第72話 音と鏃
大ムカデの目指す場所
そこは崖の上の開けた野原だった。
シロウ達の目にも、アダケモノの中心に横たわる大ムカデの姿が見える。何かしらの補給活動は始まっているのだろうか?動きがない。
こちらも、ユーグの見立てを元に、薄皮をはぐようにアダケモノに対処をしながら近づいていく。アダケモノを発生させるのには、かなりの労力がいるのであろう。さすがにイノシシなどの大型の個体の出現が減ってきている。ハエやバッタ、トンボなどの虫モドキで、飽和攻撃を仕掛けてくるようになってきた。
ステラとマリスは攻撃と防御も兼ねた涙波紋の衝撃波をひとりづつが時間差で放ち、発振間隔を短くすることで、時間による効果の空白時間を少なくしてくれている。
主な攻撃は虫モドキの粉砕時に起こる波石の破片を利用してユーグが星王の光芒の乱反射で担当する。
バッタモドキなどにすり抜けられたら、一瞬で人間など喉笛を食いちぎられるだろう。
とても危険な野原だ。
どうやら、補給は準備段階というところのようだ。花が見える、ほとんど動きはない。
「ここで良い。」
グンカイが月の荒鷲を構える。
「分が悪いが、これなら・・・」
月の荒鷲が普段より大きく、大きく翼を広げていく。ギリギリと鳴る弦は銀色の光を纏う。
普通に撃っても犬モドキの首など軽く飛ばしてしまう矢なのだ。
上手く当たれば、あの固い石の花の首も獲れるかもしれない。
音を置いてけぼりにして矢は飛び立った。
グンカイよ、全然分が悪くないぞ。むしろ温存しすぎだ。
ー獲れるー ・・・そう思った。
放たれた矢の前に飛び出したアダケモノがいた。いやそこの生み出されたのか。盾となるとばかりに大ムカデの前で立ちふさがる。大イノシシ・・・お得意の真向勝負だ。
矢はそのまま大イノシシに当たる。
倒れていた。
大イノシシは眉間から尻まで荒鷲に貫かれて。
しかし、そのためにムカデの仇花は微かに花弁を傷つけられるだけで済んだ。
「グンカイ!次の矢を。」
シロウは叫ぶ。
「申し訳ござらぬ。今の矢はしばらく撃てませぬ。」
グンカイは腕を抑えている。痺れているようだ。大砲より威力のある矢を放ったのだから仕方のないこと。分が悪いってこういうこと?
機会を逃した。次はどうする?シロウは考えを巡らす。
動きがあったのは大ムカデの方だった。
なんと地中に潜ったのだ。
もうもうと上がる土煙。六人は視界が断たれる。
「張って!」
ユーグが叫んだ。
間髪入れずに双子龍姫が鈴を鳴らす。
ー双龍姫の涙波紋ー
全周でたくさんの何かが潰れる音がした。
やられていた。気づかなければ。
「虫を置き土産にしよったか!」
チエノスケが吠える。
即座に蜂を警戒部隊としてそこら中にばら撒くように飛ばした。
地中を蠢く音がする。ただ深く潜っているのか、音が反響して位置は掴めない。
ユーグはメガネを顔に押し当てて、必死でムカデの位置を探っている。
「マリスさんそのまま探信音を打ち続けて!ステラさんは波紋を!」
「はいな」
二人の姫はシロウの指示に満足気だ。
「蜂の羽に振動の反応!何か来る!」
チエノスケが叫ぶと俯瞰図の一点が示される。蜂が偵察をしてくれているのだ。
瞬間だった。大ムカデが顔を出すとまた虫の大群が襲ってくる。そして本体は潜る。
ステラの波紋が防御してくれる。チエノスケの蜂もすぐに教えてくれるが音と振動は大ムカデが地表に近づいてこないと分からないらしい。この攻撃を数度受けた。
後手に回っている。
シロウは一計を案じた。
「グンカイ!痺れは取れたか?」
「はっ問題なく。」
「我が示すところに矢を同じ深さで打ち込め!鏃は鉄鏃にせよ!」
「御意!」
グンカイが普段は使わぬ矢筒から、鉄の鏃をとりだし月の荒鷲につがえる。
シロウが俯瞰図に示した点は、大ムカデと自分達の間に線を引くように五点。何もない所だ。
若様は地中に矢を打ち込めというのだ。幸いムカデ自身が土をかき回してくれたので難なく指定の深さには届くと思うが。
「矢を右から順に、一番から五番とする。」
「撃っ!」 指示通り完璧に矢を放つ。この男だから成せる技だ。
矢は配置についた。
「ユーグ殿見てくれ!マリスさん探信音で探って!」
シロウが言った瞬間マリスが
「二番の鉄鏃が震えたわ!」
「遅れて、三番震える!」とユーグ。
グンカイの矢の鏃、その鉄が微妙な音と振動を素早く感じているのだ。
ヤツは二番と三番の間を斜めにこちらに向かって入ってきている。
「六番矢用意!・・・撃っ!」
指示した場所は二番と三番の間のもっと自分達に近い場所だ
まったくの遅れなくグンカイは仕事をする。
「二番、震え弱くなるわ。」
「六番が震えた。三番の震えはそのままだよ。」
この進路。真っ直ぐここに向かっている。
しびれを切らしたな。一気に噛みつきにくるわけよ!
「ステラさん、波紋で防御を!チエノスケ、行けるな!?」
チエノスケはもう槍帝の孚の穂先を地面に向けて構えていた。




