表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/123

第25話 大殿と客人 

 

 虎成(とらなり)城、奥。


 ユウジの婆様の話で一頻(ひとしき)りもめた夜、


「お祖父(じい)様、具合はいかかがですか?」

重家(かさねけ)の四男シロウは、城の奥に()せる祖父を見舞っていた。


「おう・・・、シロウか。今日はぁ、だいぶん調子が良い。」

 先代(せんだい)勇那守(いさなのかみ)である。


 今はシロウの父にその職を譲って隠居している。


「それは良うございました。ああ、起き上がらずとも楽にしてくださいませ。」


 ここ数年、病に臥せっていたが、今日はめずらしく体を起こしていた。


「良いのだ。我の最後の仕事も終わりそうだしのう。」


 祖父の意外な言葉にシロウは(おどろ)き、

「最後だなどと・・。なぜそんな。」

 祖父はこのような発言をするとは思えなかったからだ。

 しかし、逆に覚悟のようなものを感じ取った。


「ああ、末っ子のお前にはまだ話しておらなんだからの。」

「・・・と申されますと?」

 父や兄達が知っていて、自分が知らぬことがあるのかという意味に捉えた。


「んんっ。」

 少し、爺様(じいさま)がむせた。


「これ、大殿(おおとの)白湯(さゆ)を頼む。」

 シロウは手を打ち、側仕(そばづか)えの者に頼む。


「気をつけよ。今はこの城にはそなたしかおらぬ。」


 一瞬、シロウの頭にはク海探索のことが浮かんだ。城を空けるのはやはり危険(ダメ)か。


片城(かたき)のお(ばば)が動くなと言うたじゃろう?」

「なぜ、それをご存じで?」

 どうしてそれが祖父の耳に入ったのであろう?シロウは思案を巡らせた。


「失礼いたします。」

 白湯を運んできたのは、ナツキだった。

 そういうことか・・・シロウは理解した。


「責めるなよ。」

 祖父である大殿がポツリとだが釘を刺す。そしてナツキにそこに居よと命じた。


(ばば)が我に暇乞(いとまご)いに来たのよ。」

 そう言って大殿はゆっくりと白湯を口にした。

「年寄の言う事は聞くものじゃ。」

「はい。」

「我と婆は実は幼馴染(おさななじみ)での。その婆が訪ねてきて今生(こんじょう)の分かれだとぬかす。」


 先に爺様に挨拶(あいさつ)か、まぁそれはそうだとシロウは思った。


理由(わけ)は聞いた。まぁ気持ちは分かる。だがな・・・」

「はい。」

「時期が悪い。」

 時期?何の時期か?(いくさ)の状況は国境(くにざかい)で押し出し気味だが。

「時期・・と申されますと?」

客人(きゃくじん)のもてなしをせねばならぬ。」


 客人などシロウには何の心当たりもない。


「シロウ、片城(かたき)の婆とそこなナツキが何のお役目をしているか知らぬだろう?」


「父上からは、奥勤(おくづと)めとしか聞いておりませんが。」 

 そういえば、詳しくは知らない。シロウは普段、奥には入れないからだ。


「二人にはな。ここ五年以上、奥で(かくま)う客人の世話をしてもらっておる。」

「客人?」

 客とは誰だろう。しかも五年以上。シロウにはまるで分らないことばかりだった。


「それが、末っ子の私に話していないことなのですか?」

「おぉ、大事な客人よ。」

 シロウはナツキに目をやった。

 ナツキの瞳はやはり曇っているが、こちらが視線を送ったことが分かるのか、ゆっくりと会釈(えしゃく)をした。


「シロウよ。」

 大殿はここからのことは誰にも言うなと前置(まえお)かれた。


「そちはムミョウ丸を覚えておるか?」

「ムミョウ丸・・・。」

 

 忘れるハズもない。六年前、そうあの事件の後に知り合った男の子。


 当時十五歳のシロウはこの虎成(とらなり)城ではなく、南東にある天巫女(あまみこ)城へ疎開(そかい)していた。


 理由としては、当時、この虎成(とらなり)城が北の那岐(なぎ)の国、彩芭(さえば)氏の猛攻撃を受けていたからだ。


 その当時は東の大国、寿八馬(ひさやま)氏とは同盟を結んでおり万が一の場合、重家(かさねけ)の妻子はそちらに逃れる手筈(てはず)が整えられていたという。


 しかし、結果的に虎成(とらなり)城は持ちこたえたが、彩芭(さえば)軍は矛先を変え天巫女(あまみこ)城を急襲、落城するという結果になる。理由は裏切りだ。


 そして、その最中に、シロウを長とする一行はク海の(ふち)逃避行(とうひこう)することとなる。


 襲撃を受けながらの逃亡(とうぼう)


 そして虎成(とらなり)からの兄の救援が来た時、ク海においてナツキとはぐれた。


 いや、結果的に置いてけぼりにしてしまった。


 端的(たんてき)に言えばこれがシロウの苦悩の原因なのである。


「あれは、若様のせいではござりませぬ。」


 目は明るさがぼんやりとしか見えぬはずなのに、ナツキはシロウの表情を見てとったかのように言う。


「歳が十五を少し過ぎたばかりの()()が、落城からずっと敵兵とアダケモノを相手に血まみれで戦い続け、皆を守っておられたのです。感謝こそすれ、何の遺恨がございましょうや。」

 ナツキの笑顔は(まぶ)しい。


 天巫女(あまみこ)城の落城の後、この笑顔をみたのは、その一月後(ひとつきご)だった。


 なんとフラリとナツキがク海から帰ってきたのだ。


 ただ、瞳の光を失い、右手には笛、左手は年の頃は四つか五つほどの男の子の手を引いていた。


 それがムミョウ丸だった。


 しかしムミョウ丸は突然いなくなった・・・。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ