第3章
モニターに映る三人組が、第一階層の石造りの通路を進んでいく。
俺は、やれやれと首を振りながらコンソールを操作し、前方の通路にトラップを準備した。
「ま、せいぜい頑張ってくれ」
俺が用意したのは、このダンジョンの看板とも言える伝統的なトラップ。「快楽粘液」。
物理的なダメージはないが、精神的なダメージ――特に、プライドの高い女騎士様なんかには――特効がある。
案の定、先頭を歩いていた金髪の聖騎士、アリシアが、床にうっすらと描かれた魔法陣に気づかず足を踏み入れた。
「アリシア、足元!」
後方のルナが冷静な声を上げたが、時すでに遅し。
天井の岩陰から、ぬるり、と。
ピンク色の、ゼリー状の塊が、まるで熟した果実が木から落ちるように、アリシアの頭上へと正確に落下した。
「きゃあっ!?」
可憐な悲鳴が、スピーカーから俺の耳に届く。
べちゃり、という生々しい音と共に、スライムはアリシアの頭からその体を覆い尽くしていく。
「な、なによこれ……! ねばねばして……離しなさいっ!」
アリシアは必死に身を捩り、聖剣を振るおうとするが、スライムの粘着性は凄まじい。
剣は手から滑り落ち、彼女の体は完全にピンク色の粘液に捕らえられてしまった。
そして、ここからがこのトラップの本番だ。
「ひゃっ!?」
スライムは、意思を持つ生き物のように、うねうねと動き始めた。
まずは、彼女が誇らしげに身に着けている白銀の鎧。
その美しい装飾が施されたプレートの隙間に、ピンク色の触手がぬるり、ぬるりと侵入していく。
「あ、だめ……! やめて……! そんなところ……んんっ!」
首筋、脇の下、そして胸当てと腹当てのわずかな隙間。
敏感な素肌を、ひんやりとした粘液が直接撫で回す。
モニターに映るアリシアの顔が、みるみるうちに羞恥と熱で赤く染まっていく。
おいおい、聖騎士様のお顔がとんでもないことになってるぞ。
「こ、こんなもので……この、聖騎士である私が……くっ……!」
彼女の気高い碧眼が、屈辱と抗えない快感のせいで潤み始める。
悔しそうに唇を噛むが、漏れ出てくるのは、か細く甘い喘ぎ声だけだ。
「あ、あぁ……♡」
さらに、スライムはその特殊な酵素で、鎧を繋ぎとめている革のベルトを溶かし始めた。
ぷつり、ぷつり、と音を立てて、頑丈だったはずの鎧が無力化されていく。
まず、胸当てが緩み、重力に従ってわずかに下にずれる。
すると、これまで鎧に押し付けられていた、豊かな双丘が、ぷるん、と解放された。
シンプルな木綿の下着に包まれたその柔らかそうな膨らみが、スライムの動きに合わせてたゆん、たゆんと揺れている。
「いやっ……! み、見ないで……!」
誰に言うでもなく叫ぶアリシア。
だが、無情にもスライムの触手は、露わになった胸の谷間へと集い、その先端にある硬くなった突起を、ねぶり、ころがし、ついには優しく吸い始めた。
「んくぅっ……! あ、あ、あう……♡♡」
腰をかばっていたプレートアーマーも外れ、下着一枚になった白い腹部が露わになる。
スライムは彼女の体を締め上げ、くすぐり、這い回り、その腰は意思とは無関係にびくん、びくんとしなやかな弧を描いた。
もう、聖騎士の威厳なんてどこにもない。
ただ、快楽に身をよじる一人の女の子の姿がそこにあった。
モニターの前の俺は、ただ無表情でその光景を見つめる。
いや、無表情を、必死で取り繕っていた。
なんだこれ。なんだこの聖騎士。反応が、良すぎる。
コンソールに表示される「励起魔素」の出力ゲージが、俺の予想を遥かに超えて、とんでもない勢いで振り切れていく。
そして、ついに。
アリシアの体が、弓なりに大きく反り返った。
「いっ、くぅぅぅーーーーっっ!!」
思考が真っ白になったかのような、絶頂の叫び。
その瞬間だった。
――カッ!!
アリシアの体から、金色の光が爆発した。
それは、これまで彼女が放っていた聖なる光とは比べ物にならないほど、眩しく、そして圧倒的な奔流だった。
黄金の光が、彼女を包んでいたピンク色のスライムを、一瞬にして蒸発させていく。
光が収まった後。
そこに立っていたのは、鎧が半壊し、白い肌をあちこちで晒したまま、ぜぇ、ぜぇ、と肩で息をするアリシアの姿だった。
肌はほんのりピンク色に上気し、潤んだ瞳は焦点が合っていない。
だが、その体からは、先ほどまでとは比較にならないほど強大な聖力が、オーラとなって立ち上っていた。
「……今の、は……?」
何が起きたのか理解できず、自分の体と、跡形もなく消え去ったスライムを交互に見ながら、彼女は呆然と立ち尽くす。
その頬は、リンゴのように真っ赤だった。
「アリシア! 大丈夫か!?」
「今の魔力反応……異常です。計測不能なレベルでした」
エルマとルナが駆け寄る中、俺はただ、モニターに映るその光景から目を離せずにいた。
「……なんだよ、今の……」
ぽつりと、思わず声が漏れた。
俺は、ごくりと唾を飲み込んだ。
ただの退屈な仕事のはずだった。
それなのに、胸の鼓動が、やけに速い。
「……とにかく、データは取れた」
俺は自分に言い聞かせるように呟き、震える指で戦闘記録の保存ボタンを押した。