第46話 理由と城
魂座の城 城門下
お日様が寝床に帰ろうとしている。雲は真っ赤に焼けている。
「はあああ?」
大きな疑問符と共に変身魔法陣がユウジの頭上で唸りをあげて回転する。
そして装着の時とは違ってもったいぶらず、頭から足へユウジの体を通る。
そう、夏、虫取りの網が虫を押さえる勢いだ。
鎧への変身は解けた。ユウジは尻もちをついている。
「なななな、なんなのぉぉぉぉ!」
黄色い光りが飛び出て辺りを飛び回る。地面に近づくと波石が怒りの赤の軌跡を映す。
「納得のいく説明を・・・・。」
藤色の娘はすでにそこに正座している。しかし、その膝元の波石は紅く波打っている。ユウジの額の傷は治してくれたようだ。もう痛みはない。
「やれやれ。」
紅い人は門柱に寄りかかっているがその足元はほんの少し青いだけ。疲れているから早くしてくれと言わんばかりだ。
皆、勝手に憑りついて、勝手に出てくる気ままな連中だ!ユウジは少し憤る。
紫の御方の声はいつになく香りがしない。
「嫁とは何ですか?嫁とは?」
「そうだそうだぁぁ!」
黄色い御方はその横で乱舞している。
「言葉通りの意味じゃ!」
黒い髪の御方は狙撃銃の銃把を地面にたたきつけて胸を張る。
「誰が決め、誰の許可を得てその座に?」
紫はもう半眼になっている。波石の振動数が上がってないか?恐怖するユウジ。
「そうだそうだ!妻の座はユウジのメインの操縦席なんだぞぉぉぉ!」
おい。ローラよ初めて聞いたぞ。メインとな、操縦とな。妻とはそういうものなのだな。
「妾が決めたのじゃ!誰も関係ない!旦那様以外はな!」
狙撃銃の照星を握って、璃多姫は自身満々の顔だ。
チャンバラ少年は激しい銃撃戦の後の過酷な戦いにものすごい疲労を感じた。
オレは何も悪くない・・・。祟られているのであろうか?いや実際、いっぱい憑りつかれてるよなぁ。精いっぱい生き延びようとしてるだけなんだが・・・。
「決めた理由は?」
ああ、メルさん、半眼が一点に定まって境地に達しておられる。
璃多姫は淀みなく答える。
「妾が挑んだ命がけの遊戯な。あれに身ひとつで挑んだ。いかに強力な仲間がいようと生き死に場に、最初の一歩を踏み出したのはこの御方の決断じゃ。それに、父上が大事な鎧を預ける御方じゃぞ!これ以上あるか!これから先、退屈せぬわ!」
「ほう。」メルの波石はまだ揺れている。
「それにな、今まで妾のまわりはへつらう者ばかり。ともすれば銃口をむける女に向かってくる気概などない腑抜けばかりよ。だが、この御方は兜を打ち砕かれてもこっちへ来た。」
いや、周りの皆さん、骸骨だから基本腑抜けなんじゃ?ユウジは思ってしまった。
メルの波石が少し穏やかになった。
「やっかいな妾でも、来てくれた。そしてデコピンで済ませてくれた。」
行きがかり上なのですが・・・とユウジは心の中で首を振る。
しかし、出会いとはこういうものだ。問答不要。進んだ先にやってくる。
メルの波石は青くなっている。
「撃ったのじゃぞ。人を面とむかって・・・眉間をじゃ。死んでク海に沈み、荒れて、ここまで人の心を失った妾をデコピンひとつなどと・・・。」
「ふーん、淋しい寂しかったんだぁ。じゃぁいいよ。おいでよ。」
おい。ローラ、そなたは軽い!軽すぎる。もう友達なの?
「仕方がありませんわね。嫁は認めませんが、同行なら許可します。」
メルさんは、何の権限で許可しているのですか?
すると、そのメルさんが感のいいことにユウジを向いて言う。
「副官ですから!」
いや、副官って普通、許可は出せないよねとたじろぐユウジ。
「人事は委譲されておりますので。」
いや、いつ?そんな取り決めしたのでしょうか?
いや、それより、人事って何?
その時、魂座が初めて口を開いた。
「嫁は認められんぞ。殿はお前の・・。」
「分かっておりまする。」
璃多姫がにっこりと笑った。
「その笑顔、姉様によく似ておるわ。美しいのぉ。知っておったのか?」
「はい。兜が割れ、その目と顔立ちを見た時に。」
何の話だ?ゆうじは訝しんだ。
「ワシは首を絞めて覗き込んだぞ。殿の顔を。」
槍で魂座の胸を突き破ったあの時か?
「だが、それだからこそ、嫁など論外じゃ。」
「父上、肉体があってこその契りではありますまい。本当の契りとは魂のもの。絆はそこにありまする。」
「ワシとともに片城に後ろから守護を与えるか?」
「いかようにも。」
璃多姫が口元を隠して笑う。
魂座はユウジ達に向き直り頭をさげた。
「不肖、我が娘、璃多の無礼、平にお許しいただきたい。そして娘のこと、認めていただけまいか?このとおりでござる。」
璃多姫も平伏して頭をさげる。
とても、先ほどまでの、あの銃撃を繰り返していた人物とは思えない。
夕日を背に、輪郭が紅くもえる黒髪の少女は震えるほどに美しい。
全員がユウジを見ていた。なんだかもう決定事項なのだろうか?
「・・・はい。よろしくお願いします。」
ユウジ、よく考えているか?周りに呑まれてないか?末っ子の質で周りが決めたことを素直に受け入れてないか?面倒ごとを投げ出してないか?
しかし、ユウジはこれで良いと思った。直感である。
魂座が立ち上がり、槍を持ち夕日に向けて大笑いを始めた。
あれ、この後ろ姿は・・・。 ユウジは思い出した。
六年前、あの落城の時、若様と姉のナツキとク海の際で敵兵に囲まれた時のことを。
雪崩のように切り込み、敵を駆逐するその後ろ姿はこう言った。
「片城の小童よ!逃れよ!力をつけて戻ってこい!」
夕焼けに紅く映える空。霧はいつの間に晴れていた。
城が美しい全貌を現す。
ふたつの川を天然の堀とし、その合流点の断崖の上に立つ堅固な城。
ユウジは思い出す。幼き日々を。
「ここは、・・・天巫女城だ。」




