彼を待つ※アユム視点
俺はエイシオさんを見送ってから、部屋中をピカピカにした。
なんでもできるエイシオさんが、家事全般が駄目なことには驚いた。
ずっと旅暮らしで宿住まいだったから、経験がなかったらしい。
きっと俺が教えたら、すぐ覚えて出来るようになると思うんだけど……。
そこは俺を気遣ってなのか、全て任せてくれている。
今日は早く帰ってきてくれるというから、俺は張り切ってグラタンを作ってワインも買った。
生活費も預かっているけど、それに加えて給料みたいなものまで貰ってしまってる。
いらないと何度も伝えたけどエイシオさんも譲らなかった。
でも飾る花を買ったり、ワインをサプライズで買ったりできると思って少しだけ貰っている。
俺は家庭菜園からトマトを収穫してきた。
真っ赤で美味しそうだ。
野菜を売る店が遠いから、作れる野菜は色々試している。
日本の暮らしに慣れていたから、そこそこ不便な面もある。
パソコンもスマホもないしね。
でも忙しさと自分の無能さを思い知る毎日から解放されて、エイシオさんと暮らす毎日は天国のようだ。
あの自分を認めてくれる優しい笑顔。
あんな笑顔を向けられた事は元の世界ではなかったからな……。
「優しいよなぁ……」
誰かの帰りを待つ毎日がくるなんて想像していなかった!
実際今の生活って……俺、奥さん。みたいだよな。
「ば、ばかな事考えてしまった!」
恥ずかしい想像をしてしまい、俺は叫んでしまう。
家にいると独り言が増えちゃうな。
夕方になって、あとはオーブンでグラタンを温めるだけ! 準備完了!
でも……全然エイシオさんは帰ってこなかった。
時計はないが、時間の経過で色が変わる石を見ると……もう21時くらいか。
早いという日は18時くらいには帰ってくるのに……こんな事は初めてだ。
「エイシオさんに……なにか」
心配になって、探しに行こうかとランタンを準備して玄関に向かったその時。
「ただいま。ごめんアユム、遅くなってしまって……」
ドアが開いた。
「エイシオさん……!」
俺はホッとして、また犬のようにエイシオさんにすがりつきそうになったがエイシオさんが左腕を三角巾で吊っている事に気付いた。