第7章
ダンジョン侵入二日目。
あいつらは、第三階層へと到達していた。
俺はモニターの前で、思わず唸る。
第二階層のトラップ群は、もっと足止めになるはずだったんだが。
「まあ、パワーアップの仕方が分かれば、対処も早くなるか」
第二階層のジャングルエリアとは打って変わって、第三階層は、古代遺跡のような荘厳な雰囲気が漂っていた。
空気は乾燥し、ひんやりとしていて、どこか学術的な匂いがする。
ここからは、脳筋なだけじゃ進めない。
祖父が仕掛けた、特に悪趣味な「知能トラップ」のエリアだ。
案の定、三人の行く手を阻むように、巨大な石の扉が立ちはだかっていた。
扉には、複雑な魔術紋様がびっしりと刻まれているが、これはただの飾りだ。
問題は、その中央に古代文字で刻まれた、一つの「なぞなぞ」だった。
「うおおお、邪魔だーっ!」
エルマが扉を殴りつけるが、ゴツン!と鈍い音がして、彼女の手が痺れるだけ。扉はびくともしない。
「ならば、聖なる力で!」
アリシアが聖剣をかざすが、扉はただ沈黙を守るのみ。
「無駄です、二人とも」
静かな声と共に、ルナがすっと前に出た。
彼女は、ローブのフードを目深にかぶり直し、扉に刻まれた古代文字をじっと見つめる。
「これは、魔力で封印されているようで、その実、ただの論理パズル。いわゆる『知恵の輪』の類です。答えなければ、扉は開きません」
「あたし、そういうの苦手なんだよなー」
「くっ……回りくどい真似を……」
エルマとアリシアがお手上げの中、ルナは「ここは私に任せてください」と、自信を覗かせた。
彼女は、まるで難解な数式を解くかのように、なぞなぞの構造を分析し、その答えを一つ一つ導き出していく。
その冷静沈着な姿は、普段の無口な印象とは違う、頼れる賢者の風格を漂わせていた。
だが、最後の最後。答えを導き出すための、決定的な一つのピースが足りない。
「……うーん……あと一歩、なのですが……」
ルナが腕を組み、小さく首を捻った。
そして、いくつかの可能性の中から、最も確からしいと思われる答えを、ためらいがちに口にする。
「……答えは、『影』、でしょうか」
その瞬間だった。
ブブーッ!と、間の抜けたブザー音が鳴り響き、彼女の足元に描かれていた魔法陣が、禍々しい赤色の光を放った。
「しまった!」
ルナが叫ぶのと、見えない魔力の腕が彼女の体を捕らえるのは、ほぼ同時だった。
「きゃっ!?」
小柄な体が、まるで操り人形のように、抗う間もなく動かされていく。
しかし、その罰は、ただのポーズではなかった。
「こ、これは……なん……!?」
魔法の力は、ルナをうつ伏せに押し倒し、そして、彼女の細い両足を、むりやり左右に大きく開かせた。
膝を折り曲げ、お尻を高く突き出す――いわゆる、完全な開脚M字。
あまりにも無防備で、あまりにも、ふしだらな格好だった。
「ルナ!?」
「な、なんて格好をさせるんだっ!」
彼女の体を隠していた大きなローブは、そのせいで全く意味をなさなくなっている。
薄いインナーに包まれただけの、小さく形の良いお尻が、ダンジョンの天井に向かって、これ以上ないほど無防備に晒されていた。
ローブの裾から伸びる、驚くほど細く白い脚が、屈辱にぷるぷると震えている。
だが、本当の罰は、ここからだった。
ルナの手足が触れている床の魔法陣が、ぶぅぅぅん、と低い唸りをあげて振動を始めたのだ。
「んんっ!?」
最初は、微かな痺れ。
だが、振動は次第に強まり、彼女の手足の先から、体の芯へと、抗いがたい痺れと快感が津波のように浸透していく。
「くっ……やめ……思考が……まとまら……なぃ……」
ルナは、必死に頭の中でなぞなぞの答えを組み立てようとする。
だが、全身を駆け巡る、脳を直接揺さぶるような振動のせいで、思考が霧散していく。
「ぁ……う、ぅぅん……♡」
冷静沈着だった彼女の口から、とうとう甘い喘ぎ声が漏れ始めた。
固定された体は、意思に反してびくん、びくんと痙攣し、突き出されたお尻が、く、くいっと微かに揺れる。
その様は、もはや賢者ではなく、ただ快楽に喘ぐ一匹の牝だ。
モニターの前で、俺は息を詰めていた。
なんだよ、このトラップ。祖父の奴、悪魔かよ。
そして、アモーレ・マナのゲージが、見たこともない勢いで振り切れていく。
こいつもだ。こいつも、あの二人と同じ、「特異体質」……!
ルナの思考が、快感の波に完全に飲み込まれようとしていた、その時。
「だめ……もう……考えられ……な……いぃぃーーーーーっっ!!♡♡」
甲高い絶頂の声と共に、彼女の意識が、肉体の檻から解き放たれた。
ドクン、と。
彼女の紫色の瞳が、カッと見開かれる。
だが、その瞳はもう、このダンジョンの壁を映してはいなかった。
無数の情報、数式、世界の法則そのものが、光の奔流となってその小さな瞳に流れ込んでいく。
『叡智の奔流』
脳のリミッターが外れ、世界の真理に触れた彼女の頭脳は、もはやなぞなぞを「解く」のではない。
「理解」していた。
ルナは、まだ体を震わせながら、恍惚とした、それでいてどこか神々しい声で、本当の答えを紡いだ。
「……答えは、『沈黙』」
ゴゴゴゴゴ……と、重々しい音を立てて、石の扉がゆっくりと開いていく。
同時に、ルナを縛っていた魔法の拘束と、快感の振動が、ぴたりと止んだ。
彼女は、くたり、と床に崩れ落ち、荒い息を繰り返す。
「ルナ、大丈夫……!?」
アリシアが駆け寄るが、ルナは素早く身を起こすと、一目散にローブを深くかぶり直し、仲間たちに背を向けた。
「……問題、ありません。早く、行きましょう」
その声が、ありえないほど上ずっていることに、彼女たちは気づいただろうか。
さっさと開いた扉の向こうへ消えていくルナ。
俺は、コンソールのカメラを、次の部屋へと切り替えた。
そこには、壁に手をつき、ぜえぜえと肩を震わせるルナの姿があった。
顔を両手で覆っているが、その指の隙間から、耳だけでなく、首筋まで真っ赤に染まっているのが見えた。
これは、ただの知恵の輪じゃない。
理性を重んじる知能タイプを、最も効果的に、最も屈辱的に「絶頂」させるためだけに設計された、悪魔の装置だった。