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第45話 執着と嫁


ク海 魂座の城 城門前


 ユウジは黒き鎧を身に纏い、銃弾の雨の中一歩もひるまず城門を目指す。

 銃弾は頭や胸に当たるが、粉となって砕け散り白い煙が立つ。

 砲弾はその槍の突きの前に、花火のごとく弾けるだけだ。


 一歩一歩進んでいくがまるで攻撃されていることを意に介さない。 

 それほどの強度の防御力があるようだ。


 歩きながら

「俺は思うのだが。」

 ユウジは頭の中で騒ぐ連中に向かって話しかけた。


「なあにぃ?」

 やはり呑気な声。縁側(えんがわ)で爪でも切っている余裕だ。


「魂座とローラ達三人、ク海での生まれ方に違いがあるのだろ?」

「違い?」

 妖精の(アイコン)は糸で垂らされているかのように左右に揺れる。


「オレが思うに、魂座は生前の記憶があるのに、ローラ達にはないとか。」

 ユウジは自分の思いつく精いっぱいのことを伝えてみた。


「ああ、そういうことか」

 マチルダが拡張視界(スクリーン)の右端に現れた。


「他人のことは分かりませんが、私には宝としての記憶しかありません。」

 メルが左端に現れて言う。


「だから、はっきりと断定はできないけど違いという点に絞れば、ふたつの点で違いがあることを知っている。」

 マチルダは何か見聞きしたのだろうか。


「私は、宝としてこのク海に居ついて以来、他の宝が生まれてくるのを見ることがあった。」

 そういうことならあり得るだろうと思うユウジ。


「まず、新しい仇花(アダバナ)が宝をそのツボミに宿す時、親花がその縄張りで死んだ者の魂の中から、特定の魂を選んで宝の核としているという事実が前提にある。」


 やはりク海が死んだ人間の魂を吸うという考えはこいつらも同じなのだ。


「ひとつは、生前の名前と記憶を持つか持たないかという違い、どうして違うようになるかという理由は、仇花(アダバナ)が咲く直前にツボミが切られたか、そうでないかだ。」 

 マチルダは続ける。

「ふたつ目は、選ばれた魂がその土地など特定のものに執着(しゅうちゃく)しているという違い。」


「人間は普通、一番自分のことにこだわるものですわ。」

 メルはそれが宝の特殊能力(スキル)の本質なのですと付け加えた。


 つまりは、咲く前に首を切られた仇花(アダバナ)から出た宝が、ローラ達とは違う魂座(ごんざ)のような元の名前と記憶をもつ宝となる。その記憶により何かに執着している可能性が高いのか。


「花神様はね、少しずつこだわりを捨てなさいって言うのぉ。」

 (ローラ)が揺れながら震える。

「でもね、石神様はこだわりこそが人間だって怒ってたわ。」


「だから、あのお二人は互いにもつれ合い。ク海という名の苦しみを広げて、人を際まで追い詰めるのかもしれません。アダケモノを使って。」

 メルの声は悲しい香りがする。


「さぁて、話は一旦ここで終わりだ!」

 拡張視界(スクリーン)全体が少し震えた。魂座は鎧として外装に出力しているからだ。


 気がつけば、城門の少し前まで来ていた。


「そこのキサマ、そこで止まれ!」

 目が大きくて、黒く長く美しい髪の頬の白く透き通る娘。璃多(りた)姫だろう。

 城門の真ん中で後ろから風を受けていた。


「父の気配はあるが、姿が見えぬ。キサマ!父をどこにやった。」

 怒りで足元の波石が真っ赤に染まって一本の線になりユウジの足元を刺していた。


「あなたは、どうしてそう怒ってばかりいるのです?」

 ユウジはたまらず(たず)ねる。


「ここはな、かつて我が一族が命をかけて国守様のために守り抜いた場所。六年前に一族の最後の者が北の彩琶(さえば)に敗れ、ク海に落ちた後は、我らが蘇りアダケモノより奪い返した大事な城じゃ!生ものなどにこの地は踏まさん!」


 生ものってまだ言うかよ。執念が凄いな。ああ、執念か。


 ここに、留まり続ける理由。これは妄執(もうしつ)だ。ユウジはそう感じとった。


 つまりこの女性も・・・宝か。


 兜に衝撃が走った。眉間を撃たれたのだ。


 ユウジは歩を進めた。


 一歩歩くごとに眉間に弾をもらう。


 六歩ほど進んだ。その分撃たれた。


「なぜ、倒れぬのだ。やはりその鎧は父上のものか?だいぶ形が違うが・・・。」

 璃多姫は銃の照門(しょうもん)からわずかに顔をそらした。


「教えてやろうか、璃多よ。」

「父上、そこで遊んでおられるのですか?」


「おう。璃多よ。なぜ父の鎧にそなたの弾が効かぬか分かるか?それはな、親の想い(よろい)の方が、子の想い(たま)よりも遥かに硬いから・・・。」


間髪入れずにもう一発撃たれた。兜が割れて落ちる。ユウジの額から血が一筋流れた。


「子の想いも時には親をえぐることもありまする。」


「璃多、遊びは辞めじゃ。良いか、親はの、少なくともワシはな。この古い鎧でそなたを守ろう。時勢似合わねば即刻捨てよ。」


 その時、ユウジは璃多の銃を左手で押し下げるとその白いおでこにデコピンをした。


「いいかげんになさい。」


 思わず、璃多姫は後ずさる。

「父上!」


「おう、何だ?」


「璃多は嫁に行きまする。この御方のもとへ!」


「はあっ?」



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