華麗なるお茶会※エイシオ視点
外はまだ暗雲が立ち込め、雨が降っている。
イヨンの話を聞いた僕の表情も暗く、アユムに気を遣わせてしまった。
「大丈夫だよ、ごめんねアユム」
「バーバラ様ってお母さんですか?」
「そう、僕と兄二人の母親。さっきの派手な赤いドレスの女性だよ。妹達は母親が違ってね」
「そ、そうなんですか……」
「アユムはあまり馴染みがないかな……でも母上と側室のソフィア様は仲もよいんだよ。ソフィア様は今はお留守のようだが……」
アユムの耳元で、こっそり話す。
「そうなのですね。皆様とても華やかで素敵な御家族ですね」
「はは……ありがとう」
華麗な一族。
綺羅びやかな美しい家族。
皆が羨ましがる素敵な家族……。
アユム、もしかして混ざりたいと思った……?
僕は少し不安になる。
「早く用事を済ませて、俺達の家に帰りましょうね」
「アユム……」
あぁ君はいつだって、僕の気持ちをわかってくれるんだ。
このまま抱きしめたい気持ちを抑える。
「兄様早くー!」
「あぁ」
今日のお茶会は、母上のお気に入りの光の間だ。
曇りの日でも天窓の細工で、晴れのように光が溢れ、ステンドグラスや飾られた絵画が輝いて見えるのだ。
晩餐会ではないので、ゆったりとした楕円形のテーブルに豪華なデザートやサンドイッチが並べられている。
急だというのに、これだけのご馳走。さすがだな。
「わぁ、すごいですね」
「この城のシェフはなかなかの腕前だと思うよ。でも僕はアユムのパンケーキが一番好きだけどね」
「エイシオさんったら」
どんな時でも、アユムへの想いに繋がってしまう。
さぁ、このお茶会で婚約だの結婚だのは全部ラミリアの妄言だと伝えなければならない。
「さぁ、アユム殿。是非、私の隣へ」
う……ウルシュ兄さん。
また妖しい笑みをアユムに向ける。
この人は昔から……いわゆる人ったらしなのだ。
女性はもちろん……男性も。
僕がアユムへの恋心を自覚した時に、拒否反応がなかったのは兄さんのおかげ? でもあるかもしれない。
小さな頃から自由奔放に恋も愛も性も好き勝手にしてきた男だ。
まさか、今度はアユムに……!!
「いえ、ウルシュ兄さん、アユムは僕の隣に……」
「……アユム殿、異国から来られたという話を聞いた。私の隣に座ってくれないか」
ええ!?
僕と兄さんの間に入ってアユムを誘ったのは、なんと父上だった!!
厳格で他人を寄せ付けない父が!?
「は、は、はい……」
当然ながら、皆が驚いている。
僕が一番驚いている。
僕だって父上の隣でお茶を飲んだことなんてない。
「最近は、馬に乗ることも叶わず、異国の話を聞きたいと思いましてな……」
父上……。
アユムはロンが用意した父上の隣の席に座った。
あぁ父上の隣に、僕の恋人が……。
奇妙な感動というのか、嬉しいような複雑な気持ちだ。
そして、お茶会が始まる。
「エイシオさん、貴方の好きなピュアシシュタルトも用意したのよ」
「あぁ……ありがとうございます」
アユムの反対側で父の隣に座る母が僕に言う。
ピュアシシュはこの地方の名産果実だ。
本を見せてアユムに教えた事もある。
確かモモという果物に似てるって言ってたかな……。
甘く砂糖で似たピュアシシュを、たっぷり乗せたタルト。
もう、こんな甘いタルトは食べないのだけど母上が覚えていてくれるなんて……嬉しいな。
皆が談笑するなか、僕はタルトをフォークで切って口に運ぶ。
うむ、洋酒のいい香りがする……。
「ピュアシシューーー!! 名産タルト!! ずるいぞぉ! 勇者め!」
なにぃ!?
一体どこから!?
アライグマが一瞬で僕が食べようとしたタルトをバグッと咥えて、クルッと宙返り。
掴んだタルトを全部一気に食べてしまった!
「モグモグ! モグモグ!」
「きゃあっ!? ケダモノ!?」
女性陣が叫ぶ、そのとおりケダモノだ。
さっさと捕まえて、部屋に戻さなくては! そう思ったのだが。
「モグモグ! う~ん、これは……毒!!」
え!?
ザピクロス様は、目をまわしてその場に倒れた。
更に皆の悲鳴が響く。
……毒、だって!?




