第十三話「避難」
前回の話について補足ですが、ソールくんは既にコールドスリープされていたので除外されてました。
拠点上部の至る所で地響きが鳴り響く中、最深部の執務室で、大柄な人機が腕を組み、目を閉じていた。
すると、正面の重厚な扉が開き、二人の人影がとぼとぼと入ってくる。
「お前たちか。無事で何よりだ、近くに来い」
「ノールとトールはどうした?」
「…………」
「そうか……。」
「もうすぐシンも来る。三人で退避しろ。」
ショウが震える声で問いかける。
「……この襲撃は、ぼくのせいなんでしょうか?」
エドワードは答えず、視線を落とした。
「お前の存在が希望になるか、あるいは――再び絶望を呼ぶか。
それを見極めねばならん。」
そのとき、扉が再び開き、シンが滑り込んでくる。
「すまない、遅れた!」
その瞬間、通信端末が激しく点滅し、アナウンスが響いた。
『――報告。内周のセンサーに反応、未登録機体接近中――』
エドワードの瞳が鋭く光る。
「……来たか。」
シンが即座に構えを取る。
「敵ですか!」
「ああ、“奴”だ。」
エドワードは二人に命じる。
「シン、コール。少年を連れて退避しろ。奥の格納区画に避難経路がある!」
「了解したぜ、工場長!」
「でも、工場長は――!」
シンが叫ぶ。
「いいから行け! ここは私が抑える!」
ショウが声を張り上げた。
「待って! 僕も戦う! 僕だって――!」
エドワードは首を振る。
「戦うことだけが強さじゃない。
生きて、見届けることもまた――戦いだ。」
直後、外から轟音が響き、扉の奥で爆発が起こった。
床が激しく揺れ、赤い警報灯が点滅する。
シンはショウの腕を掴む。
「行こう、ショウ!」
格納区画に繋がる通路を走りながら、ショウは振り返った。
炎と警告灯の光の中、エドワードの姿が遠くなっていく。
――その大きな背に、言葉にできない温もりを感じた。
ショウの胸に、言葉にならない想いが渦巻く。
だが、それを確かめる時間はもうなかった。
次の瞬間、拠点全体を揺るがす大爆発が響き渡った――。
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「ふぅ……これで、ここから離れるまで足止めできるだろう。」
海賊の大砲のような塊を片手で持ち上げながら、エドワードは静かに呟いた。
ショウたちの向かう道へ繋がる出入口は、完全に崩落していた。
(ウィーーン)
機体の上半身半分が無くなった漆黒の追跡者が、扉からぎこちなく姿を現す。
「随分と遅かったじゃないか、ベレムナイト。この顔の傷の恨み、存分に晴らさせてもらおう。」
「このタイミングで貴様が相手とは……全く困ったものだ。」
(指令だ。アレスの二機は戦線離脱。逃げた生命体達を上空から追え。)
(了解。)
「大事な手駒を二体も離すとは、我々を舐めているようだな。」
「消耗品に手をかけていられるほど、暇ではないんでな。」
エドワードが全体アナウンスを送る。
「全作業員に次ぐ! 消耗品の意地を、奴らに見せてやれ!!」
「行くぞぉ!」
「…………」
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天井を突き破った巨大な機械の内部から――
(ゴンッ、ゴンッ)と叩く音がする。
(ガコンッ!)
メンテナンス用のハッチが吹き飛び、中からバレーボールほどの頭部に、四脚の足がついた小型機械が顔を出した。
「ヤットデレタゾ!」
「ホントカ?」
「ハヨイケハヨイケ!」
「テキハドコダ?」
「トツゲキー!」
「バカオスナ!」
五つの鉄塊がコロコロと穴から転がり出て、横一列に並んで倒れる。
「グエェ!」
「アバッ!」
「ムベッ!」
「ングッ!」
「ゴガッ!」
「ダカラオスナトイッタダロウ!」
「イッセイニデヨウトシタノガワルカッ!」
すかさず横から何かが迫る。
「グサグサグサッ!」
ダンは横に置いてあった先の鋭い鉄パイプで、それらを串刺しにしてヒョイと捨てた。
「これだけの巨体だ、沢山敵が詰まっているな。」
「はい、隊員数名と残っている拠点の人機で抑え込まなければなりません。」
「まずはこのデカブツを外に出すぞ。」
「え?」
ダンは、天井から生えた円柱の先端に両手を当て、脚を開いた。
足の側面からアウトリガーが展開し、地面に固定される。
腕部、肩部のブースターがゴゴゴッと火を噴く。
「私はオーバーヒートで数秒動けん、横から漏れた敵は任せたぞ!」
その瞬間、爆音が響く。
バコーン!!!!!
煙が晴れると、天井には大きな穴だけが残っていた。
「残党を狩れた者から地上へ向かえ! 内部を破壊しきるぞ!!」
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(ガキンッ、ギィイインッ)
普段は静寂に包まれている執務室から、金属が激しくぶつかる音が鳴る。
「その状態で、よくもまあ戦えるものだな。」
「………………」
「だがまあ、もう終わりだろう。」
エドワードがゆっくりと構え直す。
ベレムナイトの足パーツが分裂し、四本のアームが腰から生えた形になった。
「お前も私を舐めすぎだ。」
“嘘だろ?”と言わんばかりに目を見開いたエドワードは、一瞬構えを解きそうになるが、迫りくるベレムナイトを見てハッとし、再び構え直す。
防戦一方のエドワードが、華麗な受け流しで攻撃をいなしていく。
「手数が多くて、守ることしかできんだろう?そのままスクラップにしてやる。」
――(バキッ)(バキッ)(バキッ)(バキッ)
攻撃の最中、何かが壊れる音がしていた。
ベレムナイトが不思議に思い周囲を見ると、増やしたはずのアームが地面に転がっていた。
「どうやら元に戻ったようだな。いや、美脚になったか?」
エドワードが強烈な足払いで、ベレムナイトの脚部を破壊する。
「まあ――おぬしに美脚は似合わんがな。」
「ウィルスの分際で……!!」
(グシャッ)
残った半分の頭パーツが、エドワードの右腕と床のプレスでぺしゃんこになり、機能が停止した。
「……残念ながら分体だったようだな」
落ち着いたのも束の間、壁面のコンソールから(カタカタ)と操作音が聞こえる。
そちらを見ると、ベレムナイトの千切れたアームが単体でアクセスし、アンテナを立ててどこかに情報を送信していた。
エドワードはすぐさま近づき、アームを雑巾絞りにして落とす。
コンソールの画面を操作して確認すると――別地区のガラクタ部隊拠点位置情報が抜き取られていた。
「損失としては軽いが……対策は必要だ。連絡を急がなくては……」
エドワードが画面に集中しているその背中に、
――ピタリと、何かが張り付いた。
「……っ!」
背後から低い声が響く。
「私もさっき学習したんだがな? “油断”というのは、使える。」
「ベレムナイトォォオオ!!」
直後、眩い閃光とともに――
(ドゴォォォン!!)
執務室全体を揺るがす大爆発が起こった。
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一方そのころ、シンたちは避難経路を通って、拠点の外に出ていた。
べレムナイトのしぶとさは、”G”.........?(見た目はかっこいいよ)
ダン隊長に張り付いていた小型GPSマシンは今回のアレで丸焦げの粉々になって消えました。




