第50話 槍と銃
天巫女城下 淵
ユウジの軌跡は水しぶきをあげて、瑠璃色に輝く龍を左手に身ながら弧を描く。
年を経た蛇は、力を溜めて龍に変化し空に昇ると聞く。
「こいつはアダケモノではないのか?」
ユウジは思った。この龍はあの石灰のような白い石は纏っていない。
「何も、アダケモノだけがこの世の怪異ではありますまい!」
魂座の答えに、え?他にもいるのかこういうヤツが・・・ユウジは唾を飲みこむ。
「この龍はまったく関係のない存在よ。旦那様。」
璃多姫のユウジの呼び方はこれで決定らしい。
「メル、戦闘分析は進んでるか?」
「現在、収集中です。体長およそ80mと推定。淵のくぼみでとぐろをまいているので、有効攻撃範囲は25mだと考えられます。」
「べつに、退治したり、傷つけたりしたくない!通してくれればそれで。」
「いやあ、怒ってるわ。」
マチルダは、相手の感情が色で認識できる感情色探知機能が真っ赤だと指摘した。
「通してくれないかなぁ?」
ローラ、もとはといえば、そなたが余計な遊びをしたから、全力でゴッツンコしたのでしょうが!・・・とユウジは言いたい。
「しかし、その前に」
ユウジの頭の中で、皆の視線を感じる。複雑な気分だ。
「この龍に謝らなければならん。」
ユウジは龍の正面に魔法陣を停止させると、その上に器用に正座した。
すると、龍も何故だかピタリと動きを止めた。
「ここのヌシ殿とお見受けする。先ほどの無礼、申し開きもありませぬ。大変申し訳ありませんでした。」
ユウジは両手をついて深々と頭を下げる。
普通、自分の棲み処にいきなり降ってきて、一撃を加えたのである、誰だって怒るであろう。動物が生存競争のために、不意打ちを喰らわせるならともかく、ヌシと呼ばれる存在である。何百年、いや、千の年をこの淵で思いを持って過ごしたのかもしれない。
城が揺れ、小石が落ちてくるほどの龍の咆哮があった。
何か伝えてきたようだ。しかし、ユウジには内容が理解できない。
「今、何て仰ったのか・・な?・・・」
「我に勝てば、話を聞かんでもない!だそうです。」
メル副官が迅速に翻訳してくれた。
「天巫女、そういう性格多すぎない!?」
今度はユウジが咆哮した。未成年の主張。
戦闘再開
龍の背が見えた。一瞬の判断で飛び込む。一直線に。
「だぁい、いっせぇんそおおおく(第一戦速)!」
ローラの速力指示が飛んだ!推力魔法陣が光を吹く!
攻撃範囲25m、ここを相手の対応前に斬り抜けたい。
ユウジは槍をしっかりと両手で握り、腰を低めてしっかりと突き出す。
「魂座!膂力補助を!」
「応!」
魂座の膂力が鎧を通じて腕、腰、脚を強力に支えるのが分かる。
それでも、天地が逆転した。弾かれたのだ。
一戦速の勢いのまま、ユウジは水面に叩きつけられる瞬間、波乗魔法陣がその身を支えた。
補助の魔法陣が各部を支え起き上がるのを補助するのでまるで地上にいる時のように起き上がることができる。
すべるようにユウジは龍から距離をとる。
「マチルダ、諸元は取れてる?」
「もう少し」
その時、ローラが叫んだ。
「場の概念が変わる!」
「ユウジ様、周辺の湿度が上昇。多数の水球が水面上に浮遊する状態に変化しました。」
メルの報告で周りを見渡すと大小様々な水の珠が浮かんでいる。
瞬間だった。その水球の一点に殺意の赤が凝縮する。
撃たれた。
魂座の鎧に衝撃が奔る。大事はない。しかしすぐ横の水の珠が刃に変形して横薙ぎに飛んでくる。
「敵、全方位攻撃に移行しています。」
「メル、危険界は?」
「本体を中心に25m、拡大しつつあります。ここは川、場の概念があちらに有利です。」
「ユウジ殿!環境があの龍の強い意志にひきづられて、こちらを攻撃してるんだ。なだめないと。」 マチルダが勧告する。
「了解、ローラ、防御のため魔法陣をオレの周りに球状に展開。鎧があるからダメージはないけど軸がぶれる。近接応射はこっちも水を使った弾で全自動対処!」
即座に手のひら大の魔法陣がユウジの黒い鎧を取り囲む。各魔方陣は防御と同時に銃座と化し、迫りくる敵の水の銃弾をこちらも足元から供給される水の銃弾で相殺する。
しかし、水の刃は防御しにくいらしい。斬撃を受けるたび、拡張視界まで揺れる衝撃だ。
「わかった、私がやる。各魔方陣、撃ち方止めっ!」
マチルダがそういうと、魔法陣の縁が炎でなぞられていく。
「ローラ、出力あげて!」
「強火で焦がしちゃうよぉぉぉお」
各魔方陣の回転数が高くなると縁で燃える炎の火力も強くなる。
もう、龍の水の刃と弾はユウジに届く前に蒸発するようになった。
「しかし、この状況じゃ槍が使いづらいな。」
避退しながらユウジは考える。防御の玉の中で槍を振り回すワケにもいくまい。
「妾の出番じゃなぁ。旦那様。」
瑠璃姫の声がしたかと思うとユウジの手には彼女の狙撃銃が握られていた。
「満を持してじゃ!」
自信に満ちた声に少し寒気のするユウジであった




