アユムの事ばっかり考えてしまう※エイシオ視点
アユムは驚いた事に、違う世界から来たという。
カイシャという沢山の人が働く場所でサラリーマンという仕事だったらしい。
自分は駄目な役立たずの人間だったと言う。
でも彼は山小屋を片付けて、美味しいご飯を作ってくれた。
初めての手料理は鶏肉のソテーと干した貝のスープだった。
「すごい……! すごいよアユム! とっても美味しい」
片付けをしていたら現れた行商から買った鶏肉。
塩コショウと何かのハーブだけなのに、皮がパリッとしていて油がジュワッと出て柔らかく、すごく美味しい。
それに干した貝を使ってスープにするだなんて思いもしなかった。
非常食としてそのまま食べる何倍も深い味がした。
どちらも数日経って固くなったパンにもよく合ってギルドの食堂の何倍も美味しい。
僕はいつの間にか、笑顔になっていた。
「本当ですか? 貧乏だから自炊はいつもしていたので……俺もこうやって一緒に食べて喜んでもらえて、すごく嬉しいです。こっちの世界の食材が元の世界とよく似てて良かった」
照れてはにかむ笑顔がとても可愛いと思った。
アユムは男性だとわかっているが、どうしても『可愛い』と心臓がくすぐられたように思ってしまう。
こんな感情は初めてだ。
そして僕の毎日は一変した。
アユムはすごく控えめで、買い物に行っても欲しい物を言わない。
出会った時の服はとても変わったスーツという服だったので、こちらの普段着を一式買ったが何度もお礼を言われた。
いつも遠慮しているアユム。
もっとワガママを言ってほしい。
じーっと見るのは、いつも調理器具だ。
ずっと戦い続けて、甲冑や剣を買っても有り余っていた金。
それをアユムのために遣えると思ったら、今までの戦いも無駄ではなかったように思える。
家にはナイフとフライパンしかなかったので、包丁や鍋、お玉にフライ返し。
調味料なんかを買って帰るとアユムは驚きながらもお礼を言って綺麗な台所に丁寧に仕舞う。
そして魔法のように、そこから美味しい料理を作ってくれるのだ。
今日はダンジョンの目的地まですぐ到達させて、早く帰ろう。
一緒にトマトのグラタンを食べるのがとても楽しみだ。
そうだ、ワインを買って帰ろう。
ほろ酔いのアユムはとても可愛い。
ダンジョンを進みながらも僕はアユムの事ばかり考えてしまう。
こんな事は初めてだ。
でも少しの不安も思いだす。
アユムは……。
「あっ……!」
アユムの事ばかり考えていたら、突然の魔物への対応が遅れて僕は初めてダンジョンで怪我をしてしまった。
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