エイシオさんが結婚!?※アユム視点
「結婚だって!?」
エイシオさんが叫んで立ち上がり、ザピクロス様がコロコロ転がっていってしまった。
「ぐお! ぴぎゃー!! ぐお! びええええええええええええん!!」
「あーよしよし」
慌てて僕が抱き上げるけど、エイシオさんもダニーさんもシャンディさんも驚いたまま硬直している。
「ええ、エイシオ様は……ご存知なかったんですか……?」
「僕は誰と結婚する事になっているんだ!?」
「そ、それはもちろん婚約者のラミリア様だと……」
「ラミリア!? そんな事実はない……!」
「まぁ……なんていうことでしょうか。私達はドレス・バーコックという店のドレス職人なのですが……」
「バーコック……あぁ、うちで代々使ってる店だ。じゃあ依頼は父上か! 母上か!?」
「ええと……そこは親方に聞かなければ……」
「エイシオさん……とりあえず落ち着いてください!」
怒鳴るわけじゃないけれど、エイシオさんも混乱しているから少し大声になってしまう。
お客様相手で二人も動揺しているし間に入らないと。
「そ、そうだね……大きな声を出してすまない。君達はただ依頼を受けただけだな……。本当に申し訳なかった」
「い、いえ……私達もただの下っ端の職人で……」
「誰からの依頼なのかなど、詳しい事情はもちろんわからないのです」
こ、これはどうしよう。
本当はエイシオさんの実家には寄らずに先にテンドルニオン様のところへ行く予定だったけど……。
「一度帰ったほうがいいか……それとも、もうこのまま……二度と」
このまま、もう二度と実家には戻らないつもりかな。
それでいいんだろうか……。
「家に帰るんじゃ……!」
うわ!? ザピクロス様!?
三人が俺の方を見る。
ザピクロス様が急に喋りだしたから!
ヤバい! ヤバい!
「勇者殿よ……このまま逃げ続けるわけにもいかんだろう」
俺は適当に口をパクパクさせる。
お、俺が喋っているように見せるしか無い!
ダニーさんもシャンディさんも、声も口調も変わった俺を見て、かなり変な表情をしている。
怪しすぎるもん!
ザピクロス様ぁ! もう黙って……!
「家に一度戻って、真実を確かめるんじゃ! そしてご馳走を……あそこの名物の牛肉を……! 喰わせろ……!!」
さすがに俺もザピクロス様の小さな手を、ギュッと握ってしまった。
ご馳走目当てだよ、この人! いやこの神! もう黙って!!
「……いた~い……」
黙って~~!!
「わ、わかったアユム……そうしよう! うん! 家に帰ろう!!」
エイシオさんも俺の小芝居に気付いて、必死にまとめようとしてくれる。
「あは……なんだかそのアライグマが喋ったのかと思ったよ」
「びっくりしたわ」
「あはは! 俺、真面目な時って、ちょっと声が変わっちゃうんですよね! さぁ! じゃあパンを焼きますね!」
「あぁ! ありがたい! アユムお願いするよ! 申し訳なかったね、二人とも……僕もびっくりしてしまって……」
「いえ、エイシオ様。私達も状況を把握したく思います」
「ん……では明日からの予定を立てようか」
ザピクロス様には食べ物を食べさせておかないと駄目だ! と俺は食事の用意を始める。
エイシオさんは家に戻ることに不満はなかったかな?
行き先は一緒になったので、三人で今後の予定を立てているようだった。
嵐が明日の朝にはおさまっていますように。




