表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
121/123

第119話 神と仮説

虎成城下


「・・・震主(ふるえぬし)様?」

 その場にいた者の理解は追いつかない。

勇王(イサノオ)様と内花(ダイナ)姫様の父君に当たる神だ。」

 神話の中で、火の船に乗って訪れた若者の滞在を許した主神様のことか・・・


「この神は、最初から最後まで傍観を決め込んでいる。」

 そういえば、神話の中でも、最初にしか出てこない。


「何も手を出さない。何にも言及しないのだ。」

 朔耶介(サクヤノスケ)の背中がふと止まった。

「神話において、世界の生命が焼きつくされかけたいう戦においてもだ。」


 たしかにおかしい。

 主神(しゅしん)たる者。世界の終わりという戦争ならば先頭に立つハズだ。


「何もせず、逃げ隠れしていると思うか?」

 突拍子のない話に、皆、顔を見回すだけだ。

「はぐらかさないでくれ。それと明丸を連れて行くのに何の関係があるんだ!」


 朔耶介(サクヤノスケ)の顔は見えないが、きっと笑っているのだろう。

「俺もな。単なるおとぎ話なら頭の隅にもないわ!」

 振り返ったその男の顔には苦しみ色しかなかった。


「ただ、現実にク海という不可解極まりない現象がこの地を沈め、アダケモノという下劣極まりないバケモノが跋扈(ばっこ)しているではないか!だから、勇王(イサノオ)内花(ダイナ)姫はどういう形でか、存在するということだ。」

 ・・・そう・・やつらは余計だ。そして見たこともない神とされる存在を感じる。


「今の我等はな。この朝御代(あさみよ)という国という大船がク海という海で難破し、数少ない小舟を取りあっているにすぎない。守るものを線引きし争い合う。その小舟も沈むであろう。それでも我が子達を両手に掲げ大人たちは浅瀬を目指すのだ。」

 ・・・確かにク海は、すべてを飲み込み人々は死んでいくだろう。


 そして朔耶介(サクヤノスケ)は笑った。

「それすらもな・・・震主(ふるえぬし)は傍観するのよ。」

 ・・・そうであろうな。皆その答えがよぎった。


 朔耶介(サクヤノスケ)は続ける。

「ここからは、俺の仮説だ。」

 仮説だと?


「この主神たる震主(ふるえぬし)はその名が示すとおり、振動、・・・つまり波の神だ。」

 まったく分からない。


「この神は逃げ隠れしていない。」

 どういうことだ。


「その手掛かりはその近しい生命の女神である娘の名にある。」

 生命の女神?内花(ダイナ)姫のことか?


内花(ダイナ)姫・・・(うち)なる(はな)の姫。そう・・・すべては内側にあるということだ。」

 何?何を言っている?


「傍観しているのではない。震主(ふるえぬし)はありとあらゆるものの内側に存在しているのだ。常にどんな時も共にあるのだ。」

 分からん。そんなもの何も感じたことがないぞ。


「この世界、いや宇宙とでもいうのかな。これの始まりからすべては波かもしれぬのだ。今の我等の知識技術では測り知れぬが、我等の中に震主(ふるえぬし)・・・つまり波がいる。そして波・・・振動というものは終息する。生命もこの宇宙も。」

 世界が終わるだと・・・想像つかん。


「俺は考える。震主(ふるえぬし)という神はこの宇宙という規模で何かをしようとしているのではないかと・・・人間個人の生病老死、いろいろな苦しみがある。このク海とアダケモノはこの星の病かもしれぬ。・・・だがそれだけなのだ。震主(ふるえぬし)にとっては、ただ人間一個人のこと、単なるひとつの星のことにすぎぬのだ。」

 だから、何もしてこないように、手を差し出さないように感じるのか?


「だが、震主(ふるえぬし)は何かを求めているには違いない。」

 求めている?


「それは、神話になぜ勇那王(イサノオ)内花(ダイナ)姫の名が残ったか。それによるク海やアダケモノも性質から推測する。」

 なんだ?何がある?


 朔耶介(サクヤノスケ)は背を向けた。

「俺は、震主(ふるえぬし)は何かの目的で人々、いやすべての生き物の経験による感情を集めているように思う。」

 経験による感情?


 朔耶介(サクヤノスケ)は最後に呟いた。

「明丸に手が届く呪文。古い言の葉がねじれた(ことば)。・・・(Mauld)(Darwin) (Jennifer)(Wale)・・・この中に手がかりがある。」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ