第47話 夢と盃
天巫女城 城門
霧と銃撃と嫁入り宣言でよく見ていなかったが、ここはユウジが十歳の頃過ごした天巫女城だった。
虎成城のほぼ東にあり、東西を二つの川が流れ南で合流する。その上に本丸、北方面を城郭で守る堅牢な城だ。
落ち着いてよくよくみれば、記憶が蘇る。
そう、六年前、那岐の彩琶の兵に襲われた。裏切りによる奇襲だった。主だった戦力は虎成城におり、まさかの裏切りであっけなく落城した。
若様が姉と己を連れて逃げてくれた。そうこの城から。この場所から。
この城では、何度も戦いがあり、三十年前にも大きな戦があったらしい。その時の相手も北の国、那岐の彩琶氏だった。その那岐の国とは、鉱山はあるのだが、土地が痩せていて川の氾濫が多いため貧しく、それでいて兵は精強であることから度々、山を越えて南進してくる厄介な連中なのだ。
ユウジは思い出す。そういえば、婆様が手をよく合わせていたな。
ある日、誰を拝んでいるのか聞いたことがある。
婆様は、何十年も前に天巫女の城を守って死んだユウジの爺様と婆様の弟とその娘に向けてだという。
結婚当時は、爺様は婆様の弟に認められず、ことあるごとになじられていたそうだが、天巫女の城を守り、死線をともにかいくぐり続けると、仲良くなり最後には兜に同じ前立てをしつらえて戦場に赴く仲になったのだとか。
それでも、その戦で、両者とも城を守って討ち死にし、逃げれたはずの娘も父のため、国のため、銃を片手に城門付近で奮戦しその若い命を散らしたという。
「かわいい娘じゃった。伯母様、伯母様言うてのう。若いころの私にそっっくりのそれはまぁ美しい姫でのう。ああぁ死なせとうなかったぁ。」
あの怖い婆様の手が震えていたことをはっきり思い出した。
しまったぁ。オレは何ととぼけたアホウなのか。ユウジは眩暈がした。
そして、平伏する。
「大叔父上様、璃多姫様、大変失礼をいたしました。」
「まあ良い。死んで忘れられるとはそういうことよ。」
魂座は気にすることなく笑い飛ばしている。
「あなたの生まれる前です。無理もなきこと。」
璃多姫は先ほどまでの凶暴さは微塵も感じない。もともと利発な女性なのだろうか。
ユウジは背中に冷たいものを感じた。これは婆様と同じだ。怒らせたらいけない人だと。
「しかし、そうならば早く言ってくれれば良いのに。」
ユウジは汗を拭きながらそう言ってしまった。
「ワシ、言おうとしたけど遮られたから・・・。」
「へっ?」
ユウジはよくよく思い出す。
ー回想ー
「ワシが、そなたの配下になってやろう。」
「はあっ?なぜ?」
どうした?なぜそうなる。オレは狂犬は飼えぬぞ!ユウジはホントに内心焦る。
「おもしろそうだから。」
「なんじゃそれ!」
ただの戦闘狂じゃないか!まずい断らねばオレの生活の平穏が・・・ユウジはさらに焦る。
「ワシの見る所、そなたはこれから先いろいろありそうじゃ!それにな・・・」
「いろいろあって欲しくない!」
ユウジはあんまりすぎて途中で話を遮ってしまう
ー回想終了ー
「あっ!」・・・「すんません。」
「もうそんなことは良いのじゃ。もう我らは臣下じゃ!なっ殿!」
本当に気にしないんだなこの人。
「しかしなんだ。六年前、泣きながらこの城から逃れていった小童が大きくなってちゃんと帰ってきたのう。」
やはり魂座だったのか。
あの時は、死を覚悟した。天巫女から逃げる一行はク海に近づいたこともあり、知らずに入り込んだのだろう、得体のしれない化け物の襲撃を幾度か受けていた。
命からがら逃げ伸びたものの、こちらは若様をはじめ十数人に人数を減らしていた。
夜中に 彩琶の追手五十人ほどに囲まれた時、もうダメだと思った。
それでも立ち向かう若様の横で、ユウジは拾った刀だが初めて真剣を人に向けた。
「童のそなたにそれをさせた。すまぬ!」若がそう言って笑ったのを覚えている。
そして、黒い雪崩が来た。
瞬く間に、彩琶の兵が地に這うと、その黒い背中は
「片城の小童よ!逃れよ!力をつけて戻ってこい!」
そう言って、草刈のごとく沸いて出る敵兵を薙いでいく。
もう、半分夢だと思っていた。極限の恐怖と疲労が見せた夢。
そのすぐ後に、虎成からの救援に救われた。
ただ、この時に姉のナツキがはぐれた。
前を行く虎成兵の馬に乗せられた半死の若様が手をあげて姉の名を叫ぶ。
敵に囲まれているため、その場をすぐ離脱しようとする騎馬部隊。
ユウジも男の子だったため、騎馬武者は構わず馬に引き上げる。
国守の息子の救出だ。暗い中間違ってはいけない。保険をかけたのだろう。
振り向くと敵兵の向こうに姉の姿があった。
力の限り叫んだ。しかし疲れ果てた十歳の力では騎馬武者の抑える力には抗えなかった。
遠ざかる姉。
黒い雪崩の雄たけびの記憶。
「重ね重ね、感謝いたします。」
ユウジはもう頭を上げれられる気がしなかった。
魂座がつぶやくように言った。
「良い。先祖というものは、このように子孫の後ろに立つものよ。見返りなどいらぬわ。」
その手には盃に少しだけ酒がはいっているようだった。
またこぼすほど笑ったのだろう。




