エイシオさんのお父さんを訪ねる※アユム視点
俺とエイシオさん……とザピクロス様を抱っこして、長い廊下を歩く。
雨は、まだ降ってる。
ここは三階かな? 遠くの山が見えるけど雷が鳴っているようだ。
沢山の絵画や壺が飾られて、美術館のような廊下。
「アユム、大丈夫かい?」
「は、はい……でもちょっと怖くなっちゃいました。エイシオさんが心配で……」
「僕は毒の耐性もあるから……あまり心配しないでね。アユムを一人にしたりは絶対にしない」
「ぜ、絶対ですよ。俺は……エイシオさんがいなくなったら……」
二人きりになったら……つい泣きそうになっちゃった。
エイシオさんは俺の肩を、優しく抱いてくれる。
「約束するよ、ずっと二人で生きていくって」
「はい……」
これくらいなら友人同士として、廊下に立っている警備の人に見られても大丈夫かな?
「お腹すいたーの」
ザピクロス様……。
「……父上のところで何か食べ物をもらいますから……はぁ」
「本当に俺まで着いていって大丈夫ですか?」
「あぁ、さっきもアユムと話がしたい様子だったしね……人って変わるもんだな」
昔はもっともっと威厳があって、怖い人だったのかな?
騒動もあったからか、かなりの人数が護衛している部屋に着いた。
エイシオさんを見ると、皆が敬礼して扉が開かれた。
あ、執事のロンさん……。
「エイシオ様……こちらへどうぞ……アユム様とペットのアライグマもご一緒でしたか」
「ムキー!」
ペットじゃないと威嚇するザピクロス様を、俺は慌てて落ち着かせる。
「あの、何か食べ物はありますか?」
「それではお茶とお茶菓子を用意させます。毒見係も一緒に連れて参りますので御安心ください」
「あぁ頼む」
毒見係……はさっきはいなかったのかな。
お父さんは寝室に、お母さんが付き添っているらしい。
ちょっと緊張しちゃう。
侍女二人が、重たい扉を開いてくれた。
「失礼します」
「まぁエイシオさん……お茶会残念だったわ。アユムさんもあんな騒動になってしまって、ごめんなさいね」
お父さんの横で椅子に座っていたお母さんのバーバラさんが立ち上がる。
天蓋ベッドはキングサイズ。
部屋にはお父さんの若い頃なのか、豪華な額縁の巨大な人物画が飾られていた。
「……ん……?」
なんだろう、何か感じる。
……寒い……?
外は雨だし、寒いのは当然なんだけど……何か嫌な空気……。
しっかり部屋は穏やかな光も置いているのに、深海魚の水槽を覗いた時のような不気味さを感じる。
「父上……顔色が悪いですね」
「あぁ……歳には勝てんな、はは……せっかくお前が家に帰ってやっと祝言をあげるというのに」
「ち……父上……実は」
お父さん、エイシオさんとラミリアさんの結婚を喜んでいたんだ。
エイシオさん動揺している。
俺も……。
一気に言いにくい空気になってしまった。
「明日は採寸もあるしな、毒なんぞ盛った犯人はすぐに見つけて処罰する。安心して、お前はラミリアと……ゴッホゴフ!」
「父上!」「あなた!」
二人が咳き込むお父さんの背中をさする。
エイシオさんも、こんなに弱ったお父さんを見て、ショックだろうな。
こんな状況のお父さんに、婚約破棄を伝えて大丈夫だろうか……?
そして、相手は俺なんかで……いいんだろうか?
「ふむ、あの父ちゃん呪われておるな」
「えっ……?」
ザピクロス様が真面目な顔をして、小さく呟いた。




