第95話 炎と嫉妬
六年前、勇那の国、虎成城下。
一座は虎成城下に戻った。
かねてから、言い含めてあったので、一座はここで解散することになった。団員それぞれに過分に金子を持たせ、それぞれに散り散りとなる。夫婦がジカイからの運用資金に手を付けなかったのはこういうことをすんなりといかせるためだ。
何も知らない団員が去ると、古参の忍び連中は虎成のジカイの元に戻され、ムミョウ丸捜索班が再編成された。長はやはり、雷蔵夫婦。人の目が多すぎる虎成城下を避け、獅子谷村の外れにある旅籠の主人に化けた。ここの老翁はジカイの手下で、周囲には放蕩息子夫婦が娘を連れてやっと帰ってきたという触れ込みがしてある。
頃は、ムミョウ丸がいなくなって十日過ぎ、この頃、勇那の国では那岐の猛攻を退けた虎成城ではなく、手薄だった天巫女城が落ち、救援と勇那守の四男シロウ達の捜索、保護をする部隊が虎成城下を発った後であった。
ームミョウ丸様の存在を虎河や彩芭に知られるワケにはいかないー
雷蔵とお辰の頭にもたげるのはコレだけだ。
客のなりをして泊まりにくる配下の者にアレコレと隠れて指示を出す。
そんな大人たちを尻目に、一番納得していない者がいた。
サヤだ。
ーなぜ、自分に黙っていなくなったのか?ー
ともすると、さらってまで逃げようと想った相手だ。
ーなぜ、自分の手からみんなこぼれ落ちる?ー
たくさん失い、ひとつ帰ってきたと思ったら、また誰かいなくなる。
幸せというものは、全部が一緒にいない。ぜいたくなのだろうか?
でも、ウチは探す。椀を握りしめる。
女将さんに言われた。大人に任せろと。
違う。ウチが探しだすんだ。
ムミョウ丸を探すのに理由や理屈はない。
ただ、会いたい。側にいたいそれだけだ。
サヤはひとりで探し始めた。
それから、一月半ほど過ぎた頃のことだった。天巫女の若君はもう一月も前に無事発見、虎成に連れ戻されたらしいが、その時にはぐれた家臣達の捜索がまだ続いているという。
戦のドタバタで、村の外に出るにも苦労する。
サヤは決めた。
今日はあそこを探そう。あそこに入ってみよう。 あそことは、獅子谷村の川下に広がりつつあったク海のことだ。サヤは帯に挟んだ懐剣の袋をしっかりと差し直し、お椀を両手で抱きしめて歩き始めた。
それは、薄暗い森だった。
確実にク海に入っている。あのクモモドキに襲われた時のように目が霞むからだ。
南に川を伝っていくといずれは天巫女方面へ出るはずだ。
少し休憩と川の大きめの石に腰をかけた時だった。馬を駆る声と蹄の音がする。サヤは思わず石の影に隠れた。
誰かが追われている。女の子と男の子、姉弟だろうか?十五、六の少女が四、五歳の男の子の手を引いて逃げている。
追っているのは、・・・騎馬武者だ、赤い鎧を着て、槍を掲げている。
危ない。騎馬武者は子どもでも容赦しないようだ。多分これが那岐の兵士なのだろう。
「ん?」男の子はムミョウ丸だ。
「誰?その女!」
これが、偽らざるサヤの第一声だった。
そして、その手で懐剣が勢いよく抜かれた。炎は刀身の五倍にもなる。
いまだかつてない大きさだ。
忘れてはならない。・・・ここはク海であることを。
嫉妬は・・・炎を生み出すほどの強い感情だ。
「あんたっ何しよっと?すっごい心配したのにっ!」




