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第16話 波と石


「いろいろと新しい情報が出てきたな。」

 若様が腕組(うでぐ)みしながら天井を(なが)める。


「ええ。整理のため、調査を進めなければなりません。」

 ロクロウは紙に要点をまとめているようだ。


「ク海に降りるには限度があるしな。」


「若様はク海に降りられると?」


「ああ、少しな。人としてもこの80年間(あま)り、何もしてこなかった訳ではない。ずっと記録を取りながら、どこまで進めるか試してきたのだ。」


「これ以上、我等の土地を盗られたら(かな)いませんからね。」

 ロクロウがため息まじりに辟易(へきえき)という感じだ。


「食い物を作れなくなると土地を(めぐ)っていらん争いが起こるからのぉ。」

 ジカイ和尚が茶を飲みながらしみじみする。


「和尚の言う通り、各大名の動きも探りながらク海に対処せんと、この間のようにしてやられることになるのよ。」


 サヤが怪訝(けげん)な顔する。

「若様、(いくさ)になるとですか?」


「大名も望んで仕掛ける訳ではない。ただク海がせり上がり、領地が減ると民に代わりの土地を用意せねば、食う事すらできなくなるじゃろ?常に内陸の土地が狙われるのは一番考え(やす)い。」


「海の幸は夢のまた夢。水と塩の取り合いも(から)むからの。本当はコレが一番の理由じゃが」

 和尚は遠く水平線を眺めるような面持(おもも)ちだ。


「我はク海の底の栓を抜き、本当の海を取り戻したい。」

 若様の目が座っている。この人物はク海への(うら)みを語ると目つきが豹変(ひょうへん)する。


「本当の海・・・」


 若様は自分が目つきが悪くなったのに気付いたのか、急に

「まぁともかく、チエノスケ、サヤ、そなたら二人は我の元に出仕(しゅっし)を命ずる。我の手伝いをせよ。」と言い出した。


 沖はためらいなく

承知(しょうち)(つかまつ)りました。」


 しかしサヤは

「ウ、ウチはお役に立てません。」

 なぜか(あせ)っている。


「なぜですかな?」

 ロクロウが優しく(ただ)す。


「ウチは戦えんし、それにほら、宝も無くしてしまいましたし。」

 なんだか落ち着かない様子だ。


 すると若様がちょっと悪い顔を(のぞ)かせた。

「それでは我は納得(なっとく)せんぞ。」


「ええぇっ」


「サヤ、そなたなぜ簡単に椀を(ほう)った?」


「えぇ?なぜって言われてもぉ」


 少し意地の悪い若様はほんの少し間をおく

「そのメルセデスとやらは何か言わなんだか?」


 サヤは、メルセデスの声を思い出した。

「え?必ず連れ帰りますって」


「それを信じて放ったな。」

 若様はここは間髪(かんぱつ)いれずにたたみ込んだ。


「ああぁ、はい。」


「だから我はそなたに感謝しておるのよ。」


「ユウジは生きておる。…迎えに行かねばの。」

 悪戯小僧(いたずらこぞう)の若様は立ち上がり言い放つ。


「それまで成り行きじゃ。付き合え二人とも。」

 そそくさと部屋を出ていってしまった。



 その頃


 それはかなり大きく深いものだった。


 ローラが見つけたその洞窟(どうくつ)は滝つぼの後ろに入口があった。


 大人が十人は手を広げて並んで歩ける広さだ。


 しかしそんなことより驚いたのはその内面を(おお)う石、いや岩盤(がんばん)だった。


「なんか妙だな」

 ユウジはひとつ拾ってみる。


「それは波石だよ。」

 薄闇の中マチルダの瞳に光が差す。


「ローラ、もっとこっちに来ておくれよ。」

 ローラは自在に辺りを飛び回るが、常に光を放っているので近づくと周りがはっきり見えるほど明るくなる。


「なあにぃ、マチルダぁ」

 ユラユラと揺れている、親指ほどの妖精。


「もっとゆっくり真っすぐに飛んでくれたら、ユウジがこけたりしないからよろしくね。」


「うん分かったぁ。こう?」

 ローラは素直な性格らしい。


「そうそう。」


 ユウジは拾った波石(なみいし)と言われる石を顔に近づけてよくよく(なが)めた。


「綺麗でしょう?見て、波打ってるのよ。」

 ローラも一緒に覗き込んでいる。


「そなたの羽の光ではないのかい?」

「違うよぉ!ほら。」

 ローラがユウジの肩に留まり、パっと羽の光が消えた。


 すると・・・

「わっ!びっくりした。・・・。」


 洞窟全体が光っているのだ。


 いや、ただ光っているのではない。


 まるで川の水面のように岩の表、小石まで光が波打っていることが分かる。


「石の中に水が流れるように光っているでしょう?だから波打つ石、波石というのです。」

 メルがそっと岩に触れる。


「どういう理屈だ。」

 ユウジは目を凝らした。


 一定の間隔で洞窟の奥から光が入口の方へ押し出されてそして引き込まれる。


 呼吸をしているような()(かえ)し。


 洞窟の上下一面、岩肌や小石に至るまでの奇妙な光の航跡(こうせき)


「不思議だ。奥にいけばどうなるんだ?」


 ユウジが足元に気を付けながら踏み出すと、目が少し慣れたのか、光の強弱が分かるようになってきた。

 

 すると濃い紫に光る流れが他の流れより強く早く洞窟の天井に流れ込んでいる。


 この流れがこの不思議な現象の本流(ほんりゅう)であることは間違いない。


 しかも他の流れは押し引きを繰り返すような流れだが、この流れだけが入口方向に向かって押し出され続けている。



「ここだけがなんか違うぞ。」

 ユウジは天井に這う紫の流れがどういうものか知りたくて天井の岩肌を見つめる。


「なあ、ローラ。悪いけどここ上の方を飛んでくれないか?」

 天井を指差した。


「いいけど、私飛ぶとまわりが光っちゃうよ。」

 ローラが耳元で話す。


「光って見せてほしいんだ。ほら、あの紫の光の強いところ。ゆっくりな。」


「わかったぁ。」

 ローラが肩を蹴り飛び立ったので、ユウジは一瞬 (まぶ)しくて目がくらんだ。


「こんな感じぃ?」

 妖精の光はゆっくりまっすぐ天井にむかっていく。


 思ったより天井は高い。


 紫の流れはそう、そこだ。


 何か見える。白い節だった石。見覚えがある。


 はっきりと。あれは・・・。


仇花(アダバナ)だ・・・。」


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