第5章
第一階層を突破したあいつら――聖騎士アリシアのパーティーは、思ったより慎重だった。
特にリーダーのアリシアは、さっきの失態がよほど堪えたとみえて、石橋を叩いて粉々にする勢いで警戒している。
「いいですか、二人とも。この階層は、第一階層とは明らかに気配が違います。油断しないように」
「はいはい、わーってるって!」
「了解」
モニター越しに聞こえる三人の会話。
俺は、コンソールに頬杖をつきながら、その様子を観察していた。
第二階層。ここは、石造りの回廊だった第一階層とは違い、まるで地下に形成されたジャングルのような場所だ。
湿度が高く、じめりとした土の匂いがモニター越しにまで漂ってきそうだった。
そして、この階層の主役は、天井だ。
天井一面を、まるで血管のように、不気味なほど黒々とした蔦がびっしりと覆っている。
一見するとただの植物だが、もちろんそんなわけがない。
あれは、魔力に感応して侵入者を捕らえ、その肌を嬲り、快楽の渦に引きずり込むための、生きたトラップだ。
パーティーが、広間の中心に差し掛かった、その時だった。
天井の蔦が、ざわり、と一斉に蠢いた。
数十本の蔦が、黒い蛇のように天井から射出される!
「危ないっ!」
真っ先に反応したのは、エルマだった。
彼女は、アリシアとルナの二人を、その小さな体で一度に突き飛ばした。
二人が床を転がるのと、エルマが残りの蔦に捕まるのは、ほぼ同時だった。
「しまっ…………!」
あっという間に、十数本の蔦がエルマの手足、そして胴体に絡みつき、彼女を無防備に宙吊りにしていく。
「このっ、離せーっ!」
エルマは空中で必死にもがくが、蔦は濡れたようにぬるぬると動き、拘束を強めるだけだ。
彼女が暴れるたびに、ぴっちりとした黒いインナーが汗で肌に張り付き、鍛えられた体のラインが露わになる。
「エルマ!」
アリシアが助けようと剣を構えるが、それより早く、トラップは第二段階へと移行した。
蔦は、ただ縛るだけではなかった。
その表面から、さらに細い触手が無数に伸び、まるで蛇が獲物を味わうかのように、エルマの素肌を舐めるように這い回り始めたのだ。
「ひゃぅっ!? な、なんだよ、これ……っ」
最初は、脇の下や首筋をくすぐるような、まだ我慢できる感触だった。
だが、蔦の侵食は止まらない。
数本の触手が、彼女の着ている胸当ての下に滑り込み、柔らかそうな胸の膨らみを下から押し上げ、その先端を優しくこすり始める。
「んんっ……♡ や、やだ……なんで、あたしのからだ……っ!」
エルマの声に、焦りと、そして明らかな甘さが混じり始める。
さらに、最も太い蔦の一つが、彼女の股間へと伸びていった。
動きやすいように作られた武闘家用のホットパンツの上から、その先端を、もっとも敏感な場所にぐりぐりと押し当てる。
「あ…………っ♡♡」
エルマの口から、完全に音になった喘ぎ声が漏れた。
腰が、びくん、と大きく痙攣する。
「や、やめ…………こんな、の…………あたし…………っん、んぅぅ…………♡」
その体は、もう彼女の意思に反して、蔦の与える快感に正直に反応してしまっていた。
背中を反らし、潤んだ瞳で天井を仰ぐ姿は、もはや戦士ではなく、ただ快楽に翻弄される一人の女の子だ。
モニターの前で、俺は息を呑んでいた。
「こいつもかよ…………!」
アモーレ・マナのゲージが、アリシアの時と同じ、いや、それ以上に急激なカーブを描いて上昇していく。
特異体質、二人目。確定だ。
そして、ついに。
エルマの体が、限界を告げるように大きくしなった。
「あ…………ん、んぅ…………もう、だめぇぇーーーーーっっ!!♡♡」
絶頂の叫びが、ダンジョンに木霊する。
ドゴォォォンッ!!
次の瞬間、エルマの体から、燃え盛る炎のような、真っ赤な闘気のオーラが爆発した!
それは、聖なる光などではない。
もっと、暴力的で、根源的で、純粋な破壊の力。
『覇拳炸裂!!』
雄叫びと共に、エルマは自らの筋肉を限界まで膨張させた。
そのすさまじいパワーに耐えきれず、彼女を拘束していた蔦が、ブチブチと音を立てて千切れていく。
解放されたエルマは、猫のようにしなやかに着地すると、まだ赤い闘気をまとったまま、自分の拳をじっと見つめた。
その体は汗と、蔦の粘液でぬらぬらと光り、荒い呼吸で肩が上下している。
「な、なんだろ…………今の…………」
彼女は、ぽかんとしているアリシアとルナに向かって、困ったように眉を寄せた。
その表情には、羞恥よりも、純粋な混乱と、そして少しの興奮が浮かんでいる。
「すっごく変な感じだったけど…………でも、なんだか、力がみなぎってくるみたい…………!」
そう言って、彼女は試しに拳を振るう。
ブンッ、と空気を切り裂く音は、以前とは比べ物にならないほど鋭く、重い。
その様子を、アリシアは複雑な表情で見つめていた。
エルマの、自分とは全く違う反応に、彼女の葛藤はさらに深まったように見えた。
「マジかよ…………」
俺は、呆然と呟いた。
アリシアの羞恥心とは違う。
エルマは、訳が分からないまま、快感と、その結果得られた力を、ある意味、素直に受け入れようとしている。
どっちにしろ、とんでもなく面倒くさいことには変わりない。
俺は、きりきりと存在を主張し始めた胃を押さえながら、目の前のモニターに映る、新たな問題児たちを睨みつけるしかなかった。