第76話 魚と翼
さて、茶番はここまでだ。
「アップトリム一杯!」
ムラサメはグングンと高度を上げていく。いや、ここがク海という海ならば浮上しているのだ。
「少し距離を取って取り舵で回り込むわ。」
舵を取るマチルダがムラサメを反時計回りで捻りこんでいく。
「電探魔法陣に敵影探知!方位275度。目標多数!。」
メルが、アダケモノの発生を感知する。
「探信音打て!」 シロウの号令がかかった。
すかさずマリスが涙波紋を鳴らす。ムラサメを中心に耳が開く。
「みんな、これ新しい型だよ!お魚だ!」
ユーグは敵の情報を分析する。性分のようだ。
「舵をサヤに交代するわ!」マチルダが突然交代を宣言した。
一瞬、ムラサメが沈み込むように揺れた。
「サヤ!大丈夫か?」
「うん。サヤ、いただきました。取り舵いっぱぁーい。」
「敵、間もなく正面に捉える。距離3500」メルの報告。
「もぉどぉーせー。当て舵10度。」
舵を戻すサヤ。上手いもんだ。
「敵、真っ直ぐに突っ込んでくる。」
メルがユウジの拡張視界に俯瞰図と敵の位置を送ってくる。真っ赤だな。
「雷数15!わかった!これダツだ。すべて測的できてるよ。」
ダツだと?
「見たことないけど、本物の海にいる、刀みたいなお魚だって!」
ユーグ、楽しそうだな。君、今お魚図鑑広げてるだろ、きっと。
「刺さるんだってぇ!わあ!」
「対処方法は?」シロウの声が聞こえる。
「ムラサメ自体には武装はありません!」とメル。
「こういうこともあると思って!」
ステラが控えていた涙波紋を攻撃用に発振する。
ムラサメから球状に攻撃的衝撃音が放たれ、15匹のダツを迎え入れた。
ダツは砕け散る。・・・・いや。
「敵はまだ生きている!そのまま来る!」
メルの声が上擦った。
ダツは本体が本当に刀だったのだ。外側は鎧の役割も果たすようだ。敵陣奥深くまで刺しこむ刀なのか?!
「モモ!」シロウが叫ぶ。
ムラサメの艦首に桃色の大きな瞳が現れ、敵の前に六芒星の盾狼が立ちふさがる。
刀モドキは防壁に阻まれて粉々に砕け散った。
「へっへーん。わたしが出力をお裾分けしたの!硬さと大きさは3倍よ!」
星の印がやけに嬉しそうに震える。
モモが瞬きをした。防壁が消えかける。
「あっちょっと待って、モモちゃんもう一回!いや張ったままっ。お願い!」
ユーグはモモに向かって叫ぶ。
モモは素直だ。もう一回防壁を張ってくれる。
それと同時に、閃光と大轟音と衝撃にムラサメが震えた。
「うわぁぁぁぁぁああ。」
艦内に絶叫が響き渡る。
「艦内各部異状なし。システムオールグリーン。」
露嶽丸の声はぶれていない。
「みんなケガはありませんね?」
「ああ、メルこっちも大丈夫だ。」
「ああ、ユウジ様、良かった。」
ユウジは鎧を着ているといえども、艦外にいるからだ。
「さっきのは何だ?ユーグ殿。」
「うん、ハリセンボンの浮遊機雷みたい。大ムカデはばら撒きながら逃げてるよ。シロちゃん。」
その機雷という海に浮かぶ爆弾は、触ったと同時にあのアダケモノの硬さの破片も爆風と同時に巻き散らすという、非人道な代物らしい
「追いかけられるか?」シロウが問う。
「先に我らの涙波紋で先んじて掃海してくれるわ!」ステラが胸を張る。
「機関出力をあげてっちゃうから大丈夫よん。」と星娘。
「後は爆風によって、外力が発生するのですが。」
メルは爆風によって、上手く進めないことを心配している。
「そこは、ウチがなんとかするっちゃ!」
ああ、出た。サヤの根拠のない度胸。
「まぁいい。行くしかないな!。」
ここまで来たらそうであろうな。若様よ。
「こちら、マチルダ。武装の換装の準備はできたわ。月の荒鷲が出てくれるって!ユウジ殿よろしくて?」
舵をサヤに託して姿の見えなかったマチルダが連絡してきた。
「へっ?」
マチルダさんそれはどういう?
「月の荒鷲の飛行型よ。月の天鷲って呼んで欲しいって!じゃあ換装始めるね。」
問答無用。相変わらず拒否権なしのユウジ。
ユウジの周りに金色の光がたくさん舞い始めた。
うん?ローラ?ローラがいっぱいいる。
背中に翼がとりつけられる。いろんなところでたくさんのローラが換装作業を手伝っている。
旗まで振ってるじゃないか。
ひとしきり世話を焼くと彼女たちは手をふって消えた。ひとりを残して。
「発艦のタイミングはユウジ殿に譲渡します。」
メルが拡張視界右下に現れた。
月の天鷲はフックでムラサメと繋がっていた。
羽から緑色の光がものすごく勢いよく噴射している。後はこれを切れば飛び立てる。
最後のローラが背中を叩き、前に飛び出て旗を前方に振る。
「発艦準備良し!」
「許可する。」シロウの声が響いた。




