に攻撃を仕掛けるとしよう。

 距離的に後者の方が、生命体がいる可能性が高い。」


「赤き者達は、私が。」

「残念だが、地形上お前は今回の作戦に適任ではない。トーテム・ワームを向かわせる。お前は新しく発見した拠点の処理を。」


 ベレムナイトは両拳を握りしめ、低くつぶやいた。

「……御意。」


「トーテム・ワーム、準備をしてB24区へ向かえ。

 もし例の生命体を発見した場合は――捕獲しろ。」


「……生命体の生死は?」

「生きた状態での捕獲だ。多少の欠損は目を瞑る。」


 その声は、冷たく、無感情だった。

「承知した。直ちに準備に入る。」

バレッタ・マクロン

人機軍赤薔薇レッドローズの司令官であり、クリムゾン・ウィドウの隊長を務めている。

普段はナヨナヨしているが意外とすごい人、らしい。

装飾は袖がダボダボなロングコート

ちなみのに大のショタ好きである。


トーテム・ワーム

機械軍工作部隊≪ピュトン≫の親玉

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