エイシオさんの怪我※アユム視点
甲冑はどこかに置いてきたのか、三角巾をした左腕を下げたエイシオさんを見て俺は血の気が引いた。
「エッエイシオさんっ!! あぁ! け、怪我を……! だっ大丈夫ですかっ」
俺は狼狽してエイシオさんに、駆け寄った。
「ごめんよ。帰ってくるのが遅くなってしまって」
「そ、そんな事どうでも……怪我は、怪我は」
エイシオさんが怪我をした。
俺は自分でも驚くくらい動揺してしまって、馬鹿みたいに『大丈夫ですか』と繰り返して涙がボロボロ出てしまった。
泣いてどうするんだよ……。
だから無能扱いされてたんだよ……でも、どうしようどうしよう。
「アユム……ごめん大丈夫だよ」
「エイシオさん、大丈……」
ぎゅうっと包帯のない右手で、抱き寄せられた。
エイシオさんの顔が俺の首元に沈む。
「アユム……落ち着いて」
「は……はい、すみません」
首元に伝わえる温かいエイシオさんの体温。耳元で優しい声が響く。
じんわりと落ち着いてきた。
「ダンジョンで……少しミスをして左手を怪我したんだ」
「ま、魔物に……?」
「うん。先頭の僕が怪我をしたもんだから、後ろの……ほら今のパーティーは御高齢の方が多いだろう」
「はい……」
ぎゅうっと、また抱きしめられて、俺もエイシオさんの右の背中に腕を回して抱き締めてしまった。
「魔物は僕がすぐに切り落としたけど。それで、びっくりさせてしまってリーダーのブエシュッタさんがギックリ腰になってしまったんだよね」
「えぇ」
エイシオさんが一人メンバーになるだけで、老人チームも安泰だったんだろう。
それにしたってブエシュッタさん……びっくりでギックリって。
「それで治療院まで運んで、家まで送ってきたんだよ」
「エイシオさんが? 怪我をしてるのに……」
「僕のせいでもあるしね」
「そんな事……ないと思います。だってチームなんだし……」
うまく言えない。
「ごめんね、約束を破ってしまった」
「そんな事いいんです……エイシオさんの怪我が心配で……」
「ちょっと魔物に切られただけなんだけど……その時に呪いを受けてしまってね」
「の、呪い!?」
「心配しないで。呪いを消すことのできるヒーラーが今は留守にしていてね。呪いを消した後になら回復魔法ですぐに傷も治せるよ。ヒーラーが町に戻ってくるには四日後だから、それまでの辛抱だよ」
優しく一つ一つ丁寧に囁くように教えてくれた。
呪いを消す前に回復魔法で傷を治してしまうと、体内に呪いが残ってしまうんだとか。
「……痛くないですか?」
「大丈夫、痛み止めもあるからね。三角巾までして大袈裟に見えるけど、少し縫った程度さ」
「す、少しじゃないですよ。それに呪いの影響は……」
「大丈夫だよ」
「む、無理していませんか……?」
「……不便は不便だから……頼ってもいいかい?」
「もちろんです……! なんでもします……」
「……ありがとう……」
ぎゅうっとお互い抱き締めあった。
「あ……おかえりなさいエイシオさん」
「うん、ただいま」
俺はやっぱり無能だ。
お腹の空いた怪我人を玄関で立たせたままで、ずっと抱きついている事に気付いたのはもう少し経ってからだった。