ロードリア家のパーティー3※アユム視点
イヨン君は、何もグラスを持っていなかった俺にワイングラスをくれた。
「あ……僕からお酒を渡されるなんて嫌ですよね」
「まさか! ありがとう! いただきます」
俺は弱いけど、ぐいっとワインを飲み干す。
お酒は詳しくないんだけど、すごく美味しいのはわかる。
「明日には発ってしまうなんて、寂しいです……僕が言える立場じゃないんですけど」
「俺も寂しいって思ってます。イヨン君は留学するんですってね」
「はい。土の研究がしたくって」
ソフィア様が悩んで悩んで考えたイヨン君の未来は、留学だった。
イヨン君は、昔から畑の土や色んな土を観察しながら種を育てるのが好きだったらしい。
沼にいたソフィア様を見つけた時も、沼に土を採取しにきた時だった。
ソフィア様は、今後領主も継げない……将来どうなるかわからない息子のため、彼の好きな勉学の道に進ませてあげたいと願った。
それはイヨン君の望みでもあった。
俺は、それを聞いて大学受験の前に全てリセットされるような人物が家に戻ってきたらパニックになるかもしれないな……と少し気持ちがわかった気がしたんだ。
もちろん、エイシオさんが本当に傷つけられていたら許せなかったと思うけど。
「雨が多いこの土地でも、土壌の改善と種の品種改良で育てられる作物が増えるといいなと思ってるんです」
「イヨン君、すごく立派だよ」
俺よりずっと年下なのに、本当にすごいな。
俺は元いた世界で何を考えて生きてたんだろう?って思うと恥ずかしい。
「エイシオ兄様は……これからどうなさるんでしょうか」
「……エイシオさんは……」
エイシオさん。
ラミリアさんも『あなたほどの人が力を使わないなんてもったいない』と言ってた。
俺は……エイシオさんの……勇者の力を使わせないでいる可能性を奪う邪魔者……?
心がズキリと痛んだ。
これは誰かに言われたからじゃなく俺自身が思うこと。
「イヨン~アユムさんと話してたの? ずるいわ」
「姉さま、母様」
「アユム様、ごきげんよう」
あ、シャルロットちゃんとソフィア様。
「アユム様、この度は本当に……」
「いえ! もういいんです! 俺は何も」
「いいえ、アユム様は、私達家族の救世主です!」
「いえいえ!」
深々と、長々とお礼を言われて俺もペコペコしまくった。
もう顔を合わせる度に言われている。
シャルロットちゃんは、幼馴染の好きな男の子と婚約するんだそうだ。
幸せいっぱいなロードリア家。
「ねぇ、アユムさん。アライグマちゃん抱っこしていいかしら~?」
「え? うん……アライグマさんがよければ……」
「やったわ! お母様が抱っこしたがってたの!」
「嬉しいですわ。さぁおいで」
ソフィア様が優しく撫でると、ザピクロス様は飛び跳ねて豊満な胸の中に飛び込む。
あれ? 雷が起きない。
「むふむふむふ~~~ぐふぐふふふ」
「あら、すごく嬉しそう。可愛いベイビー。今日はママのところでおねんねしましゅか~?」
「むふ! むふむふ!!」
優しく赤ちゃんをあやすように言うソフィア様。
中身は赤ちゃんではなくてスケベおっさんな気がするけど、シャルロットちゃんも一緒に寝るらしいから大丈夫かな?
「じゃあ俺明日に迎えに行きますから」
「うふふ、ありがとう」
ザピクロス様は、ソフィア様の胸に抱かれてむはむは! と行ってしまった。
「アユム! 大丈夫かい?」
慌てたようにエイシオさんが現れた。
今日は皆の前に立つからと、ドレス・バーコックが仕立てた白いスーツ。
王子様のようにかっこいい。




