第74話 艦と少年
動けないグンカイの前にその男は降りたった。
脳天に穴を開けられた大ムカデはまだ暴れまわる。断末魔のもがきなのだろう。
黒い鎧の男は、槍で飛んでくる攻撃を軽く躱し、槍を構えると大ムカデの砕いた尻尾から頭に向かい槍を突き立てて奔った。
一刀両断、槍であってでもこの言葉は使えるのだろう。
大ムカデは真っ二つになって倒れた。
そして、
「若様!一度退いてくだされ!迎えがきております!」
シロウは聞き覚えのある声だった。
いや、聞きたい声だった。
己の誘いの先で、滝に落ちた、死んだかと思ったあの少年の声。
弟だとも思っていた古くからの馴染みの声。
「そっ、そなたは・・・そなたは・・・本当に、生きっ生きて・・・。」
己の不始末は山ほどある。
もう二度と見ることのできない日常の顔も山ほどあるのだろう。
でもその中で、ひとりでもまた会うことができるのなら。
「若様!ご家老様を連れて早う!退いてくだされ!」
「ユウジ!有慈郎!お前なのかっ?!」
鎧の男は振り返り、面当てがひとりでに開いた。
「遅くなりました。片城有慈郎、ただいま帰参いたしました。」
「こんのアホウ!遅いわっ!」
ユウジの面当てが自動で再装着された。
虫のアダケモノが動き始めている。ユウジの拡張視界に赤い攻撃色が急激に増えているのが映る。 仇花頭の大ムカデの大将は、番の犠牲の間にも力を補充していたのだろう。
「若様、早うこちらへ!」
後方からサヤの声がした。
「えっなんで?えっ!なんだこれ?」
シロウが振り向くと、黒い大きな筒状の物体が浮いていた。
そして、その横の扉が開いていて、サヤが手招きをしている。
「若様、早うケガ人をっ!早う!」
サヤが叫ぶ。
シロウはふと我に返り、グンカイとチエノスケをステラマリスとユーグの力を借りてその扉の内に担ぎ込む。そして振り返る。ユウジが残っておる。出ようとする。
「いいから!まず閉めて!」
サヤが必死に引き留めて扉を閉めた。
黒い大きな物体の扉が閉まったのを確認すると、
「よし、これで遠慮なくやれる。」
「ユウジ殿、状況を伝えるわ。」マチルダが拡張視界に現れた。
「ああ、そっち大丈夫?」
「ええ、今、サヤとメルがケガ人の手当てをしているの。」
「ああ、その処置が済むまで艦を離してくれないか。」
「了解、舵は私が取るわ。態勢が整ったらまた連絡する。気を付けて。」
艦と呼ばれた黒い乗り物は、高度をあげながら面舵をとって離れていく。
「今度こそ、暴れようかのう!殿!」
小鹿の印が飛び跳ねる。
「ええ、大叔父上!」
「我が天巫女に続き成馬宮にまで好き勝手しおって!許さぬ!」
璃多姫様はご立腹のようだ。
バッタのアダケモノが弾丸となり魂座の黒い武装に飛んでくる。
人間が生身でいたら、たちまち肉をえぐられ崩れ落ちていただろう。
ユウジは右手で飛んでくるバッタを一匹捕まえた。
ガチガチと口を鳴らす姿には嫌悪感しかない。
「本当に、好き勝手してくれるよな。」
軽く握りつぶして、ユウジが槍を構える。
「ああ、旦那様。妾の方がお役にたてまする。」
ユウジは、フト止まった。
「うん、そうだな。そうする。」
槍と鉄砲を交換する。
「ちょっと待て!ワシがやりたい!」
「登場のひのき舞台は譲ったので、妾の番ですわ!」
「うぬぬ!」
ユウジは構わず散弾銃を乱射し、虫モドキを叩き落としていく。
遠くに土煙が見える。アイツを突撃させるらしい。
左手に預けた散弾銃を離して瞬間握ると狙撃銃になった。
「虎成に帰ってみれば、燃え上がっていて、皆、北に逃げたという。」
歩きながら照準を定める。
「多くの人達をその牙にかけたな・・・。許せねえ!」
撃鉄が落ちる。
イノシシも崩れ落ちる




