第20話 婆様と本心
「しかし、つまびらかにしたいことが結構あるのぉ。」
若様がまた、もみあげを搔いている。
「まずは、手勢からいこうか。」
ロクロウが会釈して説明をはじめる。
「現在、この城で若の意を汲んで行動できる宝の持ち主は五名おり、宝の数は六つ、その内二つは喪失しております。尚、別に保持者のいない宝は四つとなります。配下ではない宝の保持者も数名います。」
サヤがシュンとして謝る。
「失くしちゃったんはウチのですね。すいません。」
ロクロウは、気にするなと微笑み、
「それは置いておきましょう。配下の五名の内三人はこの場にいる沖殿、サヤ殿と私。それぞれの宝が計四つ、沖殿の槍帝の孚、サヤ殿の賽の白露と紅玉の瞳そして私の无妄の妻ですね。残り二人はジカイ和尚の観の星王ともう一人、今は別の仕事をしてもらっています。」
「持ち主がいない宝は先日の銃、本そして大剣。調査中のがひとつじゃ。」
「えぇと。」
視線が若様に集まった。
「ん?我?我は宝は持ってないぞ。悪いか?」
まずかったか?いや今のは自分から絡んだよなという雰囲気が立ち込めた。
「我の器に釣り合う宝などぉそうそう見つからんの・・」
「次に状況です!」
若様の話の途中でロクロウが構わず話はじめる。この人間はこういうところがある。
「現在、我々のいるこの虎成城は、この勇那の国を治める由緒正しき勇王氏の流れを汲む重家代々の本拠地であり本城です。もともと北と東西を大きな国に囲まれ油断できない状況の折、南西部からク海の浸食を受け、領地の半分を失くした状況にあります。」
「下手したら、次に沈むのはこの虎成じゃ!」
若様はぶつぶつと絶対嫌じゃ!沈むことはこの我が許さん!と独り言を吐いている。
ただロクロウは素知らぬ顔で続ける。
「また、現状としては、数年前から若様のおじい様であられる大殿様がお体を崩しこの地に臥せっておられるので、現当主の父君の勇那守様と兄君方が三方を手分けし他国の侵入を防いでおられます。」
「国力を削がれているから、押し返すだけで精一杯じゃ。ええい忌々しいク海め!」
許さん、許さんぞぉぉと独り言祭りの若様を置き去りにロクロウはさらに続ける。
「次にク海とアダケモノについて知識を共有、確認します。」
つまりは
ク海
・約八十年前に発生、徐々にその海面を上昇させている。
・仇花というアダケモノが毎月株分けすることで浸食する。
・海面下では自然も他の動物も通常通りの生態をしている。
・ク海面下では、人間のみが五感と精神に支障をきたす。
アダケモノ
・生態が不明。生物ではない可能性が極めて高い。
・硬い石化した鎧状のものをまとうため討伐が困難。
・非常に獰猛で攻撃的であり複数の種類が存在する。
・ク海面より上に出ることができない。例外有り。
・人間以外の動植物を襲わない。
・人間および宝に反応する。
・・ということだ。
「しかしな。」
若様の独り言は終わったらしい。
「まずもって、このク海とアダケモノの目的、発生理由とその条件が分からん。」
「それを探ることが我等の役目・・・ということでしょうか?」
沖が訊く。
「そうだ。それとユウジの救出を並行して行う。」
少し会議が長くなりそうなので、ロクロウは新しいお茶を持ってくるよう女中に頼んだ。
「ふう、先は長いのぉ」
若様が新しく淹れられた茶を一口飲む。
「ああそうだ、婆やはどうだった?」
ロクロウも口を湿らせているところだったが、
「荷造りをしておられました。薙刀まで。」
若様が少し吹いてしまって、熱い熱いと慌てて椀を置く。
「やっぱりか?」
「あのようなご気性の方なので。」
若様はやれやれと頭を抱えた。
「あのぉ、婆や様とは?」
沖とサヤは置いてけぼりだったので尋ねてきた。
「ユウジの所の婆様よ。我の幼き頃の世話係でもある。物腰は柔らかいのじゃが、芯が強すぎてのう。一度物事を決めたら岩のようじゃ。びくともせん。」
「もともとお役目は為し終えて、ご隠居される予定でしたが・・・。」
沈黙の後、フッと若様がため息をつく。
「片城様の件ですね?」
このサヤという娘はこのような身の上話には遠慮せぬらしい。
「そうじゃ。我がユウジの最後の顛末を伝えた。」
「婆や様は何と仰られたのですか?」
「残された遺族として、探索不要。ただ武士として孫を褒めて欲しいとそう言った。」
「片城にはそのような婆様がいたのか。親不孝者め。」
沖がポツリと小声で漏らした。
「・・・しかし、自慢の薙刀を持ち出すということは一人で探しに行く気じゃな。」
「御意。」
「行くなと説得せなんだのか?」
若様がちょっと口を尖らす。
「最初からそのつもりでございました。」
ロクロウもちょっと口を尖らして答える。
「うんにゃと言われたのであろう?」
「はい、最初に。」
「うんにゃと言ったらもう聞かんのじゃ。婆様は。何年か前の大地震の時なんかな、動かんいうから我は抱えて外に逃げたぞ。」
「他人の迷惑、足手まといになることは極端にお嫌いになりますからな。」
ロクロウが飲み終えた茶碗を置いた。
「それで・・・何と言っておるのだ。」
「お役目を解かれた以上、ただの老婆。孫を探すことを最後の務めとすると。」
「なんと・・・。」なぜか沖は袂で顔を隠している。
「そもそも、ク海は目からして潰れてしまいます。探すところではありませぬと申しあげても、そもそも近頃は目などよく見えておりませぬ。孫の亡骸などよく見えぬ方が良いなどと仰る始末で。」
皆、頭を抱えた。
「ああぁ、思い出した。」
「何をですか?」
突然のことにサヤが問う。
「ユウジが生まれた時のことよ。家族全員で笑っておった。婆やも幸せそうにな。我もだ。」
沖は視線が畳の端で止まっていた。そして、ぼそりと
「これはいかん。」
若がすっくと立ち上がった。
「ああ、こりゃぁ、ただユウジのところに行きたいだけじゃの。」
つまるところそれが婆様の本心だろう。
「それで、もう発たれたのですか?」
心配するサヤにいえいえと首を横に振るロクロウ。
「もし、ク海に発たれるのならば、若様にご挨拶をと。」
「・・・ロクロウ!我に投げたな!。」
「苦肉の策にて。」
「ああっもうっ!ク海などよりよっぽど手強いぞ。」
「私もアダケモノ相手の方がよっぽど落ち着きまする。」
美人はにっこり微笑んだ。
「若、腕の見せ所でございます。しっかり孝行してくださいませ。」
・・・悪いヤツ。




