第68話 龍姫と少年
成馬城を見渡す高い丘。
シロウは手を合わせ合掌した。
両の腕に小さな盾付きの籠手が装備された。
「我らは星を瞳とする双子龍。海星の涙。さぁ我らを打ち鳴らしてみよ。」
シロウは掌を合わせる。高い金属が合わさる鈴の音が両腕の盾から鳴り響く。同時にシロウの脳内に赤く光るかたまりが見えるようになった。はるか遠くまで、手に取るように。たくさんいる。いやこちらに向かっている。
「これが、仇為す感情の赤よ!」
「グンカイ!背を貸せ。」
シロウはグンカイの背に左手を置き、右手の指を鳴らす。海星の涙がまた震える。
「委細承知!」
グンカイはためらわずに月の荒鷲で矢を放つ。放たれた矢はまるで生きている鷲のように自在に目標を襲う。
そのたびに、赤い点が消える。
「はは、こりゃいいや!目が霞んで見えなくとも若が指示してくださるものを撃てば良い。」
グンカイが、考えなくて良いわと無責任なことを言う。
「そんなことはないだろう、そなたの腕でないと落とせぬ。」
こちらには大きな悪意の塊があるな。一直線でくる。矢では止まるまいな。アイツの仲間だろう。
「チエノスケ、こいつだ。」
シロウはチエノスケの背に右手を置いて、左手の指を鳴らした。
「ああ、なるほど!」
海星の涙の探信音により、チエノスケも敵の位置情報が把握できたらしい。
「シロウ様、射線をズラしてもよろしいですか?」
「任せる。やりやすいようにせよ。今後もずっとな。」
「御意!」
来る!あのイカれた突進の土埃が見える。
チエノスケは数歩右に歩くと、重い羽音とともに飛び立った。
黄色い閃光は弓なりに弧を描き、赤い突進に斜めにぶつかっていった。
そしてそこには、大イノシシが体に大きな穴を穿たれ、伏していた。
「何度も同じ手は喰わぬ。お前の横っ腹は意外と柔いからな。」
どうやら、以前大イノシシに真っ向勝負をして、大分痛かったらしい。
シロウは、また海星の涙で探信音を放つ。
・・・これは、数が桁違いだ。密集している。考えられるのは虫のアダケモノ。数を頼みに体を穿ちに来るか?矢や槍では、いや近接武器では軒並み相性が悪い。意志を持つ弾丸が浮いているようなものだからだ。
もう、来るぞ。やはり飛ぶ虫だ早い。シロウは手を合わせ二人の少女に願う。
ー双龍姫の涙波紋ー
シロウを中心とした球状の音響衝撃波が虫モドキを駆逐する。
大殿の技の規模と破壊力には遠く及ばないが。
しかし、少し遅れて迫っていたため、波紋の衝撃の波をかいくぐった一団がいた。
その一団が、離れていたチエノスケのを襲う。
チエノスケの周りに無数の黄色い光が臨戦態勢を即座にとる。しかし敵の数が倍近い。さしもの、これでは、必ず主人に辿り着くモノがいるだろう。
しまった。波紋は余韻が収まるまで再発動できない。まだ音は鳴っている。
チエノスケに虫モドキが弾丸の雨となって襲いかかった。
「伏せて!」
少年の声。
同時にこの地に舞い始めたの波石という波石の破片が一勢に煌めく。
大イノシシの突進で大量に大気に残留していたからだ。
それは、あの光線の超絶的な乱反射だった。
うっかり者の優しい爺様の光。
ー星王の光芒・乱ー
これが、この光線の本当の名前。
虫共が地の落ち崩れ去った。もうもうと光と波石の灰が舞う。
風がそれらを洗い流した時、そこにはひとりの少年が立っていた。
「新ちゃんが、きっと喜ぶと思うから。」
緑の髪をした少年が、指輪をした左手で眼鏡を抑えてつぶやく。
「本当に大事なものは、虫眼鏡では見えない。新ちゃん、僕はそれを探しに行くよ。」
彼の頬には、彼が大好きな爺様の血が微かに跡を残していた。




