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華札奇談【死ヲワカツ】

"別つ"


人間というのは、あらゆる感情を分かち合う生き物だ。そうする事で互いの結束力を高め、より強固な絆を結ぶ


そして時には、生死を別つ事で生まれるものもあるかもしれない…


本日の語り手【牡丹乎ぼたんか蝶一ちょういち


「わたくしは華札奇談が一人、牡丹乎蝶一。今宵、聞き手の皆様と出会えた縁を大事に致したく思います」


煌びやかな着物に身を包んだ牡丹乎の周りには、青色の蝶が美しく舞っていた


「かの者たちの出会いは、どういった結果をもたらすのか…どうぞ、ご拝聴下さいまし」


伸ばした手の甲に蝶が止まり羽を幅たかせると、瞬く間に鱗粉が舞い上がった

田舎町という事もあってか、木造で建てられた学校は古臭いだけでなく、歩くたびにギシギシと床が軋みいつ倒壊してもおかしくない状態だ


褒められる点があるとすれば、風通しが良いおかげで夏の日差しがきつくても都会のように熱気の籠った暑さにならない事ぐらいだろうか


「だるぅ〜マジあり得ないんだけど。なんでココに居る訳?馬鹿?」


隣の席に座る彼へと不満を投げかけたのは、制服をオリジナルに着崩し、金色に染めた髪を巻き、派手なメイクとネイルが特徴的な女子だった


「僕を馬鹿だと言うなら、貴方もでしょう」


対して冷静に不満を受け流すのは、眼鏡を掛け規則正しく制服を着た男子だ


「ムカつく。アンタよりは賢いしギャル舐めんなガリ勉」


「ガリ勉じゃないです。そもそもガリ勉と馬鹿では、人物像が一致しないのでは?」


「は?ガリ勉は見た目、馬鹿はアンタ本来の評価ですけど」


普通の学校なら夏休みのこの時間帯には、教室が解放されて補習生や部活動の生徒達であふれているだろう


だが、この教室には彼らしか居ない


「そんな格好で、うろついて群がって騒ぐ生物の方がよっぽど馬鹿っぽく見えますが」


「コレはアイデンティティなの!それに、アタシは群がったりしてないし」


「あぁ、友達居ないギャルですか。失礼しました」


「夏休みに、こんな場所に一人で居るアンタも居ないっしょ。可哀想〜、アイスも半分こした事ないとかマジお陀仏〜」


「それ、貴方自身にも言える事ですからね」


「アタシには半分こする友達が居ました〜。こう言う暑い日に棒が二つ付いたアイス買って、それを割って食べてたんですぅ」


「どうでもいいですけど、埃っぽいので騒がないで下さい」


この教室に電気はない。だからか、日が高い位置にあるにも関わらず薄暗く、何年も手入れされてないせいで埃やカビ臭さが目立った


「一々、反論しなきゃいいっしょ」


そんな異質な場所に居る事に疑問を持たない二人


「貴方が喋り掛けてくるからです」


「人のせいみたいに言うな」


黒いモヤのようなものが二人の視界に映る。そのモヤは不規則に動きながらも、確実に二人へと近づいてくる


「迂闊に触ると即死ぬからね。まぁ、()()目的で来たなら触った方がいいけど。アタシはそのつもりだし」


「それなら問題ないですね。死にたいので」


"死にたい"その言葉に予め分かっていたのか、彼女は驚くでもなく「やっぱり」と口にした


「何でアタシが自殺したい日に被っちゃうかな〜」


「こちらの台詞です。こんな、ふざけた自殺方法考えるのが僕以外にも居たなんて」


二人が居るこの場所は山奥にある廃村だった


「一緒にすんなし。アタシには正当な理由があるんです〜」


「僕は対ノ村で起こる現象をネットで見て決心しました。どこまでが本当かは半信半疑ですけど」


「大まかには合ってると思うよ。確か…」


そう前置きしてから、彼女はこの村の歴史を話す


この村の仕来しきたりは、必ず二人一組…対になる存在を作る事だった


その由来は祀っている神と関係があり、村の神は三十年に一度、命が尽きる瞬間に神の器となる依代を必要とした。選ばれた人間は神の血を飲み、自らの血を神に捧げる事で、神と対の存在…つまりは依代となる


そうして何百年も続いてきた村だったが、神よりも先に対になった人間が死んでしまった事で、依代を失った神は死んでしまう


「神と依代は一心同体。つまり、依代の命が尽きると同時に、神の命も尽きるって訳。獣の浅知恵としては何百年も騙してた方だけど、最後は自分の縛ったルールで死んだみたい」


「獣って村人が祀ってたのって、神様だったのでは?」


その言葉に、彼女はこの場に似つかわしくない笑い声をあげた


「あははは、マジウケる。神が血の契約なんてする訳ないっしょ。そんなんするのって大体、悪魔とか魔女とか獣だって。まぁ、今回のは言葉を理解する獣が人間を騙す定番のパターンだけど」


なぜこんなに笑われているのか理解できなかったが、馬鹿にされているのが分かると、不機嫌そうに続きを促す


「獣が死んでどうなったんですか」


「どうなったと思う?」


質問に質問を返した彼女を、心底面倒くさそうな顔で見る


「いや、考えるのが面倒だから聞いたんですけど」


「頭使いなって。今まで信仰していたものを失った時、人はどうなると思う?」


「はぁ、面倒くさいなぁ」


「聞こえてんだけど」


「知ってますよ、聞かせてるんですから。……受け入れられないんじゃないですか?普通なら、死んだら終わりと考えますが、この村人達は死んでも依代があれば生き返れると、そう考える筈です。となると、神を生き返らせる為に、別の依代を用意した」


「半分正解かな〜。神つっても獣だけど、村人全員が依代になれるようにって、死んだ獣の血を分け合って飲んだ」


「うぇ」


「キモいっしょ。しかも、そんな事しても生き返らないしさ〜、マジで無駄骨お陀仏」


獣の血を飲んだ村人達は、いつか神が生き返ると信じて、目印として対の存在を必ず作り暮らす事にした


「血と繋がった対の存在ってのは、ある種の命の縛りみたいな訳。獣がそうだったように、村人達も一方が死ねがもう一方も死ぬ運命を辿る。呪いのようにその縛りだけが息づいてる」


「対ノ村に入った人間は帰って来ない、そして何故かその後に親も必ず消える。呪われた因習村だってネットにはそう書かれてました」


「対になる人物だから、血が濃い人が優先的に道連れになると思うよ」


その言葉に、彼はハッと何かに気づき顔を青くさせる


「それって、兄と叔父だったなら、兄が道連れになるって事ですか」


「まぁ、兄弟が居る場合はそうなるかもね…呪いだから、あくまでも想定の話しだけど」


「そんなっ」


明らかに動揺する彼に、彼女は何も言わなかった。そうしている間にも、黒いモヤは腕一本分の距離を保ち二人を囲んでいた


「……これって、逃げられませんよね」


「方法がない訳でもないけどさ、それよか先に聞いても良い?自殺は辞めたの?」


「今は。兄を道連れにしたくはないので」


「ふ〜ん。じゃ、アンタはお兄さん以外の血縁者を道連れにするつもりで来たんだ」


「それ、貴方に関係ないですよね」


そっぽを向いて突き放す彼に、彼女は気にした様子を見せず言った


「これも何かの縁だから忠告しといたげるけど、呪殺はやめといた方がいいよ〜」


「何の話です」


「マジな話ししてんの。アンタの様子を見るに、自分の命を懸けても殺したい相手がいるんでしょ?呪われるって分かった上で、誰かを道連れにする事を望んだら、それは立派な呪殺」


彼女の真剣な表情から、なんとなく嘘ではないと思ったが、それでも構わないと彼は彼女の意見を否定するかのように目を逸す


「妙に詳しいですね。何者なんですか?」


「話を逸らすな」


不服そうに眉を寄せた後、少しの沈黙を置くと彼女は気だるげに、髪に指を通しクルクルと回す


「こう見えてアタシ、霊媒一族の出なの。いわゆる霊力つーのがあってさ一族の中でも優秀な方で一応、次期当主」


「回答が斜め上過ぎて反応に困ります」


「アンタが聞いたんしょ」


文句を言いながらも、どこか他人事のように話す


「アタシはアタシの人生を好きに生きれない。この格好だって、家に帰ると戻される。友達も普通の家とは違うアタシを避けるようになるし、あと三年もすれば結婚だってさせられて、子供を求められる」


「それが、自殺をしたい正当な理由ですか」


「ある日、気づいちゃったんだよね〜。産まれた瞬間から当主としての運命を背負ったって事は、アタシ個人の人生は産まれてから直ぐに死んでんじゃんって」


口調は軽かったが、その言葉の意味はとても重いものだった


「でもさ、アタシって霊力馬鹿高いじゃん。迂闊に死ぬとさ、状況によっては怨念とかになりかねないの。だって、人生に不満だらけだし、負の感情めっちゃあるし」


「そこは否定しないんですね」


「だから、こういう曰く吐きの場所でなら、あんまし迷惑かかんないかな〜って」


「取り込まれたいんですか、こんなのに?」


彼は目の前に漂っている黒いモヤに指を差しながら言った


「お前が言うなつーの。まぁ、でも思ってたより簡単じゃないかもね」


ここに存在している黒いモヤ達は、村の呪いによって犠牲になり縛られた魂達だ。彼らは呪いの一部となって、この地に縛られ彷徨い続けている


それだけでなく、この地そのものが呪いに包まれている。霊力の高い彼女が居る事で二人には、まだ影響はないがそれも時間の問題だろう


「はぁ。これに取り込まれたらさ…多分、アタシの霊力吸収して呪いが広がって、新たな力を与える事になるかな〜」


「じゃ、貴方も自殺は辞めるんですか?」


興味本意で聞かれたその質問に、彼女は黒いモヤをジッと見つめ、その数秒後答えた


「……アタシは、別にそれでもいいけどね〜。アタシの場合、アンタと違って道連れ計画じゃないし、呪いが広がったとしても、そう言う時の為に一族がいる訳っしょ。犠牲者が増える前に、祓ってくれるだろうしね」


呪いの一部となったとしても、自分を祓ってくれる人が居るなら問題ないと、彼女は冷酷にそう言った


「まぁ、アンタ次第かな」


思いもよらなかった彼女の言葉に、彼はあからさまに嫌そうな顔を向ける


「自分の生き死にを、他人に委ねないで下さい」


「そうもいかないんだよね〜。対ノ村を出たかったら、二人で死を分かち合うしかないよ。脱出する方法がそれしかないの」


「……対ノ村だから。つまり、僕たちがこの呪いを利用し対になる事で生きて出られる、そんな所ですか」


「頭いいじゃん。この状況でアタシとアンタが死を共有つまりは、死にたい理由を話し合えば無事、対になれる。血の契約よりかは楽っしょ」


死にたい理由なら、彼女は先ほど話した。あとは彼が話せば脱出できる、その事を瞬時に悟った彼はため息混じりに言った


「だから、僕次第なんですね」


納得した彼は、諦めたかのように渋々と話し出した


「よくある話ですよ。交通事故で死んだ両親の代わりに叔父夫妻に引き取られる。その家の一人息子は病気で、僕には多大な保険金が掛けられている。この意味分かります?」


「アンタの保険金で手術をするつもりなんだね」


「もうすぐドナーの順番が回ってくるんです。しかも、その息子が本当の兄だって分かって、兄を助けるには僕は死なないといけない」


「そう言う事ね、アンタはこんな事考えた叔父に復讐したいんだね。死亡届が出されれば保険金も出るし手術はできるって訳か」


「抵抗したかっただけです……貴方の言葉を借りるなら、僕は殺される為に産まれてきたから」


その瞬間、彼の負のエネルギーに吸い寄せられ黒いモヤが一斉に二人を包み込んだ


(あぁ、飲み込まれる。僕が死んだら兄も道連れになる……もういいや、何もかもどうでも)


目を閉じてるのかどうかすら分からない真っ暗闇の中、ふと手に温もりを感じた


「死にたい理由も生きる意味も分かち合えばいいじゃん、アタシら対なんだし」


彼女の気だるげな声音が聞こえてきて、気づけば二人は手を繋ぎながら道端で倒れていた


煩いぐらいの蝉の鳴き声で目を覚まし、今までの出来事が嘘だったかのように、いつもの日常に戻って来ていた


「お腹空かない?」


「開口一番がそれですかまぁ、空きましたけど」


「空いたなら言うなよ。あっ、駄菓子屋あんじゃんラッキー」


「子供ですか」


古臭い駄菓子屋を見つけると、彼女は一目散に走っていく。まだ日は高く、先ほどまでの肌寒さとは対照的に肌が焼けそうなぐらい蒸し暑かった


(感覚がおかしくなる)


さっきまでは死ぬ気でいたのに、今は呑気に駄菓子屋に居る。夢でも見ていたのかと思うが、彼と彼女の手の平にはしっかりと、呪いの刻印のようなものが浮かんでいた


彼は店前に出てある冷えたショーケースに気づくと少し考えた後、複雑な表情をしながらもスイカ味のアイスを手に取ると、寝ている店主の前にお金を置いた


「何買ったの」


彼は二つの棒がついたアイスを半分に折ると、その一つを彼女の前へと差し出す


「溶けるんで、食べるならさっさと受け取って下さい」


恥ずかしいのか目を逸らす彼に、一瞬驚きながらも彼女は嬉しそうにアイスを受け取った


「ありがと」


彼らの問題は何一つ解決していない


だけど、呪いの影響により対になった事で、分かち合える存在ができた事で、何かが変わっていくだろう


その先の物語は、きっと別のお話

                

「ご拝聴下さり、ありがとうございます。こう言った出会いの始まりは、わたくしの好きなお噺の一つなのです」


にっこりと少女の様に微笑むと、彼の手の平に青色の蝶が止まる


「皆々様にも、人生を揺さぶるような素敵な縁があらんことを…。これにて失礼致します」


手の平をそっと両手で閉じると、彼は瞬く間に姿を消した

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