道に迷う※アユム視点
どうしよう……完璧に迷ってしまった。
此処では夜も当然ながら暗い。
店先の明かりが多い飲み屋街なら兎も角、少し外れれば外灯なんかない。
途中で大きな声をかけられて、驚いて逃げたらますますわからなくなってしまった。
危険度が日本とは違うんだ。
男でも夜の一人歩きはしてはいけないって……エイシオさんに言われてたのに。
それなのに女性を店に置いてきて……俺は最低だ。
でもそんな事を考え改める余裕もなく、ウロウロしていた。
そしたら雨が降ってきて、いつの間にか森の手前の資材置き場みたいな場所まで来てしまっていた。
もう覚悟を決めて木材の影に俺は潜り込む。
木材は少しチクチクしてるけど、ぐちゃぐちゃの泥の上に座るのは避けられた。
俺一人分のスペースがあったから雨も少しは避けれる。
「はぁ……」
何やってんだろう……。
情けないにもほどがあるというか、酒の場で逃げ帰るなんて。
しかも帰れてないし……。
雨の夜……真っ暗だ。
此処だって安全とはいえない。
腰にダガーもあるけど……使えるわけもない。
「はぁ……」
ラミリアさんに言われた事がグルグル、酔いと一緒にまわる。
俺、この世界に来て幸せだって思ってた。
此処に来て良かったって、思ってた。
帰りたいなんて微塵も思ってなかった。
それって、生き甲斐だとか夢とか、仕事から逃げられたから……だったのかな。
働かなくてラッキーって、思っての幸せだった?
ご飯作ってるだけでいいんだって、思っての幸せだったのか……?
エイシオさんのお金で生活できて良かったって……?
「……違うよ……」
誰もいない雨音しか聞こえないのに、俺は悔しくて悲しくて声に出していた。
「エイシオさんと、一緒にいられる事が……」
そうだ。
俺は、ただ……あの人との毎日が、何もない平和な日々が……。
「それが幸せなだけだったのに……」
更にラミリアさんに言われた事が頭をグルグル回る。
俺がエイシオさんを解放しなきゃ?
俺も何か夢とか見つけなきゃ……?
俺達……離れて……仕事して……そしてエイシオさんは、いつかは誰かと結婚?
雨が強くなっていく。
座った俺のすぐ頭の上にある木の板がバタバタ激しく揺れて、すごい勢いで水が落ちていく。
あぁエイシオさんに借りた服が汚れちゃう。
ごめんなさいエイシオさん。
迷惑かけてばかりで……許してくれるかな。
「寒い……エイシオさん……」
蒸し暑い夜だったのに、濡れて寒気がしてきた。
たった数時間で、エイシオさんが物凄く距離が離れてしまったような気がして……悲しい寂しい。
「エイシオさん……のとこに帰りたい……」
涙が溢れてきた時、俺の腕が光った。
「えっ……!?」
ザピクロスの腕輪が炎のように輝いていた――!




