第35話 石と花
変身魔法陣はユウジを過ぎ去り消滅した。
各関節から白い蒸気の様なものが漏れる。
黒く磨かれた石のような鎧である。
まだ、砲弾が降ってくる。
お姫様はまだやりあいたいようだ。
全身が真っ黒に覆われて頭など固い兜の様なものだが顔面はまで覆われていて脱げない。
「殿、最初窮屈かもしれませぬが慣れますぞ。」
手などは拳の外は固い手甲が守っているが、手のひらや肘の内側は柔らかい素材でできている。
引っ張ってみる。ぴっちりしてて伸びない。関節の曲げ伸ばしはまったく問題ないのに。
でもユウジはこの感触に覚えがあった。とても嫌な記憶だ。
「ああ、脱ぎたくなったら、嬢ちゃんの魔法陣が必要みたいじゃ。」
「みたいじゃって!」
マチルダが呆れている。
「ワシものぉ、璃多の鉄砲に撃たれる間、考えとったんじゃが。」
娘の狙撃の解説ばかりしていらしたと思っていたが、意外。
「やってみたら、案外できたわ!ローラの嬢ちゃんが皆繋いでくれてるんじゃの。」
ああ、ここにも行き当たりばったりの人がいるのか、人のことは言えないがと思うユウジ。
「ああでも、これ体術の型だわ。ま、槍があれば足りるか。」
それ以上の武装はいりません。充分ですとみんな思った。
「それとな、ワシの証というべき鎧を使いこなしてくれる術をなぁ。」
ーピキッー
頭痛がはしった。なんだこれは・・・魂座殿の・・・記憶か?
どこか・・・どこか・・・城か?
広間だな・・・。女性たちが急いで行き来している。
膳にご馳走・・・かがり火がある。
酒を飲んでいるのか?・・・たくさんの男たちが回りで飲んでいる。
全員傷だらけだ。包帯をしている者もいる。しかし、みんな笑っているな。
だれか酒を注ぎにきた、ああ、盃で迎えないと・・・。
何か言ってるなぁ。 聞こえない。しかし、満面の笑顔だ。
おっと、左から小さな女の子が飛びついてきた。右手の酒がこぼれそうだ。
目が大きくて、黒いおかっぱ頭のほっぺのまだ赤い可愛い娘。
「父上がみんなを守ってくれた。父上、だああい好き!」
はっきり聞こえた。
盃が揺れて酒がこぼれてもかまわず笑っている。
何か見える。
飾られた黒い鎧。鹿の前建てである。
鎧をじっと見つめている。
「ワシがこの鎧を纏ううちは、好き勝手させん・・。」
こぼしてしまって酒が少なくなった盃を口に運ぶ。
ああ、これだ。オレの身を今守っているのは。
しかし、この鎧どこかで・・・。
ーギュガアアンー
璃多姫の想いが、肩に着弾してユウジは我に帰った。
肩からは白い煙が出ているが別になんともない。
「ちちうぅええ!どこぉじゃぁ!どぉこにおられるぅうう。」
搭乗してから、璃多姫は魂座を見失っているのだろう。
次弾を魂座だろう、勝手に右手で叩き落した。虫のように。
「こら、父は殿と大事な話をしておる。」
銃弾すら子どもの戯れかよ・・・。ユウジは呆れた。
「魂座、聞きたいことがある。」
ユウジは初めて魂座殿ではなく魂座とよんだ。
これほどの想いを込めた鎧を、ひとりの武将が託して主と呼ぶのだ。
半端な態度は許されない。その覚悟だ。
「この鎧は、アダケモノのそれと一緒だな。」
「はっ、石神様と花神様は兄妹であらせられます故。妹君思いの兄君様です。」
「それはどういう・・」
ク海の連中がよく口にする言葉だ。
「勇王と内花姫のお話は知ってござろう?。」
「あの、小さい頃によく聞いたおとぎ話でしょう?」
ユウジの国には勇王と内花姫という昔話がある。
「ク海ではですな、石神様が勇王様、花神様が内花姫様とされておりまする。」
「確か、おとぎ話では、勇王が内花姫に呪いをかける・・・。」
ユウジは小さいころに婆様が話してくれた内容を思い出した。
「ええ、兄が妹を石にしてしもうた。」




