第100話 役割と死に場所
成馬宮城近郊 ク海潜水艇ムラサメ
シロウは当面の目標を虎成奪還に定めた。ク海の支配域を減らすことを第一とする。まだこのク海の下で逃げまどい、隠れている民たちがいるはずだからだ。
役割分担をする。
ムラサメ自体は武器が搭載されていない。脱出用だからだ。その分装甲は厚いと聞く。
ローラ 機関担当 もうこの娘抜きで動力は制御できない。
マチルダ 武装整備管理担当、ユウジの武器の換装を計画実施する。
メル 航法、測的、応急担当。全体を把握し適確に状況を判断する。
魂座 艦外戦闘要員 ユウジの鎧としてその身を護る。
璃多 艦外戦闘要員 ユウジの銃として必ず随伴する。
ステラ 音響測的攻撃担当 涙波紋を攻撃に使う双子の姉。
マリス 音響測的防御担当 涙波紋を防御に使う双子の妹。
ユーグ 情報分析担当。その虫眼鏡は全てを見通す。
モモ 防御壁担当。素直に完璧に艦を守る盾となる。
露嶽丸 ムラサメ基幹機構としてムラサメを操る。
チエノスケ 操舵担当 その実直さでまっすぐ舵を握る。
サヤ 見張り員、艦内の安全の確保、特に明丸担当。
グンカイ 副長兼飛行長 艦の運用を補佐する。
シロウ 艦長
ユウジ 艦外戦闘員 ムラサメの数少ない戦闘力。
明丸 応援担当?彼に微笑まれると元気になる。
「暖機運転終了。」露嶽丸から報告があがる。
「各部、点検始め。」シロウの号令が入る。
「艦内閉鎖確認。」
「艦内閉鎖確認終わり。異常なし。」メルが全ての扉を確認して
「電探魔法陣、異状なし。近づく目標なし。」と続ける。
「探信機能異状なし。」ステラとマリスの声が合わさる。
「敵性感情波等、探知なし。」ユーグはノリノリだ。
「移動物の確認終わり。安全確認終了。明丸安全確保良し!」
サヤが指差し確認して、最後には明丸にほほ笑む。
「船体起こせ。試し方確認深度まで浮上。急降下に備え船体下部に防御壁展開」
グンカイが指定どうりに事を運ぶ。モモを優しく撫でた。
ムラサメがク海に浮きあがった。
「トリム調整、水平確保よし。」メルの声が響く。
「姿勢制御魔法陣異状なぁし。前後進及び舵の試し方用意良し。」ローラだ。
ムラサメは各動作を確認していく。
チエノスケが舵輪をまわして舵の動きを見る。
艦外から通信が入る。ユウジだ。鎧を着て艦外で異状の確認をしている。
「こちらユウジ。舵機能正常に動くことを視認。」
「舵の試し方終わり。異状なし。」グンカイの報告がシロウの耳に入る。
マチルダの操作で感情波型投射錨鎖が巻き取られる。
錨が地を離れた。
「ムラサメ!発進!」
さあて、行くか。シロウは自分の腹を軽く殴った。
「ユウジ帰投。艦内に収容。異状なし。」
グンカイがユウジが無事、アーノルドと共に艦内に入ったことを確認。
「両舷、前進微速!」
ムラサメが滑るように動き出す。
シロウは考える。
目指すは虎成城、未だにク海があることから、仇花は咲いているのだろう。
状況を確認しなければならない。
もうひとつ、虎河の狙うものは明丸だ。明丸の存在を秘匿しなければならない。
昨日の大ムカデとの一戦で得られたことはなんだ?
一番の反省は、戦果にこだわって浮力を失い、乗っていた者の命を危険に晒したことだ。今回以降も仇花を討ちとるということは、ク海を無くし浮力を失うということ。つまりはムラサメの機動力を失うということに等しい。しかもその時には宝達は艦外に出ると元の姿に戻る。
また、このムラサメは外部のク海の悪影響をすべて遮断してくれるが、固有武装はない。現状で安全にといったらおかしいが、艦外で行動、戦闘できるのは人の内ではユウジだけだな。
条件が悪い。しかしそうそうに虎成は解放せねばな。城に乗りつけての白兵戦か?どれだけ虎河の兵が城近辺に残っている?
やはり、もっと情報が欲しい。戦力差がどれだけあるか?有効な手段の構築に情報が足りぬ。
「若、操舵手をサヤに交代させたいのですが」
グンカイが具申してきた。
「チエノスケはどうするのだ?」
「槍帝の孚の行動領域内に城が入ったなら蜂を偵察に飛ばします。」
「分かった。」
「それと、魂座殿を通信席へ。」
「どういうことだ?」
「天巫女の骸兵、五百、虎成城奪還のため、馳せ参じまする。」
うしろから、魂座の大きな声がした。
ありがたい・・・しかし
「仇花を討ったら、ク海は引いてしまう。そうすれば、その兵たちは!」
もとの骸に崩れ落ちる。
魂座はシロウの表情を満足そうに眺めていた。
「さすが、現太兄いの血を引く御方よ。心根の優しい若様であるな。」
大きな体を揺らして笑う。
「我ら、天巫女の兵も勇那の兵、天巫女奪還も意地と暇つぶしでやったことにござる。それにですな、虎成には親戚のいる者も多い。本城ですからな。勇那の子達が苦しんでおる。黙っておられますかな?それにの、ワシらはとおの昔に死んでおる。がはっはははは!」
笑いごとじゃないんだが、シロウはそう思った。
「昨日の夜、女連中と細やかな話をしておったでしょう?ワシらはワシらで飲みながらこれからのことを話しあっておったんじゃ!なぁ魂座殿、ローラ!」
グンカイ、ただ酔っぱらっていたワケではないんだな。
エンジンが唸る。ローラ、まともに返事しなさい。
「若、我が兵に死に場所をお与えくだされ。国のためなら本望にござる。」
そう、国というものに本来形はないし国境もない。それが虚像というならお互いが思いあう共同体がそれを成すのかもしれない。同じ時を生きていてもそれが希薄になれば滅びるだろう。しかし、このように骸となっても帰ってきてくれる者がいる。姿、形などどうでもいいのかもしれないな。
シロウはふとそう思った。