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第116話 姉と妹

シロウは白い石となる。髪の毛の先まで。


 ただ、その顔は機嫌良く笑っていた。


 グンカイの刃はその主君の首を、覚悟を叶えることができなかった。

 小さな小さな赤子の左手によって、押し留められていたのだ。信じられることではない。

 明丸の3つ目の瞳はシロウの額に貼った貼札(シール)から離れない。

 

 その口からは、零れるように青年の声が漏れる。

「帰っておいで、それが望みなら・・・。レダには乗るな・・。」



 青年シロウは船室にいたはずだった。

 二人の大事な少女とともに。


 ティーカップの底に沈む紋章。・・・六文銭。

 その紅茶を飲みほし、その文様が現れた時、対価を払うことになるのだ。

 この世で生き、喜び、怒り、哀しみ、楽しんだ・・・その全ての経験を差し出すことになる。

 そして、新たな生命の設定を紅茶が流し込んでいく。

 だからこそ・・・特別製・・・なのだ。


 シロウはギリギリで、気が付いた。

 だからこそ、紅茶を飲もうとする手が止まった。まだ、やりたいことがあるから。

 

 その想い・・・伝わったのであろう。

 二匹の守護龍はその器を砕いてくれた。


 浮上する魂。花畑の花びらが行かせまいとするのか、吹雪のように三人の前で舞い踊る。

 その昇りゆく暗き天には星は無く、ただ白い四角い光りのみがあった。


 あそこまで行けば良い。三人はなぜかそう思えた。


 四角い、手のひら程しかない小さな光へ。


 眼下に見えるはどこまでも続く花畑と大きな川。延々と先が見えない。

 そして、その花畑中の花が舞い上がったのではないかと思えるくらいの花吹雪が起こり、やがてそれは花龍となった。恐ろしくはない。ただ、秩序を守ろうとする強い意志を感じる。


 大きな口で三人を捉えて、また花園に戻す気なのだろう。


 双子の娘(ステラマリス)は、星の龍の姿でシロウを取り巻き守っていたが、妹が姉に話かけた。

姉様(あねさま)、どうやら花の龍様は我らの命がご所望のようです。」

「もう少しで、貼札に届く。捨ておけ!妹よ。」

「どうしても、許してくれそうにないわ。」

 青年を取り巻く二つの影の内のひとつが、弧を描いて離れた。

 那由多の花びらを集めた花龍と左眼の赤い煌めく星の龍が天上でもつれ合う。


「マリス!」右眼の赤い龍は絶叫する。


ー姉様。我ら姉妹は先に逝ったお兄様方にこの子を守ると約束しましたー


「だから!こっちへおいでっ!」


ーいいえ、姉様。ここでこの子(シロウ)を獲られるわけにはいかぬのです。この子はよぉう頑張った。裏切られ、城が落ち、一族の最後のひとりとなっても・・・そして、首ひとつになってもあきらめようとしなかった!その望み、先祖(おや)として、気の済むようにしてあげたいのですー


「言い出したら、聞かぬのだから!頑固者めっ!」


ーふふっそれはお互い様ですわ。さぁ姉様、魂の方をお願いいたしまする。妾は石となった肉体に寄り添いましょう。いつか、・・・いつかこの子の体が元に戻る時、惑わぬよう、困らぬよう、・・・そして淋しくないように妾がついておりましょうー


「大叔母上様!」シロウの叫び声はレダまで届いた。

ーその呼び方は認めぬと言ったハズ。ふふ、まぁ許してやろう。さぁ早う、早う行け!-


「妹よ、我ら龍の鈴は片鈴でけでは鳴れぬ。必ず、必ず迎えにいく。」

ーああ、また二人して鳴ること、楽しみにしておりますー


 シロウとステラは天井の光と消えた。


「さぁ星の龍姫がひとり、マリスである。花龍よ、我が涙波紋(クライスヴェレン)をとくと味わえ!」


 夏の終わりの風鈴のようにはかなげな、それでいて凛とした口上が響き渡った。



 明丸の三つ目はじっと石となったシロウの額にある貼札を見る。先ほどまで光っていたが収まったようだ。

 そこには、獅子と右眼の赤い龍が描かれていた。

「この件、船長(おじいさま)には私が取りなそう。」

 明丸はそういうと、三つ目の瞳を閉じ、貼札を剥いだ。


 貼札が剥がれた時、そこにはアダケモノの石となったシロウの体はなかった。


 そこにあったのは地面に刺さる抜き身の一振りの刀。柄には左眼が赤い龍が彫り込んであった。




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