第52話 刀と鍵
天巫女城下 淵 中央
龍は動かなくなっていた。
しかし、ただ動かなくなった訳ではない。
彼は淵の中央でとぐろを巻いていた。
眉間の赤い石を砕かれた時、そのままの姿勢で石と化し固まってしまったのだ。
川と川の合流地点、天巫女城の真下。
筒状、いや椀状であろうか。川の水を押し分けそれは入ってこない。
そう、自らが石となることで川の中の洞窟へと続く螺旋の階段を生み出していた。
右回りの龍の体が川底へユウジを誘っている。
固まった龍の頭を撫でて、ユウジは下をのぞき込んだ。
降りられるものだろうか。
「いや、なんだかおもしろそうだ。」
また、生来のお気楽に好奇心が乗っかった。
「降りてみようよう!」
もっと好奇心の塊が言う。
「ユウジ様、危険はなさそうです。」
「熱探知でも、これはもう動かないものだわ。」
メルとマチルダが教えてくれる。
ユウジは一歩を踏み出す。
訳分からないけど、ともかく行こう。
龍の体は少しずつとぐろの内側にせり出しているのでつたっていけばよい。
ほどなくユウジは川底に着いた。
そこには、奥へと続くであろう横穴がある。大人がひとりふたり、立って進めるくらいの
口が開いている。
そして、その入り口の前に一振りの抜き身の刀が岩に刺さっていた。
「これは・・・」
打ち刀、2尺2寸(約70㎝)というところか。反りは浅く先の方は細くなっている。
「ほおう、これはウワサに聞く露嶽丸ではないのか?」
魂座がいつのまにか抜け出してしげしげと刀を見つめている。
当然武装は解けている。
「露嶽丸?」
「抜けば常に雫を帯び、薄く瑠璃色に光る刀身は水龍の加護を得るという。主形の神に仕えるいう水のヌシの化身ともいわれる刀じゃ。」
璃多姫様も出てこられたか。
「しかし、なんで抜き身で刺さってるんだろう。」
「雰囲気だと思うよぉぉ!」
おい、ローラそれは言ってはいけないでしょう!
「ささ、殿、早う抜いてくだされ!」
「いや、魂座、オレが抜くのか?」
いつのまにか皆、憑りつくのをやめて出てきてしまっている。
「それも、雰囲気だと思うよぉぉぉ!」
ユウジは露嶽丸だと思われる刀の柄に触れた。
ああこれ、さっきの龍の体の鱗と一緒だ。柄巻の代わりにこれまた瑠璃色の小さな鱗が覆っており、そしてその柄頭には赤い宝石があつらえてある。ユウジの目には己が撃ち抜いた先ほどの石と同じに見える。
握る手に力を入れる、露嶽丸は何の抵抗もなく抜け、ユウジの手に収まった。
陽に刃を透かして見ると、地金は紫を帯びた深い青、刃紋は皆焼で華やか。
振ってみる。風と共に大気中の水分まで切ってしまうのか、斬撃後に刀身が濡れる。
「川より出でて、我がものとなるか?」
ユウジは戯れに聞いてみた。すると、洞窟の奥から何やら音がする。
「行ってみるか。」
横穴に思い切って入ってみると、信じられないくらい大きな空間があった。
天巫女城が丸々入ってしまいそうだ。
その奥に何か横たわっている。船か?しかし帆柱がない。よく見ると円柱状で甲板すらない。
話にきくクジラという生き物か?でも石のように固い、これは明らかに人工物だ。
不思議な物体を遠巻きに眺めていると、音の出所が分かった。
「ワシが前に来た時は、うんともすんとも言わなんだのに。」
丁度、真ん中よりズレた所、扉くらいの大きさの四角い部分の縁が緑色に発光しているのだ。
どうやらこれが音の発生源らしい。ユウジは聞いたことのない音だ。
その時、露嶽丸の宝石が光り、その緑の光が強く光ったかと思うとかたどられた四角い部分が前に倒れてきた。
その中は明るい。
「入れるみたいだぞ。」
ユウジはおそるおそる中を覗き込んだ。大人が二人すれ違えるほどの通路がある。
中に入ってみる。とりあえず灯りの点いている方へ進んでみる。
後ろで、扉の閉まる音がした。同時に何かたくさんのものが落ちたり倒れりする音がした。
ユウジは振り向く。
そこには椀と懐剣、小鹿の根付と狙撃銃そして風車が落ちていた。
落ちていたのだ!。
「おい、どうしたんだ皆、おい開けろ、開けろ!」
扉を叩くがびくともしない。とりあえずユウジは皆をかき集めた。
何にも返事がない。まるで地上にいた時みたいだ。
ひとりになってしまった。
こんな訳の分からないところに閉じ込められてどうするのか。
ユウジは深呼吸する。襲ってくる犬や骸骨や龍がいるわけじゃない。狙撃もされてない。高い所ではないし、ただ閉じ込められただけだ。閉じ込められただけ・・・。ひとりで。
うう、オレは武士だ、若様みたいに笑顔で乗り切るのだ!
後先あまり考えない少年は、途中ひどくうろたえたが持ち直したようだ。
「とりあえず、先に進んでみるか。」
皆を体にくくりつけ、閉所に閉じ込められて気弱になった少年は進む。
大きな部屋に出た。ユウジは周りを見渡した。
ひとつの座席を中心にいろいろな計器と座席がたくさんある。座って何かするところだ。
「わけ、分からんなぁ。」
ユウジは一番真ん中の一番高い、偉そうな席をのぞき込んでみた。
狙撃銃と刀を床に置いてとりあえず座ってみる。何の機械なのかまるで分からない。ユウジ達の世界のものではない。少なくてもこの時代で造れる代物ではないことは直感でわかる。
「うん?」
偉げな席で見渡すと部屋の真ん中で紅く光るところがある。
見覚えのある光だな。そう思いユウジは床の露嶽丸をみた。
「同じ、コレ、同じ。」
露嶽丸も同じく光っていた。おもわず掴んでその光のところへ駆け寄った。
部屋の中央の光に近づくとそれは点滅を始めた。
のぞき込む。筒か?いやなにかもっとしっくりくる表現があるな。
紅い光りは輪っかだった。俺達はこれをよく見る。知っている。
鞘か?
手元の露嶽丸を見る。「まさかな・・・」
露嶽丸をそっと差し込んだ。
金属が合わさる音がして、赤い石が強く光って消えた。
「宝鍵による認証に成功しました。」
大きな振動とともに、誰かが喋った。




