家族抱擁のあとで※エイシオ視点
あの家族での抱擁からロードリア家では即座に、ソフィア様を陥れ父上を殺そうとしたブルバッド家への対応をする事になった。
戦争をするわけにはいかないが、殺人未遂事件やソフィア様、従者達への暴行の罪をしっかり償ってもらうと皆が心に誓ったのだ。
ドレス・バーコックに来る予定だった二人は空き家で拘束されているのが見つかった。
ダニーとシャンディは、あっさり依頼された事を認めたが、仲介組織も間に入っているだろうからブルバッド家に繋げる事は難しいか……と思われたが。
初めてともいえる家族での必死の共同作業。
父上、母上、ソフィア様、兄弟、そしてラミリアも一緒になって、今回の問題に立ち向かった。
そうしたら、あっという間に片付いた。
フレイグルス兄さんは、あちこちに手引して、ウルシュ兄さんなんて、無能そうに遊び呆けているように見えて実はすごい人なんだよな。
数日のうちに、ブルバッド家はロードリア家に対する罪を問われる事になって驚いた。
ソフィア様が一人で抱えてしまっていた領内の問題や仕事もしっかり父上が管理し母上も協力することになって本当に良かった。
二人はソフィア様に今までの事を謝ったらしい。
ソフィア様の寂しさが解消されたのは、彼女のツヤツヤした肌を見れば一目瞭然だ。
ラミリアもこの一件落着に安心してくれた。
そして僕は、やっと落ち着いた時間をアユムと過ごしている。
家族抱擁から一週間。
プンスカとザピクロス様には怒られたけど、しゃぶしゃぶ、ステーキ、そしてアユムが新たにスキヤキという美味しい鍋を作ってくれてやっと機嫌が戻った。
父上とどれだけの肉を食べたことか。
今は夕飯後の僕の部屋。
ワインを二人で飲んでいる。
邪魔もいるけど……。
「毒を盛ったのは我じゃないもんっ! 勇者のくせに生意気だっっ!」
ソフィア様から頂いたチョコレートをバクバク食べるアライグマ。
……なんだか初めて見た時から3倍くらいになっているような……。
いや、まさかな。
……まさかかなぁ?
「わかっていますよ……もう本人から謝罪は受けています」
「……イヨン君だったんですね」
アユムにはわかっていたか。
「あぁ……イヨンはソフィア様が沼で不安をこぼしているのを聞いていたんだ。そのなかで、シャルロットとイヨンの将来を不安がる言葉もあった。当然だ。シャルロットはまだ女の子だけど、イヨンは四男。父上があのまま亡くなってしまったら……という不安は母親として当然ある……それも僕が顧みず家を出たせいだ……」
「エイシオさん、そんなに自分を責めないでください」
アユムの優しい言葉に僕は首を振る。
本当に自分勝手さだったことを悔やんでる。
「僕が家に戻ってきたことで、イヨンは焦り、衝動的に毒を盛ってしまったと泣いて謝ってくれたよ。丁度ソフィア様がイヨンのために考えていた将来設計が駄目になるかと思ったようなんだ」
「勇者を殺したかったのか? ……あの小僧は」
チョコから出た真っ赤なベリーソースを舐める……アライグマ。
「そこまでじゃないですよ。お腹を壊して疑心暗鬼にでもなれば、兄弟間での派閥が嫌になって……また家を出るだろうと思ったようです」
「まぁ、大した量でもなかったしなぁ~殺すには少ないな、苦い毒ですぐわかるものだしのぉ」
相当盛大に騒いだけどな……。アライグマ……。
「ショックですよね、エイシオさん」
心配そうなアユムに、僕はまた首を横に振る。
「イヨンにも随分不安な年月を過ごさせた責任を考えたら、僕のショックなんか大したものでもないよ。ちょっとしたイタズラだと思っているし、イヨンの泣き顔を見たら可愛い弟だと僕も改めて思った」
「よかった」
「僕はやはり、ロードリア家からは出るべきだ」
「みんな引き留めていましたよ。ロードリア家はもう古い考えはやめようって……」
「でも僕はあの家で、ゆっくりとアユムと暮らしたいんだ……それが僕の幸せだよ」
そう、家族関係は修復された。
でも僕の望みは変わらないよ。
僕が微笑むと、アユムも微笑んでくれた。




