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クローモ・ファトゥム ― 色なき運命へ  作者: 霧雨桜花
プロローグ : クローモの祈り火
2/9

断章 : 兆しの夜

 夜の帳が、あまりに静かに落ちてきた。


 星読台の頂に立ち、アレセアは空を見上げていた。

 無数の星は、今宵も確かにそこに在る。定まった軌道、綴られた詩、揺らがぬ神話。

 けれど――胸の奥を掠めた、微かな”色の乱れ”。


「……また、歪んでる」


 独り言のように、けれど確かな声で呟いた。

 観測者である自分だけが気づける、わずかな”ほころび”。

 星の配置、光の届く角度、重なる運命の糸の編み目――その一つが、微かにずれていた。


 エリオヌスの祈り火が掲げられてから、そう日は経っていない。

 なのに、この違和感は何なのだろう。あの”火”は、ただの儀式ではなかったのか?

 それとも、神自身が何かを変えようとしているのか。


 だが、それを誰かに告げることはできなかった。

 今の彼女に、信仰というよりどころはもうない。

「神のかんなぎ」であった時代は終わり、ただ「兆し」を読む者に過ぎない。

 言葉にすれば、また傷が疼くのだ。


「それでも……来る。間違いなく、“誰か”が来る」


 口元にかすかな震えを宿しながら、彼女は目を閉じた。

 遠くで、まだ知らぬ運命の”音”が鳴り始めている。

 それは、世界を覆う織り目に刻まれる異分子の到来――


 そしてその「音色」に、ほんの一瞬だけ、彼女の心が懐かしく揺れた。


 まるで、かつての祈りに似た――けれど、それとは違う”別の希望”を想起させるような。


(――名も知らぬあなた。

 その”色”を、どうか私に、見せて)


 夜の風が、静かに星読台を吹き抜けていった。

 そして、運命はゆっくりと、その端をほどき始めていた。

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