屋敷の門に着く※エイシオ視点
次の小さな村で一休みしようと思ったが、村は浸水の被害を受けていた。
だから僕は無理をして、家まで馬車を走らせ続けることにした。
雨のなか、やっと門に着いたのは夜中。
屋敷は高い塀に囲まれて守られているので、門番に声をかけて開けてもらう必要があった。
「エイシオ様!? エイシオ様よくお戻りに!! みんなーーエイシオ様のおかえりだ!」
老年の門番が僕の顔を見てすぐに気付き、先に伝令魔法陣で城に伝えている。
とりあえず馬車ごと、門の中に入ることができた。
浸水被害を受けている小さな村に、救助と応援を派遣するように伝える。
「屋敷っていうか……お城じゃないですか……すごい」
暗闇に浮かび上がる白い城。
戦争もなくなった今は、ところどころに発光石を使っているので深夜の大雨の中でもその全貌がわかる。
もう一人の門番が合羽を着ているとはいえ、濡れきった僕達に駆け寄ってきた。
「エイシオ様は幌の中でお休みください。運転は私が代わります! おい、そこの御者!!」
「彼は僕の大切な人だ、失礼は許さない……!」
またか……!
「そっそれは大変失礼致しました!」
「エイシオさん、いいんですよ」
うっ……アユムはいつもの優しい微笑み。
僕はつい怒鳴ってしまいそうになるのに……。
「よくはない。何をどうして、こんなに素敵で輝いているアユムを怒鳴りつけることができるんだ」
「エッエイシオさん、恥ずかしいですから! 輝いていないです!」
「申し訳ございません! 大変失礼致しました!」
「いえいえ、大丈夫ですよ~気にしないでくださいね」
「アユム……」
アユムに『エイシオの恋人』という看板を持たせたい。
そうすれば、誰も彼を御者だとは思わないだろうし、変な虫も来ない。
うん……いいかもしれない。
看板は無理でも服の刺繍とか……?
ドレス作りはやめさせて、アユムの服を作らせる……いいかもしれない。
「エイシオさん?」
「あっいや、それでは幌に乗ろう。此処から城までもかなりあるんだ」
「はい」
幌に入るとダニーとシャンディも、疲れ顔だが安心したように微笑む。
「エイシオ様。その御二人は……?」
「城が呼びつけたドレスの仕立てた屋だそうだ」
「そ、そうですか……失礼しました」
門番は、もう何も言わず幌の前面を閉めて馬車を動かし始める。
あの雨の中、身体が冷え切らなかったのはアユムのおかげだ。
燃やすこともなく、ギリギリの暖かさで火をコントロールできるだなんて神業としか言いようがない。
「エイシオさん、寒くありませんか?」
「僕は大丈夫だよ」
「コーヒー飲みましょう」
「ありがとう」
門番からもらった砂糖たっぷりの熱いコーヒーを、四人分のコップにアユムが注いでくれた。
はぁ……染みるように美味い。
さて、こんな夜中に数年ぶりの帰宅だ。
どんな事になるのやら。
雨音とアライグマのいびきを聞きながら、僕達はまた馬車に揺られる。




