第69話 伝言と王子
成馬宮城を見渡す高い丘。
少年がシロウの方にやってくる。
「そなたの、その光線は・・・もしや、大叔父上の?」
シロウは指が震えている。知りたくない事実がその答えの向こうにある気がしたからだ。
「新ちゃんは・・・新三郎は、幸せそうだったよ。」
「王子、顔を見てくれたのですか?」
右手の装備が消え、ステラが現れた。
「きれいなお顔だったよ。苦しんでなかった。」
「今まで、兄とともに生きてくれたこと、お礼申し上げます。」
左手の装備が消え、マリスが現れた。
二人とも深く頭を垂れている。旧知の仲なのだろう。
「でも、あなたを忘れていくなんて。」
ステラの頬が膨らんでいる。
「つい、うっかりだろうね。」
「兄様らしいですわね。目の前のことにすぐ浮かれてしまうことがあるから。」
三人が仕方ないと笑った。
シロウの肩は落ちていた。
「大叔父上、申し訳ありませぬ。我を逃がすために。」
気を失いかける時、爺様が肩を抱いてくれていた気がする。
シロウは、飄々とした、あの爺様が好きだった。なんでも首を突っ込み、かき混ぜて好きなことを言う。
しかし、それがまた楽しかった。憎めない人だった。
「シロちゃん。機嫌良くしないと。」
少年はシロウの顔をのぞき込む。
「あっ、はっ、しかし・・・。」
シロウは鼻声になってしまった。鼻水と涙が溢れる。お祖父様に続き大叔父上まで。
「また、自分で自分のお腹を叩くの?」
少年はシロウの前にしゃがみ込んだ。不思議そうに見つめてくる。
「はは、見られておりましたか?」
「僕に敬語はいらないよ。」
シロウは腹を殴る代わりに出来得るだけの笑顔を作ってみせた。
「男前だね。」
少年は、ほほ笑むとぴょんと立ち上がり背を見せて数歩歩いた。
そして、振り返る。
「ねぇ。僕と一緒に世界をのぞいてみない?」
「本当に大事なところが目で見えないんだ。僕、虫眼鏡なのに。」
シロウは涙を拭き、立ち上がった。
そして、青年は右手を差し出した。少年も右手を差し出す。
お互いがお互いの手を握り、グッと力を入れた。
シロウのその右手には、あの虫眼鏡が握られている。
虫眼鏡に残った微かな血の跡は剥がれ、風に舞って消えた。
シロウの頭の中に少年の声が響く。
「ク海を終わらせるには、その一番深いところの栓を抜きにいくこと。」
「えっ?どういうことだ?」
シロウは急に現実に引き戻された。
「新ちゃんは、ここまでは辿りついたんだ。いろいろ調べて。ク海に行くには船が必要みたいだよ。」
「そこを詳しく!」
「あはっ!そこからはよく分からない。ここからは僕たちが一緒に調べることになる。僕等の仕事さ。」
ううむ。さすが大叔父上だ。最後まで飄々とした曖昧な申し継ぎだ。言い忘れて伝言になるなど、うっかりが過ぎる。この子が来てくれなかったらどうなったことか。シロウは苦笑した。
「その前に、お片付けしようか。」
虫眼鏡が震える。
「性懲りもなく、また来たわ。」
マリスの声と同時に赤い点が色めきたった。
「僕の名前は観の星王。でもまだ王子だよ。」




