今後の話※エイシオ視点
三人での朝ご飯。
ザピクロス様はアユムの作ったスクランブルエッグを、尻尾をふりふりさせながら食べる。
僕だってアユムの目玉焼きは美味しくて、尻尾ふりふりさせたいけどさ、さすがに……。
「ふふ、エイシオさん。お耳がピコピコしてます」
「え!? あは……つい、美味しくて」
「えへ、嬉しいです」
恥ずかしいが、アユムは嬉しそうなので良しとしよう。
「転移者殿、パンをくれ」
「はい、どうぞ。あ~ん」
おいぃぃ! アライグマァ!!
「あ~ん……うむ、美味いな。転移者殿は料理も上手か。我は炎の神、すなわち家事の味方の神である故」
「あぁ! 確かにそうですね」
「相性ぴったりかんかんですな」
「はい!」
おおおお! アライグマァ!!
僕のアユムにあ~んされて相性ぴったりかんかんだとおぉぉぉぉぉぉぉl!!
ぐぐぐ……僕としたことが……完全に心を乱されている……。
深呼吸、深呼吸……。
「ゴホン、僕は朝食後に旅の準備をしてきます。馬車を借りて長旅の準備をしましょう」
チームはもう今回の事故で解散が決まった。
ギルドに書類を提出して終わりだ。
必要なのはまず馬車かな。
僕も馬車の運転くらいできるから、御者は不要で馬車だけ借りるか……。
「どのくらいの期間がかかるんでしょうか?」
「ん~一ヶ月くらいかな。ロードリア領内ではあるんだけど、テンドルニオンの神殿は境目のあるから……」
「そんなに」
「うん、まぁ冒険としては中級レベルだよ。問題ない。ただ領内に入る時に身分証明書が必要なんだ」
そこで僕の事もバレてしまうと思うんだが、うまい具合に突破しないとな。
「……でも、俺は……証明できません」
「あぁ、そこは裏の人間に頼もう」
「裏の……??」
裏社会。
世の中は、綺麗事ばっかりでは生きてはいけない。
異世界から来たアユムの存在をこの世に認めさせるためには、今は必要だ。
金さえ積めば何も聞かれず、身分証明書を作ってくれる連中がいる。
「勇者のくせに、えげつないのう」
くっ! どストレートが胸に刺さる!
「……ザ、ザピクロス様……仕方のない事ですから」
「しかしのう……」
「すみません! 俺が転移者なばっかりに……」
「そ、そんな事をアユムが気にすることはないんだよ」
「勇者よ、紙をもて」
「え……? 紙を?」
ご飯は食べ終わったので、アユムが片付け始めてくれた。
僕は言われるがままに紙を持ってきた。
「身分証明書を見せてみぃ」
「え? 僕のですか……はい」
すぐそこにある鞄から僕は財布を取り出して、身分証明書をテーブルの上の紙の横に置いた。
「ふむ……これと同じようにな……転移者殿はどこ出身にするんじゃ?」
「え? えーと……じゃあこのゼント村にしましょうか……生まれたのは21年前」
「はい、性別は男、職業は……無職……です……」
「ではアユム、僕の側近はどうだい? 冒険者のリーダーには必要な存在だ」
「そ、側近……はい!」
いつかは、夫婦……僕の配偶者になってほしい。
誰の配偶者、だなんて書く必要はないんだけど……。
二人で見つめあっていたら、ザピクロス様がパシン!と大きな尻尾をテーブルに叩きつけた。
「それではいくぞぉおおお!! はいぃいいいいいいいいいいいい!!」
「「おわぁ!?」」
ボシュ! と火の粉が舞ったかと思うと、紙にキレイに身分証明書が書き上がっていた。
「えっへん! どうだぁ!!」
アライグマのドヤ顔は初めて見た。
……ありがたいけど、偽造は偽造だよな。




