第51話 石と星と瞳
天巫女城下 淵
マチルダの炎を纏った魔法陣は水蒸気を上げながら、毬が転げるように進む。
場は龍の怒りに合わせて、水属性に概念が引き付けられている。
火属性をマチルダで構成するが、いかんせん、ここは水上だ。分が悪い。
「ローラ、我が筒先の魔法陣。一枚開けておいておくれ。」
「ハイ!姉さま!」
璃多姫とローラ、こういう関係性に落ち着きましたか。
しかし、問題がひとつある。拡大視界に映る璃多姫のお姿もあのピチピチの服だということ。
画面中央下から璃多姫が言う。
「何?ここに来る時はこれが決まりではないのか?ローラが言うておったぞ。」
親子だよ。なぜそこは素直に着るのかなぁとユウジは疑問に思う。
ちなみにユウジは魂座のように璃多を省略しない。・・・しないのだ。
士気の問題なのだ。年頃の少年の。
「距離、速力及び風向風速を真及び相対で表示、気温、湿度も出します!」
メルの声と同時に拡張視界の表示体系が切り替わる。
「火器管制は妾が引き受ける。マチルダ、そなたは近接防御に専念してもらえるか?」
「わかった!ありがたい。照射波と敵性諸元はこちらで対応する。メルは全体を掃いて!」
「大丈夫です。半径1㎞にレンジを絞って警戒中。魂座様、武器換装をお任せします。」
「おおよう、いつでもいけるわ!ローラの嬢ちゃん、たいみんぐというやつ頼むな!」
「おっけい!KS機関内圧力安定!頃合いをみて吹かしていくよぉ!」
「皆、オレの直感にダイレクトに接続してくれ!これからいちいち指示は出さない!」
ユウジは半時計まわりに龍の周囲距離25mで円を描き隙を見つけようとする。
間もなく龍の背中が見える。
「ユウジ様、先ほど槍で突撃したときの諸元から、龍の全身が同レベルの硬度の防御力を持っていると考えられます。魂座様の槍の出力をあげれば撃ち抜けると判断します。」
「しかし、水上で足場が悪い上に近づけないと・・」
その対応のための防御魔法陣と狙撃銃だ。
「ユウジ殿!あそこだ!龍の眉間!赤いほら宝石みたいなのがあるところ。」
マチルダが拡張視界上で指を指す。
ああ、確かに龍の眉間で何かが赤く光っている。
「あの一点、確かに他より強度が低いです。」
「分かった!弱点か分からんけど叩いてみるか!」
ユウジよ。犬モドキの時といい、肝心な時には直感に頼るのだな。
ユウジは龍の正面になるように、円運動をやめ直線に距離をとる。
折しも、川の交点、城の天守が龍の後ろに見える。
「さて、皆準備はいいかね?」
「現在、外部装甲に問題なし。予定武器換装用意よろし。」と黒。
「敵諸元に変化なし。近接防御、残弾問題なし。近接攻撃用意よし。」と紅。
「対象までの距離約300m。攻撃ポイントの高さ水面より約18mで上下。対象との間に水球大小、総数約5000個こちらに向けて集中的に押し出し中。危険界は扇状に約250mまでに拡大してます。」と紫。
「KS機関内圧力上昇。発進と同時に高度を目標攻撃点に調整する。いっつでもいけるよぉぉぉ!」と金色。
「薬室内、弾倉異状なし。安全装置解除した。撃ち方用意よし。」と瑠璃色。
「では・・・。」
「発っ進ぃぃぃぃぃん!」
また、ローラ勝手に!しかし彼女が推進力なので逆らえない!
ユウジは城の下、川上に陣取る瑠璃色の龍に向けて波乗魔法陣で疾走する。
すぐに水の球に囲まれ包囲攻撃を受ける。マチルダの炎の防御陣が火を吹き蒸気が立つ。
しかし前面にはおびただしい数の水の球。
「埒が開かん!父上お願いしまする。弾は紅の想いで!」
璃多姫が父に頼む。
「あいよ。」何かが手渡される音がした。
「ローラ、面を開けい!」
「あいよっ!」
ユウジの手元で勝手に銃が数発火を吹く。
すると、前面の多くの水球が砕け散り、水蒸気となった。
火炎を伴う散弾銃だ。紅玉の瞳の力を弾に乗せたのか。
「これでよし、本射を開始する。」
璃多は清々としたものだ。
龍までは一直線、足の遅い水の球は立ちはばかることができない。水面で生成しているが間に合わないだろう。
ユウジは狙撃銃の照門をのぞき込む。
璃多が背中についてくれているようだ。支えて姿勢を直してくれる。
「さぁ、照星の上にあの光る赤い石を乗せて。そう、そうよ。」
ユウジは照星といわれる狙いの上に龍の眉間の石を置く。
「真ん中にもってくるの。うん、上手いわ。」
璃多の瞳はユウジと同調している。狙いはこれで良い。
「引き金には遊びがある。そこまで指の腹でゆっくり引く。」
璃多の言音は柔らかく優しい。ユウジは心配することなく所作を行う。
「息を止めて」
言われたとおりに息を止める。
「龍まであと50m!」
耳の隅に聞こえた。
引き金の遊びはもうない。赤い石もしっかりと照星の上で光る。
赤い石と照星と瞳が一直線になったのを感じた。
「引け。」
静かな落ち着いた声だった。同時に撃鉄は落ちた。
龍の眉間に赤い霧が立ち上る。




