やっとご飯※アユム視点
気付けば二人、玄関で抱き合っていたわけで……。
「あっ! ごっご飯の用意しますっ!」
「う、うん頼むよ」
俺、すごく恥ずかしくて照れちゃったけど。
エイシオさんは優しく微笑む。
やっぱすごいな……勇者と言われるような人だから博愛っていうのかな。
エイシオさんは守るべき民との交流……くらいなものなんだろうな。
とりあえず心臓を落ち着かせながら、俺はすぐにグラタンを焼いた。
チーズをたっぷりかけて、オーブンへ。
オーブンは発熱する石を、使っているらしい。
仕組みはわからないけど、昔のオーブンって感じかな。
トマトグラタンに野菜の酢漬け、パン。スープ。
「あぁ、いい匂いだ。お、ワイン」
テーブルの上のワインにエイシオさんが気付いた。
この前、骨董市で買ったワイングラスも用意していたけど……。
「お酒は傷に障りますよ。今日は駄目です」
「えぇー」
エイシオさんが子供のような声を出したので、俺は驚きながらも笑ってしまった。
「この後に熱が出たりしたら大変ですし」
「全然平気だよ。いつも怪我しても飲んでたし」
意外な面を発見。
エイシオさん、お酒が好きなんだよね。
「お願いだよ、アユム。一杯だけ」
「……でも」
「アユムと乾杯したら元気になるよ」
今日は色々あって疲れただろうし、エイシオさんには敵わないな。
ワイングラスに半分だけ注いで乾杯をした。
「「いただきます」」
二人の前にそれぞれ置かれたグラタン皿。
「む……」
「あっ」
アツアツのグラタン皿だ。
フォークを刺すと動いてしまう。
片手だと、なんだか危ない!
「すみません、こんな食べにくい物を用意して! 俺、馬鹿でした」
「何を言うんだ。朝からの約束だし、アユムが謝る事はなにもない。謝るのは怪我をした僕だよ」
「そんな」
「朝からずっと楽しみにしていたトマトグラタンだよ、嬉しいんだ」
「……でもこのまま片手で食べるのは危ないです。ちょっと待っててください」
俺は、すぐに皿を持ってきた。
この家のテーブルは四人がけ。
いつもは向き合って食べるけど、今はエイシオさんの隣に座ってスプーンでグラタンを取り分ける。
焼き立てのグラタンはアツアツの湯気が立ち上っている。
「や、火傷しちゃいそうだ……ふーふー」
あ、無意識にふーふーしてしまった。
大の大人のご飯を勝手に……!!
わー俺馬鹿!!どうしよう、これは絶対引かれる行動だよな。
まだ手を付けていない自分のグラタンと換えます! と言おうとエイシオさんの方を見るとエイシオさんが口を開けて待っていた。
「えっ」
「えっ」
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